笹子トンネルの事故調査でわかったように、接着系アンカーの場合、樹脂の劣化や施工ムラによるボルトの強度不足といった問題がある。
これに対してAAP膨張アンカーは、ナットを回す拡張板が広がってコンクリートに押圧させ、アンカー体が全周に膨張することで面の力による圧倒的な強度を発揮。引張力を加えれば加えるほど側板の押圧が大きくなって強度を高める。強度の源が物理的・構造的な仕組みであるため劣化とは無縁で、穿孔した孔の状態変化に追従して広がるため設置初期の保持力を維持し続ける。
強さや太さ、長さも必要に応じて変えることができ、1本のボルトにアンカー体を複数個配置することもできる自由度の高さと、孔に差し込んでナットを締め込むだけで容易に設置できる優れた施工性も大きな特長で、作業者の技量による施工品質の差が生じにくくなっている。
同社では製品開発後も改良や製品ラインアップの充実に取り組んでおり、ステンレス製に加え、カーボン入り樹脂の製品を開発した。この樹脂製でも既にNETISの登録を取得している。
開発当初はステンレス製より強度や耐久性が落ちるという懸念があった。しかし、試行錯誤の末に生み出したカーボン入り樹脂製は高い耐久性を持ち、実験してみるとボルトが破断するまで耐え抜いた。安藤社長は「樹脂が鉄に勝つとは信じられない気持ちだった」と振り返る。
ステンレス製と比べ、軽量性とそれに伴う施工性の向上、価格も抑えることができるのが強みで、錆びないため水中で使えるなどより幅広い用途に対応できる。これだけのメリットがあり、強度面の不足がないとなれば、一気に普及が進む可能性を秘めている。これからは「樹脂は弱そう」という一般人が漠然と抱きがちなイメージをいかに払拭できるかが鍵になりそうだ。
NETISをはじめとする性能の証明をもらい、製品ラインアップも拡充したことで、今後はその展開に注力していくことになる。現在はトンネルをはじめ土木構造物の耐震補強工事など15現場で本採用されており、今後も土木工事が中心になると見られるが、安藤社長は高い施工性と樹脂の防錆性などを武器に「港湾関係の防舷材を設置する用途も見込めるのではないか」と期待を寄せる。
◆米で認証申請、海外展開にも攻勢
また、思わぬ分野からの引き合いもあった。知人に頼まれて米国・ロサンゼルスで9月に開催された工作機械の展示会『WESTEC2017』に出展してみたところ、グローバル展開する企業から高い関心を示された。「大型機械のアンカーは強度と安定、精密さが求められ、太径が必要となるケースがあることがわかった」と、今後は国内・海外ともに大手機械メーカーへの営業活動も積極的に取り組んでいく。
さらにこの展示会を通じては、海外の製造工場からも精密ロボットの吊り下げ固定用途での問い合わせもあるなど、未知の用途拡大の余地がありそうだ。
もちろん、土木関係での海外展開でも攻勢をかける。現在、米国の認証機関・ICC-ES(国際コード委員会)への申請作業を行っており、このお墨付きが得られれば、代理店の選定や拠点の設置などの手を打っていくことになる。