【本】国内外のインスタレーションや建築探訪で探る「建築とアート」 著者・郡裕美さんに聞く | 建設通信新聞Digital

4月24日 水曜日

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【本】国内外のインスタレーションや建築探訪で探る「建築とアート」 著者・郡裕美さんに聞く

建築家、スタジオ宙(ミュウ)主宰、大阪工業大学教授 郡裕美さん

『夢見る力 建築とアートを融合する』(王国社 1850円+税)

 書名の『夢見る力』は著者、郡裕美さんが卒業設計のタイトルで初めて使った言葉だという。それ以来現在まで、郡さんの人生のキーワードでもある。「夢見る力を育てれば、いつか世界が変わります」。本書は、そうした信念で「世界」を変えてきた国内外のインスタレーションや伝統的建物再生などの軌跡だ。副題の「建築とアートを融合する」は、郡さんが作品づくりで常に意識してきたことだが、本書をまとめてみて、建築とアートの根源的な違いもわかったと話す。
 本書は、2008年から13年まで愛知建築士会の会報で連載した文章を中心に、17年に書き下ろした「伝統的建造物の再生と新たな価値の創造-佐原 町並み再生プロジェクト」(千葉県香取市佐原地区)を加えて構成している。佐原の取り組みは15年の日本建築学会賞(業績)を受賞している。海外でのインスタレーションや建築探訪は、日本の建築家が訪れることのないような場所が多く、とても興味深い。

『夢見る力 建築とアートを融合する』

 インスタレーションで取り上げているベルリンの廃虚になった教会での作品は、第二次世界大戦で半壊した建物のアーチ部分に半透明のスクリーンを張るというもの。「その場に身を置くことで元々の建築空間を想像してみました。ここにアーチがあって、ステンドグラスから朝日や夕日がさしていた光景などです。そこからいろいろ考えて、スクリーンを張ることを思いつき、鑑賞者はそこにできた光の道でタイムトラベルを楽しむという作品です」
 作品を生み出す過程では「いつも悶々としている」と話し、そのプロセスは後半の「ニューヨーク、ガラス工房体験記」に詳しい。
 この著書を通して建築とアートの違いが改めて明確になったエピソードとして、ブラジルの建築家の自邸を訪れた時の体験も書かれている。
 「40年ほど住んでいるという自邸は、増築を繰り返した心地良い素敵な空間がいくつもありました。思いつくままに増築した結果こうなったと言うのです。建築なのですが彼のアート作品ですね。建築は普通、部屋が何室でどこに何を配置するかを決めてつくりますが、アートは考えながらつくっていくのが基本です。この違いが改めてわかりました」
 書き下ろしの千葉県香取市佐原地区の町並み保存では、アート作品をつくるときに近い、先の見えない修復再生のプロセスも紹介している。
 「私はクライアントの要望や安全性、機能を満たしたうえで、人の感性に訴えるもう一つの価値としてのアートを付加することが大切だと考えています。それと建物やまちの再生では、美しさを発見する感性のほか、ものや記憶に対する愛情がないと良いものはできないとも思いますね」

■作品の舞台裏を読む楽しさも
 本書は、愛知建築士会の会報に、2008年から13年まで20回にわたって連載した国内外のインスタレーションや伝統的建物の再生のほか、17年の書き下ろしとして千葉県香取市佐原地区の街並み修復・再生の取り組み「伝統的建造物の再生と新たな価値の創造」を収録している。海外の美術館から招聘されたり、あるいはさまざまなアーティスト・イン・レジデンスに滞在しながら、数多くのインスタレーションや創作活動に参加し、その様子を細かく描写している。著者の郡さんは完成した作品からはそのプロセスの膨大な試行錯誤はわからないかもしれないと話し、その舞台裏を読むのも楽しい。

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