【デダロ・ミノッセ国際建築賞】"なぜこの施主が素晴らしいか"を語れるか 記念講演会「受け継がれる建築のために」 | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

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【デダロ・ミノッセ国際建築賞】“なぜこの施主が素晴らしいか”を語れるか 記念講演会「受け継がれる建築のために」

グランプリを受賞したプロスト氏の「The Ring Of Remembrace」


 優れた建築には、良き発注者と素晴らしい建築家双方が必要という理念のもと、両者に賞が与えられるイタリア最大の建築賞デダロ・ミノッセ国際建築賞。その第2回日本巡回展の記念講演会「受け継がれる建築のために」が、東京都千代田区のイタリア文化会館で開かれた。マルチェッラ・ガッビアーニALA(イタリア建築家協会)会長や審査員の窪田勝文氏(窪田建築アトリエ)が、「クライアントとの関係性」を中心に日本からも応募が多いという同賞受賞のポイントを紹介し、国内外の受賞者4人が作品を解説した。アーキテクツ・スタジオ・ジャパン(ASJ、丸山雄平社長)が設立15周年事業として主催した。
 “最初の専業建築家”と呼ばれ、16世紀に活躍したアンドレア・パッラーディオがのこした世界遺産の街・ヴィチェンツァで、1997年から隔年開催されているデダロ・ミノッセ国際建築賞。昨年6月に行われた10回目の表彰式には5000人以上が参加。来場者数は3万人を超え、10万件以上の問い合わせがあるなど、大きな影響力を持つという。受賞作は、各国の建築家団体や企業の協力を得て、世界を巡回。日本でもASJの協力で7日から18日まで千代田区の新日石ビルで開かれた。
 主催者であるALAのガッビアーニ会長によると40カ国400件以上の応募作品のうち、「日本からの応募は全体の1割を占めていたが、多くは書類選考で振るい落とされた」という。

ガッビアーニ会長

 過去に6回続けて入賞し、16-17年は審査員を務めた窪田氏によると、全応募作品の中から150作品に絞り込んだ1次審査で最重要視されたのが、「クライアントとの関係性がしっかりとプレゼンテーションされている」こと。2次審査では14人の審査員が投票して、上位30作品を選定。再度得点付けをして最も票を得た作品がグランプリを獲得する仕組みだ。

窪田氏

 ガッビアーニ会長は、「建築家はまず、なぜこの建築が素晴らしいかを語る前に、なぜこの施主が素晴らしいかを語らなければならない」と強調。「審査員は意義深いストーリーや実り多い関係の中から作品を選ぶ傾向にある」とし、「建築家と発注者の力のバランス」が評価の分かれ目になると指摘する。著名な建築家と並んで若手も取り上げつつ、建築家による技術的なデータとともに、発注者のストーリーを読むことができるのを同賞の特徴に挙げた。
 11回目となる18-19年の候補作品は、9月から募集が始まる。締め切りは19年2月で、その後に審査が行われる予定だ。

プロスト氏

 「受け継がれる建築のために」をテーマとする講演会では、国際色豊かなメンバーがそれぞれ受賞作を紹介した。このうち、グランプリを獲得したフィリップ・プロスト氏(フランス、AAPP)の「The Ring Of Remembrance」は、現地で実物大の模型製作や鉄板鋳造のテストなど「発注者があらゆるサポートを惜しまなかったことで実現できた」という。第1次世界大戦から100年を経て、戦没者をしのぶ直径328mの「記憶の円環」は、丘の斜面に浮かぶ中空部分を持ち、高性能ファイバーコンクリートなど「21世紀のテクノロジーがなければ実現できなかった」と振り返った。

40歳未満の部、グランプリを受賞したガルシア氏の「Casa meztita」

 「メスティトラの住宅」で40歳未満の部グランプリとなったルイス・アルトゥーロ・ガルシア氏(メキシコ、EDAA)は、「建築家とクライアントの信頼関係は誠意によって実現する」と強調した。メキシコ有数の観光地エル・テポステコ国立公園の自然の中にピュアな空間をつくり上げた受賞作では、「地元の職人も扱いを心得ている」という地元で採れる火山岩を使用しつつ、屋内外の境界をあいまいなつくりとした。「建築自体が風景であり、風景をかたちづくるものであるが、風景そのものは主観的なものだ」とし、「自然との真の共生の実現は、住まい手によるものだ」と力説した。

日本人唯一の入賞者となった芦澤氏の「Factory in the Earth」

 「Factory in the Earth」で日本人唯一の入賞者となった芦澤竜一氏(芦澤竜一建築設計事務所)は、「クライアントにも与えられる賞を受賞するのは初めて」と、その喜びを語った。国内の本社建替コンペで負けた後、クライアントから「海外に向いている」と受賞作となるマレーシアのほか、米国で2件のプロジェクトを依頼された。クライアントから「地域に溶け込むこと」が求められた受賞作は、地表を剥がして建物を挿入するようなつくりで、ランドスケープと建築を一体化させた。

フラッツィ氏の実験的なプロジェクト「パセオ・デ・ラ・ブレチャ博物館」

 マティアス・フラッツィ氏(アルゼンチン、フラッツィ・アーキテクツ)は、首都ブエノスアイレスからラプラタ川の対岸にあるウルグアイ唯一の世界遺産コロニア・デル・サクラメントの実験的なプロジェクト「パセオ・デ・ラ・ブレチャ博物館」を紹介。かつてスペインとポルトガルが対立した旧市街地における取り組みでは、「調査時に遺跡などを発見したことがプロジェクトを価値があるものにした」とし、周囲に溶け込む材料を使うことで、「人類の遺産を保存しつつ活用することができた」と振り返った。

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