【記者座談会】東日本大震災から10年 | 建設通信新聞Digital

5月13日 月曜日

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【記者座談会】東日本大震災から10年

A 3月11日、東日本大震災から10年の節目を迎える。甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の県の復興状況はどうかな。

B 基幹インフラの復旧・復興は概成したと言ってよい。特に宮城では、6日に復興道路の三陸沿岸道路「気仙沼港IC~唐桑半島IC」(7.3㎞)が供用することで、県内の三陸道路が全線開通となる。

C 仙台市から気仙沼市を経由して、岩手県宮古市までの約230㎞が1本の道路でつながる。物流はもとより、救急医療や観光振興など、さまざまな分野への効果が期待できる。既に復興道路を起点に製造業の集積が進んでいる地域もあり、一部の自治体では工場用地を拡張する動きも見られる。

D 岩手、福島の両県内の一部区間は2021年度になるが、復興道路・復興支援道路全体では3月末までに96%が供用となる予定だ。“異例のスピード”で整備を実現できたのは予算の確保だけでなく、関係機関や地元の熱意、建設業界の底力があったからにほかならない。

A 基幹インフラ完成は復興のゴールではない。今後の課題は。

C 被災地の復興・再生は、インフラという舞台が整ったこれからが正念場といえる。地域自らが、新たに造られたインフラの活用策を考えていかなければならないからだ。

D 東北地方は被災地に限らず人口減少や高齢化が急速に進んでいるため、一朝一夕にはいかないだろう。人材育成も含め、中長期的な視野に立って知恵を絞っていく必要がある。

B 復興事業の収束が地域建設業に与える影響も懸念される。被災3県の21年度予算案をみると、投資的経費は前年度に比べ岩手の64.6%減を始め、宮城と福島も半減する。震災前のような価格競争の再燃が予想される中、担い手の確保・育成などへの対応も求められる。

D 震災伝承の取り組みが欠かせない。多くの犠牲の上に得られた教訓・知見は、他地域や次世代に伝えていく必要がある。被災地を巡るツアーなど、多彩なメニューを用意し、より多くの人に興味を持ってもらうことも重要だ。

福島県内の除染で発生した除去土壌など貯蔵する「中間貯蔵施設」のうち、除去土壌を埋め立て中の「大熊3工区土壌貯蔵施設」

◆福島は「脱炭素×復興まちづくり」推進

A 岩手、宮城の地震・津波被災地域に比べ、原子力災害被災地域の福島は復興が遅れている。

E 東京電力福島第一原子力発電所事故によって放射性物質が放出され、これまでの10年は、人が住むことができる環境に戻すために費やした時間だったといえる。環境省が進めた直轄除染では、建設企業が担い手となり、ピーク時には1日の作業員数が2万人にも及んだ。

F 帰還困難区域を除き、住むことができる環境になったものの、除染後の除去土壌などを一時的に保管する仮置き場が県内約1400カ所もあり、普通の生活環境ではなかった。中間貯蔵施設に約1400万m3の除去土壌などを運ぶ計画で、約1050万m3まで施設への搬入が進み、いまの仮置き場数は300カ所を下回っている。

A 福島の復興・再生への見通しは。

G 除去土壌などを45年までに県外最終処分することが、最重要課題だ。最終処分量を減らすためにも、除去土壌の再生利用がかぎを握っている。21年度から、再生利用と県外最終処分に関する全国での理解醸成活動をより強化し全国各地で対話集会を開く。

E 次の10年は、本格的な復興・再生のステージになる。既に打ち出した構想などに基づき、新たな環境施策を展開して「脱炭素×復興まちづくり」を進めることになる。



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