【仮想現実空間】安全教育や調査・設計、防災計画の立案に! VR技術の活用広がる | 建設通信新聞Digital

4月20日 土曜日

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【仮想現実空間】安全教育や調査・設計、防災計画の立案に! VR技術の活用広がる

体験者が視認するVR映像 (東急建設の体験型安全衛生教育システム)

 仮想の空間で、さまざまなことを疑似体験できるVR(仮想現実)技術の活用が、建設業界でも広がりをみせている。活用事例として多いのが現場従事者の安全教育。実際の工事現場では再現できない危険な状態や労働災害を体感し、適度な恐怖心を持ってもらうことで、安全意識や危険感受性を高める。調査・設計や防災計画の立案、改修工事に当たっての関係者間の合意形成促進など、活用シーンも広がりつつある。
 VR技術を使った安全教育システムでは、体験者がヘッドマウントディスプレーなどを装着し、仮想空間に入り込む。コントローラーで空間内を移動していき、シナリオに沿った事故などを疑似体験する。音や振動なども加えて五感を刺激することで、リアリティーはさらに増す。
 建設現場で起きる事故は高所からの墜落・転落や挟まれ・巻き込まれ、重機との接触、吊り荷の落下、土砂崩落、感電などと多種多様だが、VRシステムはソフトウエア次第で、あらゆる状態を簡単に再現できるのも特長だ。土木や建築、舗装、電気、空調、昇降機などそれぞれの職種に合致したコンテンツを作れる。
 例えば奥村組は、中間貯蔵施設への除染土輸送の本格化を見据え、運転手教育用のシステムを作った。このように、その時々の事業環境やニーズに合わせてカスタマイズすることも可能だ。
 2020年東京五輪に向けた建設需要の増大などで労働災害の増加が懸念され、安全教育の再徹底が求められている。人手不足に伴い、未熟練者や外国人就労者の現場入場も増えるとみられる中、単なる文字や映像の教材ではなく、臨場感を持って危機意識を醸成できるVRが注目されている。機材一式があれば、現場事務所の会議室などでも気軽に教育できるのも利点の1つだ。明電舎のように、出張教育サービスを展開している企業もある。
 安全教育以外にも使い道は広がっている。竹中工務店は、地震や津波、火災など複数の災害予測と避難行動の解析結果をVR上で統合し、可視化するシステムを開発。災害時の状況をリアルに把握し、安全な建物の設計やBCP(事業継続計画)対策、防災計画の立案などに生かす。
 大京穴吹建設は1月から、修繕工事を計画中のマンション向けに、共用部改修工事の提案内容をVRで確認できるサービスを始めた。改修後のイメージを共有し、管理組合の合意形成を促進する。
 また、一部で公共発注者によるVR活用の動きも出てきた。東京都中野区は、新庁舎整備の基本設計者選定に当たり、VRデータの納入を業務内容に加えた。
 現実空間に仮想空間を融合できるMR(複合現実)技術を取り入れる企業も現れてきた。新菱冷熱工業は、数値流体解析による気流シミュレーション結果を実際の室内空間で可視化する手法を確立した。日本工営は、MRを使った防災体験を計画。将来的にはインフラ点検作業などへの適用も想定している。鴻池組は、CIMで作成した3次元データを現場にいながらホログラムで確認でき、構造物の効率的な調査点検を実現するシステムを開発した。MRデバイスは、パソコンが不要で機動性が高く、複数人が同時に体験することもできる。
 i-Construction、BIM、CIMなど、建設業界でも3次元データの利活用が急速に進む中、 今後は中小の建設企業でもVRやAR (拡張現実)、MRの活用が広がる可能性がある。
 既に先駆的な動きもあり、小柳建設(新潟県三条市)は17年4月、国内の建設事業者として初めて、日本マイクロソフト社のホロレンズを導入。同社と連携し、業務生産性とトレーサビリティーの向上を目的とした「ホロストラクション」を推進している。
 国土交通省も中小・中堅建設業のリカレント教育(社会人の学び直し)の一環で、VRなどの最新技術を活用した研修などを推進する方針だ。

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