【スタジアム・アリーナ】"稼ぐ施設"へ先進事例を英国から! スポーツ・エコノミーフォーラム@駐日英国大使館 | 建設通信新聞Digital

4月25日 木曜日

公式ブログ

【スタジアム・アリーナ】“稼ぐ施設”へ先進事例を英国から! スポーツ・エコノミーフォーラム@駐日英国大使館

 駐日英国大使館は3月14日、「スポーツ・エコノミーフォーラム-スタジアム・アリーナの収益性向上に向けて-」を東京都千代田区の駐日英国大使公邸で開いた。日本政府がスポーツを経済成長戦略に位置付け、スタジアムやアリーナが“稼ぐ施設”へのパラダイムシフトを求められる中、経済効果がスポーツ・エコノミーとして確立されている英国のTheO2、ウェンブリー・スタジアム、トゥイッケナム・スタジアムなどのスタジアム・アリーナ改革にかかわったコンサルタントを招き、先進事例を紹介した。英国で実践されたイノベーションが、動き始めた日本のスタジアム・アリーナ改革に好循環をもたらすことが期待される。セミナーにはスポーツクラブや自治体から約100人が参加した。

強み、魅力に理解を 駐日英国大使 ポール・マデン氏

駐日英国大使 ポール・マデン氏

 スタジアム・アリーナの収益性向上に向け、スポーツ施設の有効活用、集客力の最大化、効率の良い施設の整備と管理について日英の専門家を交えて考える機会にしたいと思います。スポーツは、人々に情熱と一体感をもたらします。スポーツ産業の発展は、未来にポジティブな影響を及ぼすレガシーを残すことができます。スタジアム・アリーナを中心としたスポーツ施設の整備と積極的な運営が、地域の活性化と持続的な成長につながるカギです。英国は20年以上にわたりスポーツスタジアムなど会場の収益性を押し上げてきました。
 日本はスポーツ産業を成長戦略と位置づけて、経済産業省とスポーツ庁のリードのもと、基盤となるスタジアムの改革に取り組まれています。
 このフォーラムを通じてスポーツ産業における英国の強み、魅力をご理解いただき、これまで以上に関心をお持ちいただければ幸いです。そして将来、日本のスタジアム・アリーナ事業に携わる皆様のビジネスパートナーとして英国企業とのコラボレーションの機会が増えることを祈っています。

パネルディスカッション

■モデレーター
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 間野義之氏
■パネリスト
・横浜DeNAベイスターズ 代表取締役社長 岡村信悟氏
・株式会社今治.夢スポーツ FC今治 代表取締役社長 矢野将文氏
・New Resolution(前London2012イベントサービス室長、O2
ディレクター、ウェンブリー・スタジアムイベントマネジャー) 代表 アンディー・ヤング氏
・アスコット競馬場テクノロジー部長(前トゥイッケナム・スタジアムシニアプロジェクトマネジャー) ジョージ・ヴォーガン氏

 間野 日本の事例を聞き、ホスピタリティの観点から気づいた点は。
 ヴォーガン ホスピタリティという観点から、例えばイベントが行える日などを考えると、幅広い顧客をターゲットにしなければなりません。どのように幅を広げるかがポイントです。
 ヤング トゥイッケナム・スタジアムにとってもホスピタリティが重要なため、伝統的なボックスシートで食事をするだけでなく、カジュアルなラウンジなどより幅広いサービスをそろえるといったことを考慮しています。顧客の期待値が変わってきました。
 岡村 今回の横浜スタジアム改修のポイントとなるのは個室観覧席を増やすこと。ニーズやコストに応じてさまざまな楽しみ方ができる空間をつくることで顧客単価が上がり、さらにすばらしい体験をしていただいて消費も上がると考えています。
 矢野 地方都市の場合、人口構成では高齢者が多いため、そういった人々を対象としたサービスも必要だと感じています。高齢者が喜ぶホスピタリティをコンテンツも含めて提供することが必要だと考えます。また、他のJリーグクラブと比べてスタジアム開放を1時間早くしている。まず来場してから長く滞在してもらうことで消費を促します。
 岡村 オリジナルビールの種類を増やし、名物と呼ばれるものを毎年工夫して提供しています。試合自体に顧客が参画し、イベント空間を盛り上げるのにグッズは必要なコミュニケーションツールです。新しい飲食やグッズで自ずと顧客単価が上がります。
 ヴォーガン 売り上げだけではなくコスト管理も重要になります。十分に使用されていない施設があるのなら、一つのべニューだけでなく、いくつかのべニューにまたいで人材を使うことで、従業員たちのスキルも上がります。
 間野 非接触型カードの導入はどのように進んでいますか。
 岡村 技術的には可能なので、2020年を契機としてシステム関係を全般的に見直そうとしています。
 間野 時間軸に応じた売り上げの可視化については。
 ヴォーガン 顧客単価を上げるためにどれだけ早く対応できるかが求められます。早期来場者への飲食の割引や退場する際には、駅前に行列ができていることを知らせることで滞在時間を延ばし、支出を増やさせる可能性があります。売り上げの上がっていないバーを閉鎖したり販売員を他の店にまわすことができます。
 間野 スポーツが行われない日は施設をどのように活用しますか。
 ヤング 一つの問題としては地域コミュニティーが機能するかどうか。日本では野球体験などで地元チームとのつながりを感じてもらうことができます。イングランドでは「トレーニングデイ」を設け、トレーニングの様子を一般公開することで、練習を無料で見に行ける代わりにグッズを購入してもらいます。若者たちは積極的に参加しています。
 岡村 スタジアム自体は市の所有物のため、稼働の半分がアマチュア利用しています。70試合のプロの興行をやりながら地域にとけ込む工夫をしています。日本シリーズなどでは、パブリックビューイングを開催し、3万人がスタジアムに訪れ、飲食で利益が出ました。横浜公園とつながることで、365日にぎわいを生み出す空間になりつつあります。今回の改修でさらに強化していきます。
 間野 テクノロジーを用いたさらなるアイデアは。
 ヴォーガン スタジアム・アリーナの広い空間を生かしてe-Sportsやドローンレースなどを開催し、若者へアピールすることができます。スポーツイベントの主催や自治体との対話で、どのようなイベントで地域経済に貢献するかポイントになります。
 間野 英国ではスタジアムに公共と民間がどのようにかかわっていますか。
 ヤング 英国において地方自治体は予算が厳しく、公共部門はスタジアムの運営管理から手を引いています。そのかわり、民間による運営が成熟した産業となっています。
 岡村 横浜スタジアムも民間のわれわれが運営しているが、横浜市と包括連携協定を結び、規制緩和などでバックアップしてもらっています。市の所有する建物をDeNAが管理運営することでにぎわいを生み出すのが使命だと思います。球団だけではなくさまざまなコンテンツを運用することで、人材も流動的になりノウハウが蓄積されます。
 矢野 われわれも民間資金で建てたスタジアムを建設したことで、非常に機動力があり、自由度が担保されるのは重要なことだと思っています。

スポーツ戦略で市場規模拡大 経済産業省商務・サービスグループサービス政策課長 守山宏道氏

守山宏道氏

 日本のスポーツ産業の対GDP(国内総生産)比率は1.0%であり、3%近い米国など先進国に比べて非常に小さな規模です。米国ではスポーツ産業が2010年に49.6兆円まで拡大し、自動車産業と肩を並べました。サッカーの比較でも、1996年ごろのJリーグは英国のプレミアリーグとほぼ同じ経済規模でしたが、12年度にはプレミアリーグと5倍の差が付いています。
 プロスポーツリーグ全体を見ても、J1リーグの554億円、プロ野球の1400億円に対し、NFLは9600億円とJ1リーグに比べ17倍以上の開きがあります。クラブ別でも浦和レッズの58億円に対し、スペインのレアル・マドリードは746億円と10倍以上の規模があります。
 こうした状況を踏まえ、政府はスポーツ界、経済界とタッグを組み、スポーツを成長産業に発展させる戦略に取り組んでいます。
 日本経済再生本部の「日本再興戦略2016」は、スポーツ市場を15年度の5.5兆円から25年度までに3倍の15兆円に拡大する目標を掲げました。具体策に「スタジアム・アリーナ改革」を位置付け、“コストセンター”から“プロフィットセンター”に変革し、スマート・ベニューなどの新たな考えを取り入れた多機能型施設へと発展させる方針です。
 スポーツ庁の「スタジアム・アリーナ改革指針」でも改革実現に向けた基本的考え方や意識改革、地域経済の持続的成長など官民による新しい公益の発現を打ち出しました。
 政府の「未来投資戦略2017」では、地域経済好循環システムの構築の施策として、25年までに20拠点のスタジアム・アリーナを実現する考えを示しています。予算、税制、金融、情報、規制の特例措置などの支援を通じて施策を展開します。
 今後のラグビーワールドカップ、オリンピック・パラリンピック東京大会、ワールドマスターズゲームズなどの国際メガ・スポーツイベントの開催を契機に日本の魅力を発信し、スポーツの価値を活用していきたいと思います。

