【column BIM IDEATHON(4)】データの流通性(1)~設計情報の記述および伝達の観点から~ | 建設通信新聞Digital

5月11日 土曜日

公式ブログ

【column BIM IDEATHON(4)】データの流通性(1)~設計情報の記述および伝達の観点から~

 前回は、建設業界における「非競争領域」として、建築生産プロセスにおける設計情報の「伝達」に着目して論を進める中で、BIMは、設計情報を記述し、伝達するための有用な技術であるとの考え方を示した。

◆設計情報を記述する
 BIMを用いることにより、設計情報は、構造化されたデジタルデータとして、BIMモデルに記述される。
 ここに2つの勘所がある。
 1つは「構造化」。対象(ここでは建築物)の全体を把握した上で、構成要素を明らかにし、さらに構成要素間の関係を分かりやすく整理することとされるが、BIMモデルが情報を付与された部品の集合体として構成されていることを想起すれば、理解しやすい。
 もう1つは「デジタル」。BIMモデルは、コンピュータの仮想空間内に構築されるデジタルモデルであり、構成する部材(要素)に属性情報を格納する。
 標題の「データ流通」とは、上述の構造化され、デジタル化されたデータ(設計情報)が、建築生産プロセスの担い手である各専門技術者の間を流れていく様である。

◆設計情報を伝達する
 1980年代から、図面作成(設計情報の記述)には、CADやExcelなどのコンピュータソフトウェアが利用されてきた。しかし、これらのソフトウェアを用いた設計情報の記述では、成果物(伝達の媒体)を、紙図面とすることがほとんどである。これは、手書きの「清書」に過ぎず、次世代の情報流通で求められるデータは生成されていないと筆者は考える。
 さて、記述方法を考える上では、情報の受信側が受け取りやすく、解釈しやすい条件にも目を向けたい。前回触れた昇降機設備メーカーをはじめ、幾つかの専門工事会社、製造会社(専門事業者)では、自社内での業務の効率化および高度化を目的に、データ活用が進んでいると聞く。彼らは、業務プロセスの起点において、設計図書(紙図面)を参照し、業務データを自社システムに入力するが、現状は、人の目と手を介している。
 この入力に際し、設計情報が、構造化され、デジタル化されていると、専門事業者にとって受け取りやすく、また解釈しやすいため、人を介したデータ入力作業が大幅に軽減される。この点が、記述方法の標準化の要諦であり、データ流通(設計情報の伝達)の円滑化、効率化を促す。

◆標準化の議論
 ここまで述べたように、BIMを用いた設計情報の記述は、データ流通の効率に大きな影響を与える。従って記述方法の標準化は、特定の企業間に限定されることのない多くの設計事務所、建設会社、専門事業者が参加する開かれた議論と共に進められるべきだろう。そして、その効用を多くの技術者が享受するためには、広く採用されることが望ましい。また、前出の「開かれた議論」は、各分野の専門技術者が集い、互いに相手方の業務プロセスを理解するところから始められるべきであろう。その際、国内外の先進事例(日本のBLC、英国のNBSなど)を参照するなど、幅広く知見、知恵を集めつつ議論が深められることを期待する。

設計情報のデジタル化にとどまらないBIMデータの利用価値

◆データ流通がプロセスを変える
 構造化されたデジタルデータとして記述される設計情報は、竣工後も、建築物の基礎情報として参照され、健全な維持保全に役立てられる。その一例に、故障履歴の分析を挙げる。デジタルデータは、紙に記録された情報と比較し、即時的で高度な分析が可能であり、蓄積したデータを基にした予防保全への活用が期待される。このように、デジタル化された設計情報は、建築生産プロセスの局所的な業務効率の改善に留まらず、建物ライフサイクル全般で大きな価値を生むことが分かる。
 そして、デジタル化された設計情報を中核とし、建物運用時の設備機器の稼働状況や維持保全情報、各種センシングデータ等を統合したデータプラットフォームが構想され、建物ライフサイクルの通奏低音であるデータ流通を支える。このプラットフォームが、建設業界の非競争領域の1つであることの理解は容易であろう。
 BIMによる設計情報の記述が、建設の未来を大きく変えるのではないだろうか。
(大林組/中嶋潤)

建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら