【2019年末記者座談会〈上〉】復興シンボル道路が相次ぎ開通/震災伝承の動き活発化 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【2019年末記者座談会〈上〉】復興シンボル道路が相次ぎ開通/震災伝承の動き活発化

 「平成」から「令和」に元号が変わり、新時代の幕開けとなった2019年も残り数日。ことしも全国各地で自然災害が発生し、大きな爪痕を残した。東北地方では10月の台風19号により、太平洋側の地域が甚大な被害を受けた。一方、東日本大震災からの復旧・復興は道路の開通が相次ぐなど、目に見える形で進んだほか、震災伝承の動きも活発化した1年だった。建設業界では「働き方改革」「生産性向上」という大きな課題の解決に向けて前進。年末恒例の記者座談会では、震災復興や台風19号、働き方改革、生産性向上などを中心に1年を振り返る。前半は震災復興関連を軸に話し合った。

気仙沼地域の希望の架け橋となる気仙沼大島大橋


司 会 震災から8年9カ月が過ぎた。復興・創生期間も残り約1年になったが、復旧・復興は総仕上げ段階に入ったのだろうか。
記者A 復興道路・復興支援道路の開通が相次いだ。2月に宮城県の南三陸町と気仙沼市を結ぶ2区間14㎞が供用された。これにより仙台市から気仙沼市に一本の高速道路でアクセスできるようになった。個人的には遠いイメージのあった気仙沼市がかなり身近になった。
記者B 3月には岩手県内の沿岸と内陸を結ぶ復興支援道路・東北横断自動車道釜石秋田線の釜石花巻道路約80㎞が全線開通した。9月に釜石市で開かれたラグビーワールドカップを始め、この道路を使って国内外から多くの観光客が沿岸地域を訪れているという。もちろん、今後も復興を後押しする道となる。
記者C 宮城県が震災復興のシンボルと位置付け、気仙沼市内で建設を進めていた気仙沼大島大橋も4月に開通した。島民にとっては半世紀にわたる悲願が成就したことになる。
記者D 自分も9月に大島に行ってきた。休日だったこともあり、大橋には車を降りて歩いている人たちがたくさんいた。橋の上からは気仙沼湾も一望できるので、絶好の観光スポットになっている。356mと、それほど長い橋ではないが、観光や経済、防災などの面からみると、地域の将来を支える“希望の架け橋”と言える。
記者B 仙台市が津波への「多重防御の要」として整備を進めてきた東部復興道路(かさ上げ道路)も11月に開通した。約6m盛土した道路で、海岸防潮堤や仙台東部道路などと多重防御で津波の威力を減衰する。
司 会 各地でシンボリックな道路や橋が開通したことで、復興を実感した人も多かったのではないか。ところで、復興道路・復興支援道路の今後の見通しや、その他の復興事業はどのような状況か。
記者A 復興道路・復興支援道路は、計画延長550㎞に対して74%に当たる406kmが開通している。残りの事業中区間についても20年度までに全線開通する見通しが8月に公表された。その後に台風19号災害もあったので、スケジュール的には厳しいとの見方もあるが、官民関係者の一層の努力が期待される。

一部施設が供用した高田松原津波復興祈念公園


記者C 復興のシンボルと言えば、国と岩手県、陸前高田市が連携して事業を進めている高田松原津波復興祈念公園の一部が9月にオープンした。犠牲者への追悼と鎮魂、震災の記憶・教訓の伝承、国内外に向けて復興への強い意志を発信する場となる。同公園と宮城県の施設は20年度末の完成、福島県の公園は20年度中の一部利用開始を目指している。
記者B 震災伝承の取り組みも活発化しつつある。3月には東北地方整備局と被災4県・仙台市などでつくる震災伝承ネットワーク協議会が、震災伝承施設として「たろう観光ホテル」(岩手県宮古市)など192件を認定した。これら施設のネットワークを活用して震災の教訓を学び、防災に関するさまざまな取り組みや事業を行う「3.11伝承ロード」のベースとなる。
記者D 8月には東北地域づくり協会と東北経済連合会が共同で「3.11伝承ロード推進機構」を立ち上げた。民間主導による震災伝承施設のツアー企画など、行政機関だけでは取り組みにくい分野の事業を担う組織だ。
記者A 震災伝承は地震・津波に限ったものではなく、すべての自然災害への備えや防災・減災を図る上で大きな役割を果たす。頻発・激甚化している自然災害に対し、震災で得られた教訓を生かすことが重要だ。
司 会 福島県の復興状況はどうだろう。
記者B 東京電力福島第一原発事故の影響とその処理という大きな課題は残っているものの、帰還困難区域を除く大半の地域で避難指示が解除され、復興・再生に向けた動きが本格化している。4月には原発事故の対応拠点となっていたナショナルトレーニングセンター「Jヴィレッジ」が全面再開するとともに、JR常磐線の新駅「Jヴィレッジ駅」も開業した。
記者C 帰還困難区域でも一部、避難指示解除の見通しがつきつつある。双葉、大熊、富岡3町の一部区域は来年3月に解除される予定だ。また、双葉、大熊、浪江3町から復興拠点事業などを受託している都市再生機構は4月、いわき市内に福島震災復興支援本部を設置し、復興まちづくり支援を進めている。
司 会 岩手、宮城両県とは状況が異なるものの、復興に向けて着実に前進している様子がうかがえる。地震・津波、原発事故という複合災害からいかにして復興・再生を遂げるのかを国内外に発信し、風評被害の払拭(ふっしょく)にもつなげてほしい。

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