【連載・復旧の光と影 二つの能登災害(3)】地域を守る業者がいない | 建設通信新聞Digital

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【連載・復旧の光と影 二つの能登災害(3)】地域を守る業者がいない

 石川県輪島市に本社を構え、金沢市に本店を置く宮地組は、奥能登地域では数少ない直轄工事実績企業だ。宮地雄大社長は輪島市内の実家で被災。大津波警報が発令され、高台に避難し、ややあって町場の方向に火の手が上がるのが見えたという。社員は本社に40人以上いるが、自宅が全壊か半壊以上が半数以上で、ほとんど全員が避難した。社屋は「ほぼ奇跡的に無傷だった」ため、発災翌日の2日から道路啓開や個人住宅のブルーシート張り、ごみ収集運搬などやれることは何でもやった。

隆起した鹿磯漁港


 今、県や市の復旧工事も出始めたが、不調が続いているという。奥能登以外の金沢市などの県内業者とJVを組んでの応札も可能となったが、100㎞以上離れた遠隔地からの経費を満足に認められず、作業員の宿舎を確保することもままならないことがネックとなってJV組成に二の足を踏む業者も多く、「県にはこれら経費負担に適正な対応をなんとかお願いしたい」と切に訴える。

 公共事業削減などに伴い、この20年ほどで市内でも多くの下請け業者が廃業していった。現下の膨大な仕事量に比して下請け業者は圧倒的に少なく、金沢まで行かないと確保できないとこぼす。人件費と資機材の高騰についても、県・市に対して国に準じて高騰分を設計変更で見てほしいと強く求める。

 震災復旧絡みで中止がかかっていた国の工事も動き始め、新規工事も出てきた。「(復旧以外の工事は)未来のために大事であり、おろそかにできない。もちろん復旧も急がねばならない。双方で機材の取り合いになっている。仕事の量が多すぎ、キャパシティーを超えている。相当効率を上げ、人員のバランスを取りながらやらないと社員が壊れてしまう」と危機感をあらわにする。2024年問題と復旧促進という、いずれも待ったなしのテーマが同時に求められ、軋みを上げる。持続可能な経営環境のためのシステムづくりが急務となっている。

 遠方から来る作業員用の宿舎を被災した地元建設業者自らが整備する取り組みも出てきた。珠洲建設業協会(石川県珠洲市)は不動産会社と連携し、出資、運営してもらうスキームで同市内に木造(モバイルユニットハウス)で完全個室の96戸分を年明けに完成させた。ほぼ満室という。同協会の明星加守暢会長は「ホテルなども被災し、遠方からの作業員の宿舎確保が課題だ」と指摘。規模拡大も検討しており、「応援業者の拠点にしたい」という。

 能登町で建設本業のほか、ガソリンスタンドや農業生産、肥料・農薬販売、米穀店などを多角的に展開している北能産業。建設部門は奥能登地域では一般的な、技能者も正社員として抱える雇用(直用)形態を取っている。福池功社長は「地域を守るのがわれわれの仕事だが、それは地域の雇用も担うということ」と力を込める。発災から1週間以上、携帯電話がつながらず、地区の協会員12、13社への連絡は自ら車で回り、各社が自主的に班を編成し、啓開に当たった。

 ここ20年くらいで地区内の業者が続々と廃業し、いなくなった。除雪に手が回らず、管内は造園業者や「重機屋」が除雪を請け負っていると唇をかむ。若手人材の確保は非常に厳しい状況が続くが、「当社は直用だし、今後も、社員さえいれば建設業として何とか生き残れると確信している。震災で当面仕事もあるから」と前を向く。

 「復興に向けては、住んでいるわれわれがこの地域をこうしたい、まだここに残って生活していくのだという思いや考えを発信していかねばと思う。費用対効果で考え、生産性のない地方にはお金を入れないという考え方もあるようだが、生産性だけで捉えられない人の営みというものがここにある。国民が皆同じく幸せにならなければならない。(災害で)マイナスになったのをゼロに戻すのが国の仕事ではないか。その後は俺ら地元が自力でやる」

 

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