メジャーイベントからの収益創出 アンディー・ヤング氏

アンディー・ヤング氏

 2007年に完成した現在のウェンブリー・スタジアムに、計画段階からかかわりました。建物の将来設計を検討する段階で主要な要素にあったのが「収益の拡大」です。
 旧スタジアムと比べて施設の規模が大きくなりましたが、客席ではなく商業スペースを拡大し、来場者のホスピタリティなどにスタジアムの3分の1を充てました。完成から10年が経っても細部を変更しています。例えばコンサートを円滑に開催するため構造物を撤去して搬出入しやすくし、設営を早めてピッチのダメージを少なくしています。運営のコストを下げることで、主催者がビジネスをしやすい環境になります。
 スタジアム・アリーナが収益を上げるのに最も大切なことは、すばらしいサービスを提供することです。来場者はサービスに満足すればもう一度足を運びます。さらにイベントが開かれ、チケットが売れる好循環になります。会場が混雑すれば多くのスタッフを雇い、地域経済にも貢献します。コストセンターからプロフィットセンターへと変化するのです。
 スタッフの育成も地域のつながりを重視します。ウェンブリー・スタジアムでは地元の大学と協定し、スタッフをプールしているし、TheO2も地元の人を受け入れています。若者が働ける場として浸透することで地元から支持を受けることができるのです。
 そして多様なイベントを開催できるかどうかは経営手腕の問われるところです。スポーツと同様に質の高いコンサートやエンターテインメントをバランス良く開催し、会場のスケジュールを埋める必要があります。
 商業資産としていかにクリエイティブに使うかもポイントです。例えばAR(拡張現実)を使って普段は入れないスタジアムの内部を体感するツアーを企画したり、ミュージアムなどにも使用できます。TheO2ではスタジアムの屋根に登るツアーが好評です。レストランや映画館、ホテルなどのエンターテインメントも備え、地元を巻き込みつつ、非常に稼働率の高い施設となっています。

テクノロジーによる会場変革 ジョージ・ヴォーガン氏

ジョージ・ヴォーガン氏

 スタジアムへのテクノロジーの導入には「コネクト」「コミュニケイト」「コンタクト」3つの要素があります。あるホテルの予約の世論調査では、ユーザーが一番心配するのは部屋でWi-Fiが使えるかどうかでした。特に30代はインターネットの接続を重視します。スポーツ観戦もWi-Fiは必須のサービスと考えることができます。このように「コネクト」は、デジタル空間とつながることを表します。欧米の公共施設ではWi-Fiは食料と同じライフラインと考えられており、スタジアムの来場者も求めます。写真をソーシャルメディアに投稿し、施設のブランドを高めてくれます。
 「コミュニケーション」では双方向性モバイルツールにFacebookなどがあり、今や多くの人がソーシャルメディアを使います。「コンタクト」はe-コマースで、スマートフォンを使う「Apple Pay」などで決済する人が増えました。こうした変化への対応が重要です。
 トゥイッケナム・スタジアムは長い歴史がありますが、インフラテクノロジーが遅れていました。私は2015年ラグビーワールドカップに合わせて「コンタクトレステクノロジー」の導入を進め、支払いをカード決済主体に切り替えました。客席でもインターネットにつながるWi-Fiを導入しました。
 その結果、現金の支払いを待つために飲食の提供が遅れることも減りました。事前オーダーシステムも導入し、大きな成果を出しています。すべての売り場の売り上げをリアルタイムで把握するシステムも導入し、売り上げを見ながら人員の配置を変え、余るようであれば家に帰すこともできます。1階の売店が混雑していると2階に誘導するスクリーンなども導入しました。
 モバイルテクノロジーを使えばスタジアムに来られない人にバーチャルチケットを販売し、試合を体験してもらうこともできるでしょう。テクノロジーは飛躍的に進歩しています。広く世界を見ることが必要であり、外の世界で起きていることをスタジアムでも経験できることが大切です。

新しい都市空間づくりに関与 岡村信悟氏

 横浜公園にある横浜スタジアムは設立40年を迎え、大規模改修を計画しています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおける野球・ソフトボールの主要会場として決定し、現在の2万8900席から3万5000席までの増席を含めた改革プランを進めています。
 改革プランでは「閉じないスタジアム」として、横浜公園と365日つながる形で交流人口を生み出し、興行70試合以外でも余暇消費を生み出すことを考えています。
 横浜の中心地にあるスタジアムをもっと生かせるような形で改革プランを考えていきます。街と市民に開かれ、そして日本の近代化を牽引してきた横浜にふさわしい伝統を継承して世界に発信できるようなボールパークにしていきます。スポーツをきっかけとした成熟社会にふさわしい新しい都市空間づくりに関与しながら、ベイスターズという心のソフトインフラを運営していきます。

地域特性生かしたスタジアム 矢野将文氏

 J4相当のクラブですが、スポンサーには地元企業だけではなく、グローバルに活躍している企業や日本を代表する企業がいるのが特徴です。全国の企業からの支援のもと地域の活性化を担っています。昨年、J3対応の5000人収容のスタジアムを建設していただきました。サッカーを観戦する文化や資金のないところから始まった総工費3億8000万円の日本で一番費用を抑えたスタジアムといえます。スタジアムWi-Fiの整備や限定動画の配信、ARマーカーをスタジアムと隣接するショッピングモールにも敷設するなどテクノロジーによる工夫を凝らしました。結果としてエリア全体の価値の向上につながりました。ゆくゆくは1万5000人収容のスタジアムを建設します。現在、スタジアムに毎試合4000人が来訪します。7割が地元市民で残りは県内外から来ます。地域の特性を生かしたスタジアムが求められています。

◆英国のスポーツビジネスについての問い合わせ先
駐日英国大使館国際通商部
スポーツエコノミーチーム
担当:柳澤・小田・織田(03-5211-1154)
URL:https://british-mc.com/sportseconomy/