【サントリーホール】「音の宝石箱」創建時の姿と響きを継承・革新 さらに使いやすく | 建設通信新聞Digital

5月7日 火曜日

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【サントリーホール】「音の宝石箱」創建時の姿と響きを継承・革新 さらに使いやすく

「世界一美しい響きを持つホール」のコンセプトを継承し、開館以来最大の改修を実施

 1986年の開館以来、日本のクラシック音楽界をけん引するサントリーホール(東京都港区)が過去最大規模のリニューアルを経て再開館した。「世界一美しい響きを持つホール」をコンセプトに、創建当時の姿と、建設時に助言した世界的な指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤンが「音の宝石箱のようだ」とたたえた響きを継承する取り組みの陰には、事業主のサントリーホールディングスや安井建築設計事務所、鹿島など関係者の熱意と並々ならぬ苦労がある。
 父・佐野正一が設計し、10周年、20周年の節目の大規模改修を含めて継続的に携わっている安井建築設計事務所の佐野吉彦社長は「時代とともに変化を迫られる建築が多い中、創建当時の姿を保ち続けるのはとても難しい」と強調する。
 「伝統の継承と革新」をコンセプトに7カ月にわたり休館して行われた今回の改修では、客席いすを当時と同じ素材・色・柄の生地を使用して張り替えた。生地はバックハウゼン社(オーストリア)のものだが、設備更新などで当時と同じものは製作できないとされ、妙中パイル織物(和歌山県橋本市)が担当した。安井建築設計事務所の木村佐近専門役は「20年目の改修時にも一部をお願いした経験が生きた」とし、将来を見越したリスクの分散が奏功したと話す。

創建当時と同じ素材などを使い張り替えた客席いす

 全面張り替えた大ホールのベイマツの舞台床板は「より低音が響くように下地の構成を変更し、従来の37分割から39分割にすることで使い勝手を高めた」(木村氏)。客席通路の天井裏にブレースを挿入して、耐震性を高めるなど、「一見では分からない部分にもさまざまな工夫を施した」という。
 より使い勝手を高めるダイバーシティーデザインでは、段差がないアプローチを持つウエストエントランスと、その奥に大ホール客席用のエレベーターなどを新設。大ホール2階に車いす専用スペース、1階には常設スロープをそれぞれ設けた。「来場者から要望が多かった」というトイレは、大ホールを始め複数個所に増設。入り口と出口を完全に分離する新たな動線をつくりだし、混雑の回避に努めた。
 照明は一部を除きLED化した。特に大ホールのシャンデリアは「仕様に耐えられる製品がぎりぎり工期に間に合った」(木村氏)。
 カラヤンの助言で設置された世界最大級のパイプオルガンは、製作したリーガー社の職人が構台を組んで5898本のパイプを1つずつ分解・清掃・調音するオーバーホールが施された。
 佐野社長はカラヤンの言葉を引用し、「このすばらしい宝石箱を将来にわたって維持していくため、それぞれの関係者がしっかりと次代へとバトンを受け渡し、守り続けている。設計者冥利(みょうり)に尽きる建物だ」と、ホールに集う人々が紡ぐ“ハーモニー”こそが建築の理想型と語る。

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