【疑似体験で労災抑制】建災防が安全衛生教育でのVR活用状況を調査 成果と今後の課題とは | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

公式ブログ

【疑似体験で労災抑制】建災防が安全衛生教育でのVR活用状況を調査 成果と今後の課題とは

 建設業労働災害防止協会は、安全衛生教育におけるVR(仮想現実)の活用状況を調査した。それによると、不安全行動に起因して発生する作業中の事故を疑似体験できることから、労働災害の抑制が期待される。一方、VRに対する「目新しさ」「面白さ」が先行し、作業時の緊張状況とかい離しているため、疑似体験から得た教訓などを実際の作業にどのように反映していくかが課題となった。

 調査は建設労務安全研究会の会員12社を対象とした。期間は2019年12月25日から20年1月31日まで。
 VR教育の実施割合は約8割で、教育内容は「墜落・転落」が最多、「飛来・落下」「崩壊」「激突」「切れ・こすれ」「はさまれ・巻き込まれ」「動作の反動・無理な動作」と続く。

教育内容(災害の種類)


 実施場所は現場が大半を占め、対象は元請企業の社員と協力業者の技能者が半々だった。実際の効果として「安全知識の習得と危険感受性を高め、可搬作業台に関する理解を深め、現場の監督・指導に役立つ」「生身では体験できない、したくないことを経験し災害の怖さを感じた」「外国人でも理解しているように思えた」などの意見が聞かれた。

 課題については「使用する者(人数)が限られて持ち時間がある」が最も多い。また、「コンテンツ(教育内容)が限定的」「導入コストの負担」「VRを用いた教育体系の未確立」「効果実感が得られない」といった回答も少なくない。

VRを活用する上での課題


 具体的には「VRで実行した内容の振り返りが重要で、心理的負荷をVRで体験させるだけでは条件付け(安全意識の高揚)にはいたらない」「体験による気付きを現場へ持ち帰るために行動目標を宣言させることも効果がある」「汎用的なツールにするためにはコストを下げる必要がある」などが挙がっている。

 改善策では「現状はシナリオが決まったものなので、自身の行った動作や決定行為によって展開が変われば、自身の行動レベルに反映されるようになってくる」「災害が発生する前に戻って、作業を繰り返し同じ災害を反復体験できるコンテンツ」「業界全体が使用できる(多人数研修が可能な設備を持つ)複合型危険体験施設があれば、教育の中に組み込むことも検討できる」などの提案も寄せられた。

 今回の調査結果を踏まえ、建災防ではレジリエンス力(危険などを予測・注意・対処・学習する能力)を強化するため、多様な危険事象を体験し、それを振り返る機会を創出するVR教材の充実が不可欠と考察している。

 また、限られた機材と時間の中で効果的な教育方法を考える必要があるとし、VR体験者以外の参加者は体験者と同じ画面を閲覧し、VR教育終了後に全員で討議する手法を例示している。

 ヘッドマウントディスプレー(HMD)を活用し、複数人が同一の仮想工事現場に入り込み、相互に作業を模擬することもできる。安全衛生教育自体をVR環境下で提供すれば、遠隔でも教育・研修を受けられ、外国人労働者にも有効とする。

 5G(第5世代移動通信システム)を始め、情報通信技術が急速に進化する中で、ICTやVRを活用した教育方法を含め、今後は安全教育システム全体の高度化について検討する必要があるとしている。

建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら