【BIM未来図】シグニファイ (下) 20種の3次元ツール駆使し最適照明/浜松球場は設計通りの数値 | 建設通信新聞Digital

9月25日 木曜日

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【BIM未来図】シグニファイ (下) 20種の3次元ツール駆使し最適照明/浜松球場は設計通りの数値

「設計通りの数値を導き出すことができた」。浜松球場の照明計画を手掛けたシグニファイジャパン(東京都品川区)の篠塚泉バリュー・クリエイション部アプリケーションスペシャリストは手応えを語る。場内を189エリアに細分化した実測では内野が平均3700ルクス、外野が平均2400ルクスとなり、JIS基準の2倍近くの照度を確保した。セカンドベース付近は2800ルクスを確保し、左右の誤差もほぼなかった。

(左から)VDCの林氏、シグニファイジャパンの篠塚氏と原田氏

浜松球場の夜間照明塔塗装と照明LED化事業は、公募型プロポーザルで東光高岳・ミライト・ワン・松川電気JVが特定され、シグニファイジャパンは照明設計の協力企業として参加した。同JVが示した提案は照明塔2基同時施工による1カ月の工期短縮とともに、日本プロ野球のホームスタジアムにも劣らない演出機能を含めた光環境の実現だった。「実は投光器の角度が1度ずれだけで、照度は100ルクスも落ちてしまう。設計通りの数値を確保できたのは精度の高い施工が実現した証しでもある」と強調する。

設計段階ではドローンで取得した球場全体の点群データを、オートデスクのリアリティーキャプチャーソフト『ReCap Pro』を使ってビジュアライゼーションソフト『3ds Max』のデータ変換した上で、モデリング、レンダリング、照度、演出など計20種類ほどの専門ソフトと使って進めてきた。「主軸になる3ds Maxだけでは実現できない。相性の良い専門ソフトを適材適所で使い分けながら最適解を導いた」と説明する。

シグニファイジャパンの設計を支えたパートナーのVDC(東京都千代田区)の林和弘代表も同調する。BIMの推進役を担っていたオノコム(愛知県豊橋市)時代から点群データと建物データを統合した統合モデルを軸に作業を進めてきた経験から「的確な計測方法でベースとなる点群データを取得することが重要であり、それを的確なツールを使って統合モデル化してきた」と語る。

照明塔は高さ40mに達し、球場周辺には樹木もあり、現況の適切な3次元計測には豊富な経験とノウハウが求められた。現況データと建物データとの統合作業では、東光高岳JVから提案時に共有された球場の3次元データが大いに役立った。通常は竣工図をもとに3次元データ化することが多いだけに「より迅速な作業を実現する後押しになった」と両氏は口をそろえる。

篠塚氏は「スポーツ照明は競技エリアをただ明るく照らせば良い訳ではない。競技者の視覚に照明の光が当たらないような緻密な設計が求められる。しかも照明基準は競技ごとに細かなルールがあり、設計には多くの実績や経験も大切。照明パターンの最適解を導く上で、3次元モデルデータの活用が欠かせない。浜松球場では当社の強みを最大限に発揮できた」と力を込める。

照明塔のLED化が完了した浜松球場では、8月1日にこけら落としとなる「中日ドラゴンズ」と「くふうハヤテベンチャーズ静岡」によるウエスタン・リーグのナイター試合が行われた。JVスポンサーの東光高岳によるライトニングショーも催され、新しく生まれ変わった照明塔による光の演出が来場者を魅了した。

リニューアルされた照明塔は1基当たり72個設置されていたHIDランプ(高輝度放電灯)が35、36個のLED投光器に変わり、大幅な省エネ効果も実現した。球場関係者からは「グラウンドに立つと、以前よりも照明塔の明るさが際立っている」との声が聞こえてくる。緻密な3次元解析に基づく計算されたシグニファイの光は、躍動する競技者をくっきりと映し出している。



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