【本】データ分析で企業の人事部を変えたい 著者・大湾秀雄さんに聞く | 建設通信新聞Digital

5月5日 日曜日

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【本】データ分析で企業の人事部を変えたい 著者・大湾秀雄さんに聞く

『日本の人事を科学する 因果推論に基づくデータ活用』(日本経済新聞出版社 2300円+税)

東京大学社会科学研究所教授 大湾秀雄さん

 本書執筆のきっかけは「企業の人事部のあり方を変えたい」と思ったからだそう。大湾秀雄氏は、人事・組織経済学が専門で経済学が人事制度や組織構造を本格的に研究対象にし始めたのは1980年代以降である。それまで企業は、労働と資本を投入しさえすれば生産物ができあがるブラックボックスのようなものと捉えられていた。その後、2000年代に入るとデータによる理論の実証の必要性が唱えられるようになる。
 人事部門はどちらかというと大学で文科系を専攻してきた人が多いことから、データ分析の有用性について理解があまりない。しかし、「自分たちが実施した人事施策について、データを基にして効果を検証するべき」と語る。例えば、多くの企業が女性活躍推進の一環として積極的にワークライフバランス施策を導入している。そういった中、たとえば国の認定制度の「えるぼし」「くるみん」などを取得することで、どれだけの便益があったのか、どれだけ優秀な女性が「入社したい」と思ったか、さらに採用につながったかを検証する必要がある。そのためには、企業は認定前から認定後までの数年分のエントリーシート(応募者ベース)や適性検査結果を分析し、応募者プールの拡大と質の改善があったかを探ることは大切である。施策と採用結果の関係を理解することで、「今後の採用戦略のあり方も変わってくるし、優秀な人材を採用するチャンスも広がる」と力説する。
 一方、データ分析によって男性と女性の隠れた格差を浮き彫りにすることもできる。
 例えば、同じような大学を出て同じような能力を有しているにもかかわらず、給与面や昇進、仕事の配分について差があるようであれば、人材活用面で男女差が生じていることにほかならないし、企業にとっても大きな損失となっている可能性がある。特に、「女性について企業は、能力見ざる・情報言わざる・希望聞かざる、の3大サルに陥っているのではないか」と指摘する。日本経済の状況を考えると、女性の就業率向上、能力開発、管理職への登用は社会的要請でもある。「実態や取り組みの成果を客観的な尺度で表すことは、経営資源を有効に振り分ける上でも大切である」とする。
 「企業の役員クラスの方には、データ活用に関心を持つ社員を積極的に支援してほしい」と語る。経営陣の理解がなければ、データの一元管理といった体制の整備や、データ活用を行う人材の育成は進まないからだ。「担当となった社員に対しては、1つの仕事として位置付けてほしい。そうすることで、長期的な課題の解決や生産性向上につながる」と締めくくった。

■データの活用法を平易に解説
 人事部門はいま、働き方改革の実行や女性管理職の育成、労働生産性のアップ、ストレスチェックなど、さまざまな課題について現状を正確に把握し、数値目標を立てて改善に取り組まねばならなくなった。
 本書は、多くの日本企業が抱えるこれらの人事上の課題をデータを使ってどのように分析し、活用すればよいのかを図や絵を用いて平易に解説している。女性活躍支援、働き方改革、採用、管理職評価、離職対策、高齢者活用など、具体的にいま日本企業が抱えている問題を取り扱う。

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