【大林組】なオフィス建築は"健康"の時代 「WellnessBOX」と「BIMWill」実装した「oak神田鍛冶町」 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

公式ブログ

【大林組】なオフィス建築は“健康”の時代 「WellnessBOX」と「BIMWill」実装した「oak神田鍛冶町」

 新時代のビル企画・開発事業のモデルはここから始まった--。将来、こう言われるかも知れない取り組みが、大林組が設計施工を手掛けた東京都千代田区の「oak神田鍛冶町」(事業主=大林新星和不動産)で始まっている。大林組は、入居者の快適性・健康・利便性・安全性を向上しつつ、最適な建物管理を実現する「WellnessBOX」(ウェルネス・ボックス)と、建物のあらゆる情報を集約できる「BIMWill」(ビムウィル)を、テナントビルで初めて実装した。ビムウィルの開発を手掛けた中嶋潤建築本部PDセンター副部長は、取り組みの将来性について「アイデア次第で可能性は無限大」と語る。

oak神田鍛冶町

 近年のオフィス建築分野のトレンドワードは、省エネから“健康”に移り変わりつつある。生産性向上や担い手確保が全産業共通の課題となる中で、働く人が健康であれば、労働生産性が上がるだけでなく、貴重な人材を病気によるドロップアウトから守ることもできる。この利用者の健康に焦点を当てた認証規格が、米国の不動産会社デロスが策定した「WELL認証」だ。利用者のフィットネスや快適性など7領域105項目を評価する。
 同社がoak神田鍛冶町に実装したウェルネス・ボックスは、建物に標準装備してある人感センサーやカメラ、建物内外の環境データ、照明や空調などの設備稼働データなどから取得する「約6000点の情報」(日野泰成エンジニアリング本部情報エンジニアリング部長兼グローバルICT推進室部長)に、入居者が持つビーコンの位置情報、利用者が持つ端末からの快適感の申告情報を加え、クラウド上に集約し、同社が蓄積した建物管理のデータやノウハウを使い、独自開発のアルゴリズムによって設備を制御する。利用者一人ひとりが快適と感じる状態を建物内のどこでも実現する。

ウェルネス・ボックスのイメージ

 例えば「ビーコンで一人ひとりの着座時間を把握し、長時間着座している人に(長時間着座が健康に悪影響をもたらすことを)警告できる」(同)ため、フィットネス領域の評価指標を高められるなど光、フィットネス、快適性、心の4領域の評価指標を向上する。
 複数の建物のデータも集約・制御できるため、今後はAI(人工知能)で解析し、設備機器を自動制御するほか、将来的には「すべての設備機器をクラウド上のAIで制御することも想定している」(同)という。
 もう1つの実装システム「ビムウィル」は、完成時のBIMモデルに各種設備機器の稼働情報や維持管理情報、地図や天候情報を集約できるプラットフォームだ。開発には、大林新星和不動産、大林ファシリティーズ、オーク情報システム、オーク設備工業、熊本大学が参画した。
 仮想空間であるBIMモデル上の情報が、利用状態に沿って更新されることで、現実の建物の状態が仮想空間上に再現される。これにより、建物で不具合が発生した際に、管理担当者が竣工図書や納入仕様書、点検記録、修繕保守履歴を確認する必要がなく、1つの画面で必要な情報を取得できる。

ビムウィルのシステム、利用イメージ

 ただ、ビムウィルの新規性は、その先にある。ビムウィルにウェルネス・ボックスの情報を統合することで、設備の日々の運転状況や、天候に応じた利用者の快適さの感じ方といったデータも蓄積される。新しい建築物の設計に情報をフィードバックし、建物の立地条件にあった最適な建物のシミュレーションなど、より利用者が快適さを感じられる建物の建築に生かせる。複数の建物で情報蓄積とフィードバックを繰り返せば、膨大な情報が詰まった仮想空間ができあがる。このビッグデータの使い道こそ、中嶋副部長の言う「無限大の可能性」だ。
 例えば、建物の未来を予測して設備機器などを予防保全したり、購買意欲を高める室内環境の情報を商業施設の設計・施工に生かすといったことも考えられる。ただ、いまはまだ情報の蓄積が始まったばかり。中嶋副部長は「何ができるかは、まだ分からない。まずはデータ蓄積を進めたい」と話すが、「ビッグデータを基盤にした付加価値の高いサービスを提供したい」と、先を見据える。

建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら