“詳細設計付き”の工事が大きな威力を発揮している現場がある。新東名高速道路秦野IC~御殿場JCTで進む「河内川橋工事」(発注者=NEXCO中日本、施工者=鹿島・大成建設JV)だ。橋脚の基礎工法から橋脚、アーチなどあらゆる部分に合理化を目指したアイデアを盛り込んでいる。鹿島の三浦信幸所長は「クリティカルパスになる工程を減らすのがポイント」と語る。
まず目を引くのは、左岸側に設置された巨大な鋼構造物だ。崖に竹を斜めに割ったような形の土留め壁を構築して橋脚基礎を打つものの、工事用道路を仮設するのも難しい急峻な崖のため、台車にトラックを載せられるインクラインを構築。足場となる仮設構台設置に向け、いよいよ稼働が始まる。
基礎の大口径深礎杭構築では、最初に施工部に小口径の孔を掘削し、孔を上部から掘り広げながら排土を小口径の孔に落とし、地下に構築したズリ出し用作業導坑から排土する工法を提案した。「クレーンで揚土する作業が不要で、材料投入とズリ出しの動線も分けられる。坑口に防音蓋を設ければ、騒音も低減できる」(植田耕一郎副所長)というメリットがある上、「土留め壁や仮設構台を構築しながら、杭の施工に着手できる。クリティカルパスを減らせる」(三浦所長)という点が最も大きな効果だ。このため、工事用道路トンネルのほかに、坑内で4方向に分岐するズリ出しトンネルも構築した。
杭自体も、直径15mの杭部にD51の鉄筋を格子状に組む計画だったが、H形鋼の外側に凹凸がある鋼材「ストライプH」を杭外周に配置したSRC構造にして杭内部の鉄筋をなくすよう変更し、「鉄筋を大幅に減らす」(同)という。橋脚でも、埋設型枠と内部の帯鉄筋を先組みして現場で組み立てる「プレキャスト化」を実践する予定で、「既に実物大で試験済みで、夢物語ではない」(同)と自信をみせる。
橋脚とアーチの接合部でも工夫を凝らした。RC構造の計画では鉄筋が複雑で過密な構造となり、コンクリートを流し込むための支保工も必要になる。そこで、接合部を鋼殻コンクリート複合構造に変更することで、「過密鉄筋を避けられ、支保工も不要になる」(同)。アーチ部の張り出し架設では、長さ4.5mのブロックを23ブロックつなげる計画だったが、超大型特殊移動作業車を導入して1ブロック6-7mの計16ブロックにまで合理化する予定だ。
急峻な崖上に山側からアプローチするために構築する右岸側の工事用道路構台では、途中に高い高低差が生じてクレーンで資機材などを昇降するポイントをつくる必要があった。この工程遅延リスクを避けるため、「ほかの工事で使っていた大型の工事用車両昇降用リフトを設置する予定」(植田副所長)という。
詳細設計付きの工事は、施工者の提案でさまざまな合理化が可能になる手法として期待を集めて広がった契約手法だ。三浦所長は「下部工にたどり着くのが大変な現場だ。あらゆるところに合理化メニューを入れなければ実現できない。詳細設計付きで考える時間があることが大きい」とその威力の大きさを実感している。大きなインクラインと仮設構台が目立つ現場だが、出来高はまだ15%ほど(4月26日時点)。三浦所長も「これまでは設計を作り込んできた時期。やっと先が見えてきた」と口にし、今後も「墜落・転落や機械との接触など、安全に配慮するほか、崖の上に立地する民家に配慮して火気や騒音にも十分注意して施工を進めたい」と語る。