【建設ICT 新時代へ】JSが現場の監督・検査にウェアラブルカメラを導入 リアルタイムに情報を共有 | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

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【建設ICT 新時代へ】JSが現場の監督・検査にウェアラブルカメラを導入 リアルタイムに情報を共有

 日本下水道事業団(JS)が、体に装着しハンズフリーで撮影できる小型カメラ「ウェアラブルカメラ」を使った工事現場の監督・検査に乗り出した。JSの中でも先行する近畿総合事務所では既に3件の大型現場で試行中。今後は小規模工事や設備工事にも適用範囲を拡大する方針だ。施工管理課の松山幹夫課長は「今年度内に課題を整理し、幅広く使っていきたい」と先を見据える。

松山課長

 JSに限らず、国土交通省や地方自治体などのインフラ整備では工事品質を確保するため、現場の監督・検査を徹底している。ただ、工事現場と監督職員の拠点となる工事事務所が離れている場合、移動時間など物理的な制約も多い。国土交通省の直轄工事でも試行を始めたように、ウェアラブルカメラを使い、遠隔から現場の状況を把握するリアルタイムな通信手段は新たな検査のあり方として脚光が当たる。地方自治体など技術系職員の不足が深刻化する中、効率的な検査手法としても期待されている。
 近畿総合事務所が試行に乗り出したのは2018年12月。鴻池組・高見組JVが京都府内で施工中の福知山市段畑雨水ポンプ場建設工事に初導入した。現場は管轄する京都分室から移動距離にして約90㎞。現場担当者と監督職員の受発注者はカメラ映像を介してウエブ上でつながり合い、情報をリアルタイムに共有しながらより質の高い検査を実現している。

鴻池組JVが施工する福知山市段畑雨水ポンプ場建設工事現場での試行風景

 ヘッドセットコントローラーを装着した工事現場の担当者は、京都分室で画面を確認する監督員の指示を受けながら検査を進めていく。「導入当初は双方の担当者とも抵抗感があったが、使い慣れてくるうちに臨場管理と同等との印象を持つようになった」と、松山課長は現場からの声を代弁する。
 監督員は移動時間がなくなり、一方の現場担当者にとっては机上段階確認のための写真準備作業なども軽減できる。両担当からは「もっと早くから導入していれば」との声も上がる。リアルタイムに検査記録が残る緊張感もあり、「ミスの抑制にも効果があるのではないか」とも監督員は感じている。
 とはいえ、システム上の課題はまだ残る。コントローラーを装着した現場担当者には監督員からの指示が伝わるが、他の現場担当には聞こえていないほか、カメラの角度によっては画面を通じて見にくい部分もある。通常検査では現場職員側は2人1組で対応するケースが多いが、ウェアラブルカメラによる臨場確認はデータ管理に1人必要になり、現在は3人1組の体制で対応しているのが実態だ。
 近畿総合事務所は、前田建設工業・宮本組JVが施工する大阪市北野海老江下水道幹線建設工事や、飛島建設・久本組JVが施工する寝屋川市高宮ポンプ場建設工事でも試行をスタートさせ、計3現場で導入効果を検証している。2019年度中に中小現場や設備工事でも試行に乗り出し、工事規模や工事種類に応じて、効果的なウェアラブルカメラの使い方を導く計画だ。
 JSは、ウェアラブルカメラによる検査が効果的であることから、全国の各総合事務所にシステムを配布した。近畿総合事務所は提供された3セットを中小現場や設備工事用として有効活用する計画で、現場が2人1組の体制でもシステムを活用できるような試行にもチャレンジする。
 日本国内では、今春から5G(第5世代移動通信システム)が本格的に始まり、高速データ通信環境が整う。下水道ではシールド工事なども多く、今後はウェアラブルカメラによる検査を積極的に進める上で現場内のデータ環境整備も強く求められる。松山課長は「生産効率の側面でも効果は高いが、安全と品質の確保がわれわれにとってもっとも大切であり、コストバランスも含めながら、試行工事を通して、より最適な仕組みを構築していきたい」と考えている。
 ICTを活用した新たな建設現場の取り組みが増えている。本シリーズ「建設ICT~新時代へ」ではICT活用の最前線を紹介しながら、BIMやCIMへと続く新時代の流れを浮き彫りにする。

 

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