【ミュージアム・テクノロジー】持ち運べる/展示型収蔵など博物館の可能性を追求 丹青社・洪恒夫氏に聞く | 建設通信新聞Digital

5月2日 木曜日

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【ミュージアム・テクノロジー】持ち運べる/展示型収蔵など博物館の可能性を追求 丹青社・洪恒夫氏に聞く

学術文化総合ミュージアム・インターメディアテク

 丹青社の寄付で東京大総合研究博物館(UMUT)にミュージアム・テクノロジー寄付研究部門が開設されて15年が過ぎようとしている。展示・デザインの可能性と、ミュージアムそのものの可能性を追求する実践型の研究は、博物館を分散携帯する「モバイルミュージアム」や、展示と収蔵の中間領域「ミドルヤード」を体現する施設などに成果として結実。「一流の研究者との協働、貴重な収蔵資料はデザイナー目線でとても魅力的だ」と語る同部門特任教授で丹青社クリエイティブ局長兼プリンシパルクリエイティブディレクターの洪恒夫氏に、これまでの成果と今後の展望を聞いた。

■一流の研究者と協働しデザインの可能性探る

丹青社クリエイティブ局長兼プリンシパルクリエイティブディレクター、UMUT特任教授 洪恒夫氏

 「展示のプロとして、テーマを形にするのが仕事」と語り、「常に先駆的なUMUTの取り組みを実験的な構成やデザイン手法を取り入れて、どこにもないデザインと魅せ方を研究している」と、この産学連携事業への手応えを口にする。2002年の連携後に最初に手掛けたノーベル賞受賞者・小柴昌俊氏の功績を集めたニュートリノ展を皮切りに、毎年2本程度、これまで25本の展示を新たなアプローチで手掛けてきた。

■持ち運べる博物館実現、モバイルミュージアム
 研究成果の1つである“モバイルミュージアム”は、「どこにでも標本や資料を持ち出すことで、より多くの人にミュージアムとの接点を持ってほしい」と、外部に発信する分散携帯型のミュージアムを提示。標本を単体ケースに展示するコンパクトなユニットに収めることで、学術資源を流動資本化し、オフィスのロビーなどに展示する新たな産学連携のあり方で、15年の品川シーズンテラスへの本社移転を機に常設しており、ビジネスの空間に、文化の香りを持ち込んだ。
 その概念をスケールアップさせた“スクール・モバイル・ミュージアム”は「学校の教室がほぼ同じ規格という点に着目し、展示内容をモジュール化した」ことで、都内や札幌市の複数の小学校で同一内容の展示を巡回。子どもが身近に博物館に触れるきっかけを創り出した。
 モバイルミュージアムで最大規模となるのが東京駅前にあるJPタワー内の『学術文化総合ミュージアム・インターメディアテク』だ。好立地もあり「期せずに東大の貴重な学術資料と遭遇できる」というコンセプトを体現するとともに、学芸事業もアウトリーチ(館外活動)することで、産学連携事業の新たな形態も示した。洪氏は「インターメディアテクは、日本郵便とUMUTのコラボレーションに丹青社が参画したプロジェクト。新しい事業形態を学外で大規模に展開し、実際にどのように空間に落とし込むのか、知恵を出し合いながら、つくり上げていった」と印象深いプロジェクトの1つに挙げる。

■収蔵品と活動同時に見せるミドルヤード
 ミュージアムスタイルの実践型研究としては、展示・公開部分に当たるフロントヤードと、非公開の収蔵・研究機能のバックヤードの中間領域となる展示型収蔵の“ミドルヤード”の概念を打ち出した。廃校をリノベーションした『長野市立博物館分館戸隠地質化石博物館』に次いで、『宇宙ミュージアムTeNQ』には研究室分室を設置。ガラス張りにすることで「研究する姿を見せるとともに、その成果がリアルタイムで展示に反映される」という。
 また、UMUT本郷本館の改修では「収蔵庫不足という多くの博物館が直面している課題」を解決するため、展示スペースに研究機能を移設することで、よりバックヤードに近いミドルヤードを持つ『UMUTオープンラボ』を誕生させた。
 これらの研究成果を大きく生かしたプロジェクトが『静岡県立ふじのくに地球環境史ミュージアム』だ。日本初の環境史をテーマとして、高校をリノベーションした特徴的な博物館で、16年の日本空間デザイン大賞を始め、国内外から高く評価された。

静岡県立ふじのくに地球環境史ミュージアム

 また、「普段、見えないものを見せる」というミドルヤードの概念は、現場見学施設や各地のインフラ見学ツアーなどの人気にも裏付けられており、今後の展開が期待される。

■ICTで国内外を接続、体験そのものモバイル
 開設から15年を迎え多くの研究が成果に表れている中、モバイルミュージアムの進化形では「体験をモバイルさせる」という“ミュージアム・ネット・アライブ”を展開。国内外の博物館などの空間同士をICTで接続し、それぞれの施設で対話型・双方向型の体験を試行している。
 また、音声による博物館体験ができる“ザ・ミュージアム~音で聴く博物誌~”では、西野嘉章前UMUT館長の声による新感覚の博物館体験を提供するなど、従来の博物館の概念にとらわれない新機軸を打ち出している。
 今後について「既存の資源を有効活用したミュージアム活動にチャレンジしていくことがテーマ」と語る。その上で「さまざまな切り口で試みてきた研究から、より実践的なものに移行していく段階にある」とし、「地方自治体や民間事業者が東大の研究成果を使って新しいサービスを提供できる事業を創造していきたい」と、ミュージアムが持つ可能性をさらに追求していく考えだ。

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