【"トゥクトゥク"走る先端現場】大成建設、津島道路新内海トンネル工事 | 建設通信新聞Digital

5月1日 木曜日

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【“トゥクトゥク”走る先端現場】大成建設、津島道路新内海トンネル工事

坑口前でトゥクトゥクを挟んで。刀根工事課長代理(左)と浅井所長


◇NATMの無人化施工へ多彩な技術投入

 大成建設が施工する国土交通省四国地方整備局発注の「津島道路 新内海トンネル工事」が最盛期を迎えている。トンネル延長2541mのうち、3月11日現在で約1700m超の掘削が完了した。四国地方を8の字で結ぶ高規格道路の一部を構成。愛媛県南西部に位置し、広域交通ネットワークの強化に対する地域からの期待も高まっている。NATMの無人化施工を見据え、次世代のスタンダードと目される削岩機「フルオートコンピュータジャンボ」をはじめ、最先端技術を駆使する現場を訪ねた。 羽田空港から公共交通機関を利用して約8時間。現場代理人を務める浅井伸弘所長は、「東京からだと最も遠い現場の一つ」と笑顔で迎えてくれた。

 延長約10.3㎞の津島道路は、供用中の宇和島道路に接続する。このうち新内海トンネル(仮称)は、愛南町と宇和島市の境界に計画された。内空断面積(覆工完了時)76.3㎡、非常駐車帯部分の最大掘削断面積105㎡に達する。

 トンネル延長は2541m。通常この距離であれば両方向から掘削することが多いが、「宇和島市側は2t車程度しか通行できず、設備設置が困難なため、愛南町側から上り勾配で片押し施工を進めている」と浅井所長は説明する。

新内海トンネル 位置図


 工事は2020年12月から始まった。当初の想定以上の湧水などの課題を乗り越えながら、現在は2交代制で施工している。1回の発破ごとに1.5m進み、1日最大3発破で計4.5m掘進。一歩ずつだが、着実な工事により、現時点で全体の3分の2程度まで掘り進めた。

フルオートコンピュータジャンボ(右奥)を使った削孔作業


◇現場は変革期

 この現場を語る上で外すことができないポイントは、さまざまな最先端技術の投入だ。浅井所長は、担い手不足などを背景に、「現場は変革期にある。無人化・省力化に向けた技術確立の最前線を担いたい」と意気込む。
 代表的な技術の一つがフルオートコンピュータジャンボだ。余掘り低減と掘削面の平滑化や、省人化による生産性向上、穿孔データに基づく最適なドリルプランの作成を実現する。「切り羽付近の作業を減らすことで、安全性が向上する」と強調する。

 プロジェクションマッピングによる地山の可視化、バッチャープラントの新技術によるコンクリート品質の安定化に加え、デジタルデータを活用した現場管理システム「T-iDigital Field」やベルトコンベアの破断を未然に防ぐベルト傷検知システム、生コン情報をリアルタイムに見える化する「it-Concrete」の導入など貪欲に新たな技術を使いこなしている。

 さらに、ウェブ会議システムを使って、技術センターの岩盤チームと現場写真を共有し、最新の切り羽の評価を多角的な視点で分析している。一部区間ではVR(仮想現実)での切り羽観察システムにより、3次元計測データを忠実に再現し、安全な近接観察も実現している。

見える化の一環で、近隣公共施設で動画を配信


 こうした情報はオンラインでどこからでも共有できることから、「将来の無人化を考えると必須の技術になる」(浅井所長)と見据える。

トゥクトゥク用の停留所も


◇施工以外も独自策

 施工以外でも、独自の取り組みが目を引く。例えば、地域のシルバー人材を工務補助に活用する取り組みは、派手ではないが、担い手不足が深刻化する中、大きな成果を上げているという。

 そして現場の魅力化に向けた一つの目玉施策が、タイなどにある三輪自動車「トゥクトゥク」の導入だ。7人乗りで見学やパトロールに活用している。浅井所長は、「トンネルの現場はどこも同じような景色。訪れる人に印象に残る現場にしたかった」と思いを語る。国内の現場で見かけたことのない斬新な取り組みとなるが、導入から1年が経過する中、利用者からの評判も上々だという。

 このほか、工事場所近くの公共施設で工事の説明動画を放映し、現場の“見える化”を推進している。ここでも一工夫を施し、映像を見た人がリアクションできるデジタルカウンターを設置した。これまでに7000回超の反応を得るなど、地域との対話促進に一役買っている。

◇貫通目前の山場

 今後は、貫通目前の大きな山場に全力を注ぐ。最小土被り5.5mという小土被り区間が約190mにわたるためだ。半年後にはその区間に到達する計画で、現在、発注者とともに施工計画を検討している段階だと明かす。

 浅井所長は完成に向け、「最難関の区間を無事に通過できるよう万全を期す」と決意を新たにする。監理技術者の刀根航平工事課長代理も「全員で協力し、無事故で難所を乗り越えたい」と力を込める。

 浅井所長は今回の現場を含めて14本のトンネル工事を手掛けたスペシャリストだ。「新しいものが好きで、現場を面白くしたい。新たな挑戦には失敗もあるが、誰かが試すことで次の技術開発につながるはず」と信じている。

 刀根工事課長代理も「自分たちの挑戦が将来を変えるかもしれない。そんな瞬間に立ち会いたい」と意欲を見せる。

 こうした2人の前向きな姿勢が現場全体の士気向上にもつながっているように感じられた。挑戦とチームワークで乗り越えたその先に、新たな光が見えてくる。トンネル工事の未来は、この現場から始まっている。

 

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