【西日本豪雨から1年】被災写真の洗浄ボランティア 「心の復興」支える活動に込めた思いとは | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【西日本豪雨から1年】被災写真の洗浄ボランティア 「心の復興」支える活動に込めた思いとは

 昨年7月に発生した西日本豪雨から1年が経つ。全国で猛威をふるう自然災害への対応へ、国は昨年12月に『防災・減災、国土強靱化のための3カ年緊急対策』を決定。防災・減災、国土強靱化に対する重点姿勢を前面に押し出した。それらの対応の裏側で、影ながら被災地を支えてきた建設会社の社員がいる。竹中工務店グループのアサヒファシリティズに勤務する中谷幸太郎さんだ。 20年以上もビルの運営管理に従事してきたという中谷さんが勤務するのは、竹中工務店グループのビル管理会社・アサヒファシリティズの広島支店岡山地区事業所。昨年7月の西日本豪雨で大きな被害を受けた地域にある。

 特に被害が甚大だった倉敷市真備町は約1200haが浸水。居住する地域で起きた未曾有の災害を前に「何かしなければならない」と思い立ったという。
 中谷さんは、夫人と一緒に活動を開始。浸水した家屋や土砂災害の現場で復旧作業を支援する一方、友人・知人の協力を得ながら、避難所に生活物資を無償で提供するなど、災害ボランティアを続けた。
 しかし、そうした災害ボランティアを継続していくためには、当然のことながら、時間的・経済的な負担が伴う。

「被災者のニーズに応えたい」という思いから洗浄ボランティアを決断した中谷夫妻

 被災者のニーズに応え切れていない現実に葛藤していたところ、中谷さんは、被災者が泥水によって汚れてしまった写真を大切に所持していることに気付く。
 汚れてしまった写真を「どうしていいか分からない」といった被災者の声に、普段から写真を撮ることが趣味であった中谷さんは、被災した写真の「洗浄ボランティア」を行うことを決断。それまでのボランティア活動で交流のあった10世帯から、思い出の詰まった大切なアルバムを託された。
 被災した写真の洗浄は「泥水に含まれるバクテリアによる写真の浸食を停止させながら、まだ浸食されていない部分を保全する」のだという。
 浸食された部分を水洗いして乾燥。その部分をエタノールで拭くという工程だ。
 連日の作業で2018年8月からの約半年で10世帯・約5000枚の写真を夫婦2人の力を合わせて洗浄した。
 浸食された部分は白くなってしまうため、写真を原形復旧(修復)することはできないが、子どもの写真など被災者にとって“特別な思い出”は、洗浄した写真をデジタル化することで対応。画像編集ソフトを駆使して、データの修復を行ったという。
 「写真が帰ってきて家族で見た。思い出は失っていないと思い、涙がこぼれた。やっと前を向けそうだ」「避難所生活で認知症が進んでしまった母親に写真を見せたら、その時の記憶が鮮明によみがえった。それが何よりうれしかった。写真が帰ってきた日が私たち家族の復興の第1歩だ」
 被災者から届いた手紙に記されていた声だ。
 被災者の「心の復興」を支えた中谷さん夫婦の活動は、竹中工務店グループにおける表彰制度である「環境・社会貢献賞」の社会貢献賞・優秀賞を受賞した。
 中谷さんは「社会貢献を評価していただけたことがとてもうれしい」と話す。

修復作業は1枚1枚ていねいに進められた


■竹中工務店「環境・社会貢献賞」とは
 竹中工務店およびグループ企業、現地法人の従業員などが、地球環境の保全・再生活動または社会貢献活動において会社、地域、社会への貢献で顕著な成果を上げた際に表彰する。従業員の地球環境・社会貢献への意識を啓発することが目的となっている。2006年に「環境貢献賞」としてスタートした表彰制度は、14年に表彰の対象を拡大。「環境・社会貢献賞」として、日々の業務や地域社会における活動の中で、特に顕著な成果を上げた取り組みを社長表彰している。

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