【日本建築学会賞(作品)受賞】桐朋学園大学調布キャンパス1号館 「構造と意匠」整合の裏側 | 建設通信新聞Digital

4月25日 木曜日

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【日本建築学会賞(作品)受賞】桐朋学園大学調布キャンパス1号館 「構造と意匠」整合の裏側

 日建設計の山梨知彦常務執行役員設計部門プリンシパルと向野聡彦フェロー役員エンジニアリングフェローが、『桐朋学園大学調布キャンパス1号館』で2019年日本建築学会賞(作品)を受賞した。山梨氏は14年の『NBF大崎ビル(旧ソニーシティ大崎)』に続いて2度目の受賞となる。音楽大学のプログラムから導いた不均質なグリッドをBIMで重ね合わせるなど、コンピューターで小さな合理性を積み重ねることにより新しいナチュラルな空間を創造。建築の独創性と構造の新規性の高い次元での融合が高く評価された。

山梨知彦氏(日建設計)


――はじめに受賞の感想をお願いします
 山梨氏「1つは新しいデジタルデザインの使い方を示したかった。小さな合理性を積み重ねることで、素朴な村のようにやがて合理性が見えなくなる新しいナチュラルを目指した。従来の“牢獄”のような音楽大学ではなく、芸術を学ぶのにふさわしい場を考えた。これまで山梨チームが発表した作品の多くには向野さんも入っていたが、特に今回は構造と意匠の合理性が同時進行で全く等価であることを設計中にとても意識した。意匠・構造・設備というチームの境界線もナチュラルな新しい時代が訪れた」
 向野氏「構造関係者から『構造設計者が建築学会賞を一緒に受賞できたのは喜ばしい』という声を掛けられた。専門分化した役割が再びオーバーラップし、役割のあり方が時代とともに変化していることを実感している」

向野聡彦氏(日建設計)


――意匠と構造の融合について聞かせて下さい
 山梨氏「楽器の特性に応じて2階のレッスン室、地下1階のアンサンブル室はすべてバラバラの箱を考えた。これを柱や梁でつなぐ際に、つくる側の論理である『少ない通り芯でいかに合理的につくるか』という人間中心の合理性を捨てた結果、構造と意匠の整合性が同時進行で全く等価になった。廊下幅は至る所で異なるが、構造的な合理性に基づくものであり、ランダムでもカオスでもない、すべてが説明できるナチュラルものだ。われわれの野生のアイデアが構造側から理性をもらうことで、感性から理性まで一気通貫できた」
 山梨氏「2人でアルゴリズムを話し、それに沿ってコンピュータープログラムでラフにプランを決めた後、チームのスタッフがこまかく調整した。整合性の検証はCTスキャンのようにBIMで断面図を自動作成し、それをスタッフが1枚ずつチェックしながら修正した。デジタルも人も適材適所で使った。最初は異端かもしれないが、次に応用できれば高品質と高効率のブリッジングというBIMの課題解決にもつながる」
 向野氏「従来の設計では形がアルゴリズムを決めてきたが、山梨チームの案件は『ホキ美術館』以降、通り芯の意味が薄れ、従来の概念で捉えられなくなった。これに対応するため、別なルールが必要になる。今回は、最初に柱の太さを決め、面積やスパンなど、柱を置くためのルールを設定した。構造における合理の“理”は、構造単独ではなく、建築のありようの中で変わっていくものであり、山梨チームとは、一緒にBIMを見ながら頻繁に打ち合わせしている」

デジタルと人を適材適所で


――互いの印象はいかがでしょうか
 山梨氏「向野さんは意匠のフロアに攻め込んでくる印象だ。ソニーシティ大崎や神保町シアタービル、乃村工藝社本社ビルなど、自分の名前で世に問うた作品は、ほとんど向野さんと一緒に考えたものだ。20年ほどの付き合いになるが、踏みとどまっていると越えられないチャレンジングな仕事も、向野さんと一緒だとアイデアがでてくる」
 向野氏「山梨さんは最初から形を決めてかかってくるタイプではないので、こちらも手探りの仕事となる。形へのこだわりもあると思うが、構造や設備のバランスを取りながら論理的に仕事を進める印象がとても強い。アルゴリズムや道理などの必然性を追求する建築家だ」
 山梨氏「向野さんは構造家として個性が強いが、最初に組んだプロジェクトで自分が免震構造を理解するプロセスを話してくれたことで、信頼できた。免震構造に懐疑的だったクライアントが、設計者を信頼し、その後に方針を変えてくれた。合理性の求め方が変わり、自分の設計が変わった。若い意匠設計者には信頼できる構造家や設備のエンジニアを捜してチームを組んでほしい」

撮影・野田東徳(雁光舎)

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