
2026年熊本地震で国内でも類を見ない被害を受けた妙見第一橋は、地震動に加え、橋脚直下を通る日奈久断層の強制変位が同時に作用した国内でも極めて特異な橋梁被災となった。NEXCO西日本は復旧に向けた技術検討を本格化させており、その成果は今後の断層近傍橋梁の設計・維持管理にも重要な知見となりそうだ。
妙見第一橋は、南九州自動車道八代JCT~八代南ICに架かる鋼橋で、1998年に供用を始めた。橋長は上り線248.5m、下り線501.2m。下り線は鋼鈑桁、鋼箱桁、鋼床版箱桁を組み合わせた4連続桁、上り線は単純鈑桁と連続鈑桁、鋼床版箱桁で構成し、高速道路ネットワークを支える重要橋梁の一つとなっている。
今回の被災を特徴付けるのは、地震動と断層変位の二つの外力が同時に作用した点だ。地震後の測量では、断層を挟んで隆起と沈下が発生し、上り線で最大1.2m、下り線で最大1.3mの高低差が確認された。水平方向にも最大約0.8mの地盤変位が観測され、断層線を境に橋脚位置が大きく移動した。橋梁は地盤の急激な変位に追従できず、支承部には設計で想定した変形能力を大きく超える力が作用した。
この結果、強い揺れによる慣性力と断層変位が重なり、支承部は破壊・脱落し、桁同士や橋脚との衝突で桁の座屈やウェブのはらみ出しなどが起き、上下線とも甚大な損傷を受けた。支承や上部構造に対して、断層による不均等な強制変位が想定を大きく上回ったことが被災拡大の一因とみられる。
一方で、阪神・淡路大震災以降に整備された落橋防止システムは一定の効果を発揮した。桁連結装置や変位拘束構造、十分な桁かかり長により、支承が破壊されながらも桁は橋脚天端に踏みとどまり、完全な落橋は回避した。上部構造は大きく損傷したものの、橋全体が崩落する事態を防いだことから、「耐震性能3(落橋防止)」が実際の巨大地震で有効に機能した事例として注目に値する。
今後の復旧では、余震による2次災害防止に向け、仮受台による応急支持で不安定な桁を確実に支える必要がある。依然として橋は不安定であり、調査機材を直接橋上に搬入することが難しいため、応急支持と並行してボーリング調査を進めることになる。地盤や基礎杭の詳細な調査を実施し、断層変位によるせん断や変形など地中部の損傷状況を評価した上で、本格的な復旧設計に反映させる。
復旧に当たっては、橋が妙見トンネルに近接していることも大きな技術的課題となる。断層変位で橋の縦断勾配が大きく変化しており、位置を変えられない既設トンネルや道路へ路面をどのように滑らかにすり付けるかが設計の最大の難所となる。橋単体ではなく、トンネルを含む道路全体の整合を図りながら、安全性と走行性を確保する復旧方法の検討が求められている。
今回の被災は、断層近傍橋梁では従来の耐震設計だけでは十分とは言えず、地震動に加えて地表断層変位を前提とした設計思想が求められることを浮き彫りにした。単なる原形復旧ではなく、大規模地震で同様の変位が発生しても落橋しにくく、損傷後の点検や部材交換、ジャッキアップなどの復旧作業を容易にする復旧性や冗長性を備えた構造への転換が必要になる可能性もある。
妙見第一橋の復旧で得られる知見は、今後の断層近傍橋梁の設計や耐震補強、さらには災害に強い道路インフラ整備の方向性にも大きな影響を与えることになりそうだ。
