【日本建築学会賞】作品賞受賞の小堀哲夫氏、三分一博志氏に聞く | 建設通信新聞Digital

4月27日 土曜日

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【日本建築学会賞】作品賞受賞の小堀哲夫氏、三分一博志氏に聞く

小堀哲夫氏(左)、三分一博志氏(右)

人間を理解した建築追求 小堀哲夫氏

 自然に開かれた研究開発施設『ROKI Global Innovation Center-ROGIC-』で日本建築学会賞作品賞を受賞した。3月には同作品でJIA日本建築大賞を受賞しており、日本を代表する2つの建築賞で同年ダブル受賞を達成した。
 設計に際しては「人々の居場所づくりをテーマ」をテーマに据え、外部とゆるやかにつながりながら居場所を感じる空間を目指した。自然光や外気を積極的に取り入れた光・温熱環境は時間や季節で変化する天気・雲・空模様をそのまま内部に映し出し、審査員から高い評価を受けた。
 目指したのは「人間の感性を理解した建築」だ。「デザインに流行はあるが、人間の感覚は時代では変わらない」と語り、「人間の心地よさを追求した建築には永久に変わらないものがある」と強調する。「建築の機能が変わっても、たとえ建築が廃虚になっても感覚的な良さだけは宿り続ける」とも。
 開かれた空間にはセキュリティーや事故など課題も多かったが、「企業のための場でなく、多様な人々のための場」を何よりも大切にした。特徴的な建築の実現には施主や施工者の理解が不可欠だが、今回のプロジェクトでは関係者全員が情熱を持ってものづくりに取り組めたという。「1人の建築家や設計者に任せる時代ではなくなった」とし、「設計者、施工者、施主、利用者が自分たちの場所や都市を真剣に考え、思いを共有した」からこそ良い建築が生まれると力強く語る。「情熱を持って多様な人々が携われば、自ずと1つの結果が見えてくる」と。
 審査会後には、ある建築家から「建築の良心を大事にしてこれからも設計してほしい」と声を掛けられたという。「環境・人間を理解して建築をつくることが幸せな建築になると実感した」と振り返る。
 今後については、広義のまちづくりにも携わりたいと語る。「自分の住む場所に誇りを持つのは幸せなことだ。幸せな建築を目指すなら都市、まち、地域にも力を入れるべき」とし、生活者目線の居場所づくりを継続したいという。「経済だけではない切り口で、その場、その人、その地域のポテンシャルを覚醒させる建築をつくりたい」

風・水 素材の流れ可視化 三分一博志氏

 2011年の『犬島アートプロジェクト』に続き、『直島ホール』で日本建築学会賞を射止めた。2度目の受賞にも「建築単体としての自然環境的な評価だけでなく、特に集落や町民との関係性において高く評価していただけたことがうれしい」と率直に感想を話す。
 自ら作品を手掛ける時、幾度となく現地を訪れ、綿密な調査を行うことで知られている。今回も「2年半のリサーチから本村の集落は、風、水、太陽から導かれた集落の姿形をしていたことに気付いた。それは集落ができた中世(400年前)からのメッセージと受け取れた」という。「今度は直島ホールが、先人が大切にしてきたこの場所の風や水、動く素材の姿を後世に伝える手紙のような存在になってほしい」と願っている。
 瀬戸内海に浮かぶ直島は、国内外で活躍してきた建築家の作品が島の景観と調和し、世界中から注目を集めており、この建物によりまた新たな「直島建築」が誕生した。直島ホールは、地域住民のスポーツ・レクリエーションや文化、各種団体の活動、さらには防災拠点などに活用される多目的施設としてつくられた。
 設計に当たっては、「これまでの直島の取り組みである『アートの島』のイメージの中で、観光と町民の文化・暮らしとの関係をつないでいけるような建築としての役割と直島本来の動く素材の『流れ』をいかに次の世代に伝えるかをテーマにした」
 ホールの大屋根は総ひのき葺きで、直島の集落に多くみられる伝統的な入母屋形状に直島の風向きに即して風穴が開いており「この形状は、直島の動く素材の流れを可視化すると同時に空気の圧力差を生み、ホール内の空気が動くようになっている」。夏に窓を閉じても空気が緩やかに動くことで熱気が抜け、さまざまな活動ができるよう工夫されている。
 「これからも生まれ育った瀬戸内の自然や文化、地形や環境のすばらしさを建築を通じて多くの人に伝えたい」と地域に根差した設計活動により瀬戸内の魅力を発信し続ける。

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