【クローズアップ】福島・相双レポート 地元企業が直面している"いま"と地域の"これから" | 建設通信新聞Digital

5月2日 木曜日

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【クローズアップ】福島・相双レポート 地元企業が直面している”いま”と地域の”これから”

 東日本大震災から10年。被災地域と地元建設企業は、震災前の課題に再び直面している。復興へ向けたさまざまな事業が落ち着くなか、人口減少と高齢化は震災前から過疎化が進行していた被災地域ではより深刻さを増す。さらに人口減少は、地元建設企業にとって地域で存在するための立ち位置の確認を難しくさせる。企業存続のための市場(工事量)見通しが厳しいからだ。10年前、こうしたことを見据え、復旧・復興事業について地元建設企業が共同受注することに踏み切った、福島県南相馬市の「南相馬市復興事業協同組合」に関わり現在、福島県建設業協会副会長で相馬支部長を務める、石川俊石川建設工業社長に、福島・相双地域のいまと今後について聞いた。

南相馬市で稼働する「万葉の里風力発電所」。ブレード径は92メートル、1基2,350kwの風車が4基整備された。日立グループを中心とした発電事業会社には、石川建設工業など地元企業も出資。風車設置は地元企業2社が2基ずつ手掛けた。風車の奥左手に見えるのは、原町火力発電所。経済と生活を支えた石炭火力だが、福島県は再生可能エネルギー導入を新エネ社会構想の1つとして、阿武隈と沿岸エリアの風力発電と送電線増強に力を入れる。既に石川建設工業など地元建設企業2社と地元電気企業の3社は、日立グループ企業が主導する「野馬追の里風力発電(旧称・八木沢風力)」の事業会社にも出資。こちらは2022年度に着工、沿岸エリアの風車より一回り大きな4,200kwの風車を13基設置する予定。地元企業が事業参画することで、地元合意や手続きがスムーズに進むほか、地元企業にとっては新たな収益源になる

■石川建設工業社長/石川 俊氏


 震災後に設立した復興事業協同組合は、いまも存続し共同受注は続いています。市発注の除染事業は大手ゼネコンのパートナーとして4年かけ除染作業を行いました。その後も、除染で集まった土を仮置き場に、さらに中間貯蔵施設に持って行くわけですが、仮置き場段階でもガスの発生などで維持管理が必要です。また河川土手の草刈り業務もこれまでは各企業が狭い範囲で行っていましたが、現在はロットを大きくしてもらい復興組合で事業を受託しています。

 今後についてですが、南相馬市は市の直営班を雇用してきましたが、そうした人たちも定年を迎え直営で道路維持工事を行うことが難しくなってきます。今後、直営班がゼロになった段階で、組合はこうした業務も受託したいと思っています。

 われわれは復興組合として地元企業が協業化していますが、こうした取り組みは全国共通だと思います。要は「だれがその地域を守るか」ということです。行政も人が少なくなっているし高齢化でOBを集めての対応も難しい。地元企業もそんなに体力があるわけではない。だからグループとして取り組むわけです。 形は、われわれは復興組合ですが、別の地域では復興JVかもしれないし、われわれが福島県建設業協会相馬支部として震災直後から取り組んだ復興生コンの枠組みとして使ったLLP(有限責任事業組合)かもしれない。少なくとも地域ごとに地元企業1、2社で地元を守る対応をしていくことはできないということは自明の理です。

 今後、福島県内の復興投資対象のほとんどは双葉郡で、相馬郡は90%の事業が終わりました。これから市場は半減どころか3分の1、もしかしたら10分の1程度まで縮小する可能性もあります。その時には組合が積極的に受注しわれわれ元請けは組合の直営班になる可能性もあります。福島建協相馬支部に加盟している企業は9社ありますが、そのうち3社は後継者がいないため、いまの社長の代で会社を閉めると言っています。別の3社は規模が大きいので自前で存続の道を探ると思いますが、残り3社ははざまにいてこれからどの道を選択するかです。ただいずれにしても、本来は企業は違っても技術者集団です。所属が同じ地域なら、関係ないという考え方ができるかもしれません。
 *直営班 道路維持作業などを市が直接行うために市職員に準じた身分で雇用された、いわゆる乙型職員。
 *復興生コン 円滑な資材供給のため地元企業が出資し期間限定で供給、復興工事生コン需要の25%を供給した。


■相双地域/「道の駅なみえ」を接続拠点に/持続可能なまちづくり実験

 福島県浪江町、南相馬市、双葉町と企業が地域を支える新たなモビリティー(接続)サービスの実証実験を行った。拠点は「道の駅なみえ」で、電気自動車で自宅や主要な場所をつなぐ巡回シャトルなど新公共交通の可能性も探る。過疎地でも持続可能なまちづくり実現に取り組む。

脱炭素社会への一歩が電気自動車。写真は道の駅に設置された充電スタンド

自宅と主要拠点を結ぶには町内公共交通が欠かせない


■南相馬市復興事業協組/市内の主要企業結集し受け皿に

 南相馬市は市発注として、市内生活全域全てを除染する事業条件として、南相馬市復興事業協同組合と共同して行うことをプロポーザル要領に明記した。2012年1月に発足した復興組合に市内に拠点を置く主要地元建設企業全てが参加した。

 地元企業が仕事を分担して行う協同組合方式は、除染や復旧・復興工事を地域企業が連携して工事を担う「協業化」を進めることで、将来の廃業に伴う事業承継や雇用継続などにつなげることも視野にある。

 福島県はこれまでも事業譲渡などM&A(企業の合併・買収)や共同受注に踏み切るケースが多い。南相馬の組合は、公共事業量減少で個別企業それぞれでは除雪体制が構築できないとして、08年に共同受注の受け皿づくりを始めた福島県南会津(宮下地区)の取り組みを参考した。


■福島・浜通り地域の産業回復へ基盤構築/イノベーションコースト構想と新エネ社会構想

 東日本大震災と原子力災害によって福島県の太平洋沿岸地、いわゆる浜通り地域(相双地域といわき)などの産業を回復するため、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクトが、「福島イノベーション・コースト構想」プロジェクトだ。

 具体的には、(1)廃炉(2)福島ロボットテストフィールドを中核にしたロボット産業集積(3)先端的な再生可能エネルギー・リサイクル技術を確立するエネルギー・環境・リサイクル(4)ICTやロボット技術などを活用した農林水産業の再生(5)医療関連(6)航空宇宙――の6つが主要プロジェクトとなる。このうち、南相馬市内に建設された「福島ロボットテストフィールド」は、復興組合加盟企業が力を合わせて整備したものだ。

地域を活性化させるには、新たな産業集積も欠かせない。その1つが福島ロボットフィールドであり、新たな農業や太陽光発電などの再生可能エネルギー導入だ。ただ新たに農業工場をつくっても、担い手がいなければ稼働できない課題もある


 また福島県は震災から5年目に当たる2016年、エネルギー社会のモデル創出拠点とする「福島新エネ社会構想」を決定。ことし2月には50年カーボンニュートラル実現目標を受け改定した。新エネ構想は、▽再生可能エネルギーの導入拡大▽水素社会実現のためのモデル構築▽スマートコミュニティー構築――が柱。このうち再生可能エネルギー導入として福島県内で、沿岸と阿武隈エリアで陸上風力の大量導入が現実化した。計画中を含め、379基、119万1450kWの風力発電所稼働が予定されている。





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