【発行50倍に】グリーンボンドの活用拡大 資金集中の大きな流れに | 建設通信新聞Digital

4月20日 土曜日

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【発行50倍に】グリーンボンドの活用拡大 資金集中の大きな流れに

 産業界による資金調達の多様化が進むなか、環境配慮型プロジェクトの資金を調達する「グリーンボンド」(環境債)の存在感が徐々に高まっている。調達資金を自社の目玉となる大型開発プロジェクトなどに充てるケースもあり、100億-200億円といった規模の調達も珍しくない。さまざまな業種でのESG(環境・社会・企業統治)経営志向の高まりや、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」への貢献を目指すグローバル企業の意識などが背景にありそうだ。【ESG経営志向の高まり、SDGsへの貢献目指し/100億オーダーで調達/環境配慮、投資主体も多様化】

◆大型開発で活用の動き
 ANAホールディングスは9月下旬、東京都大田区に建設中の訓練施設「総合トレーニングセンター(仮称)」に関連して、建設資金を調達するためのグリーンボンドを発行すると表明した。発行年限10年、発行額は100億円で、「エアライン(航空会社)によるグリーンボンドの発行は世界初」(同社)という。
 総合トレーニングセンターはS造8階建て延べ約6万㎡の規模で、2020年3月の完成に向けて鹿島が施工を進めている。太陽光発電やLED照明、高断熱・高気密ペアガラス、屋上緑化、自然換気、高効率熱源機器、BEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)などを導入し、CASBEE(建築物総合環境性能評価システム)のAランク相当を目指す計画だ。
 ANAグループは2月、ESG経営を中核に据えた「中期経営戦略」を策定している。グリーンボンドの発行はこの戦略の一環で、社会的価値と経済的価値を同時に創出することで、企業価値の向上につなげたい考え。

◆CO2対策に期待
 グリーンボンドは企業などが発行する債券で、使途を環境配慮型プロジェクトに限定し、資金を追跡・管理して報告しなければならない。このため、効果的な温暖化対策として期待も大きい。
 政府は8月、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に基づき、温室効果ガスの大幅な排出削減に向けた長期戦略を検討する有識者会議の初会合を開いた。会合で安倍晋三首相は、「環境と経済をめぐる情勢はここ数年で一変している。ESG投資は、この5年で1000兆円以上増加し、グリーンボンドの発行も50倍に拡大するなど、世界の資金の流れが大きく変わりつつある。もはや温暖化対策は企業にとってコストではなく、競争力の源泉だ。環境問題への対応に積極的な企業に世界中から資金が集まり、次なる成長とさらなる対策が可能となる」と述べた。
 グリーンボンドは、発行主体を選ばない。金融機関や民間企業に限らず、地方自治体である東京都に加え、独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構も200億円の10年債を発行している。

◆ゼネコンは戸田が先鞭
 ゼネコンで先鞭(せんべん)をつけたのは、戸田建設だ。長崎県五島市沖に計画する浮体式洋上風力発電施設の資金調達に向けて100億円のグリーンボンドを発行した。1月には環境金融研究機構による「第3回サステナブルファイナンス大賞」を受賞している。建設業では初の受賞となった。「金融システムの主役は、本来は金融機関ではなく利用者のはず。その意味で、ことしの大賞が戸田建設という発行体になったのは、環境金融の広がりを象徴するものとして意義深い」と評価を受けた。

五島浮体式洋上ウィンドファーム

 一方、「国内製造業で初」とアピールするのは日立造船。調達資金は、CO2排出削減効果が高いごみ焼却の発電施設などに充てる。対象事業は、京都市が発注した「京都市南部クリーンセンター第二工場(仮称)」など2件。金融機関のほか、キリスト教系の宗教組織も投資に名乗りをあげた。
 三菱地所は、日本一の高さとなる390mの超高層タワーなど複数棟を建設する「東京駅前常盤橋プロジェクト」(東京都千代田区・中央区)の資金調達で200億円のグリーンボンドを発行した。使途は高さ212mとなるA棟の建設資金で、現在は戸田建設が施工を進めている。このグリーンボンドに投資表明したのは、銀行や保険会社だけではない。大学などを運営する学校法人が複数、独立行政法人、シンクタンク、さらには給食事業者までもが名を連ねている。

東京駅前常盤橋プロジェクトA棟イメージ

 グリーンボンドは、投資家を選ばない。いわゆる金融機関に限らず、環境配慮志向が強い多様な主体から資金を集める効果が鮮明になりつつある。

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