【東日本大震災復興10年】震災の教訓を次世代へ 土木技術者11人のリレートーク動画配信中 | 建設通信新聞Digital

4月20日 土曜日

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【東日本大震災復興10年】震災の教訓を次世代へ 土木技術者11人のリレートーク動画配信中

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◆“絶望”を“希望”に
 東日本大震災の発生から10年の節目を迎える。想像をはるかに超えた巨大地震と津波、原発事故という未曽有の複合災害は、多くの人命・財産を奪い、社会インフラを破壊した。発災直後、がれきに埋め尽くされた被災地では“絶望”という言葉しか思い浮かばなかった。あの日から間もなく10年、被災地は大きく変わった。道路や港湾、河川・海岸などの基幹インフラの復旧・復興が概成したほか、新たなまちもつくられた。こうした事業に携わり、被災地に“希望”をもたらした立役者が土木技術者だ。

 東北地域づくり協会(仙台市、渥美雅裕理事長)は2020年夏、岩手と宮城、福島の被災3県の復旧・復興事業に携わった土木技術者11人にインタビューを実施した。対象は大手建設業や地域建設業、建設コンサルタント、行政機関の技術者、そして津波防災研究者とバラエティーに富んだメンバーだ。

 ある技術者は最愛の家族や家を失いながらも復旧工事に取り組んだ。一刻も早い復興のために最新鋭の技術で長大トンネルを短期間で掘り進めた者、大量の土をベルトコンベヤーで運ぶことを提案した技術者もいる。


◆誇りを胸に使命遂行
 事業のスピードアップのため、新たな整備手法であるCM方式や官民連携による事業促進PPPも導入された。多くの技術者がこれまで経験したことのない課題に直面したが、誇りを持ち、知恵を出し、創意工夫を凝らして使命を遂行した。

 同協会は、こうした貴重な経験や新たに得られた知見、土木技術者としての使命感などを聞き取り、1人5-7分の動画にまとめ、「東日本大震災復興10年 土木技術者リレートーク」と銘打ってホームページで公開している。発生が想定される南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模災害への備えとして、これらを災害対応に当たる土木技術者に伝え、今後の防災に生かしてもらうためだ。

 本特集では、梅野修一東北地方整備局長から土木技術者にエールをいただくとともに、11人が次世代に伝える熱いメッセージを紹介する。


あいさつ・国土交通省東北地方整備局長 梅野修一/災害対応に臨む「備え」に


 東日本大震災から間もなく10年が経過します。この間、全国から東北に向け多大なご支援を賜り、心よりお礼を申し上げます。東日本大震災からの復旧・復興事業につきましては、1日も早い復興を目標に、建設業界の皆さまを始め、県や関係市町村との連携、事業促進PPP(Public Private Partnership=パブリック・プライベート・パートナーシップ)の導入など、官民一体となって進めてまいりました。

 復興に向けたリーディングプロジェクト「復興道路・復興支援道路」や直轄河川堤防は、着実に整備を推進しております。また、「震災伝承施設」をネットワークとして結ぶことにより、震災の記憶と教訓を伝える道「3・11伝承ロード」の構築も進めているところです。

 震災伝承と同様に、「土木技術の継承」も非常に大切です。とりわけ「地域の守り手」として、復旧・復興に携わっていただいた建設業者の方々が、どのような思いで取り組まれてきたのかを、きちんと伝えていくことが非常に重要であります。

 今回、東日本大震災の復旧・復興事業に従事された土木技術者11人の方にスポットを当て、当時の発災直後における道路などの啓開から緊急復旧、そして現在の復興に至る過程において、現場でのさまざまな苦労や思い、工夫した点、若手技術者へ伝えたい技術などについて語っていただいております。このリレートークが、官民の土木技術者にとって今後の災害対応に臨むに当たっての事前の「備え」になることを期待いたします。



【目次】

・清水建設東北支店震災復興まちづくり建設所長 山内義一氏/「和と輪」大事に地元と一体

・鹿島東北支店土木部土木工事部長 西川幸一氏/次世代へ4つのポイント

・青紀土木代表取締役社長 青木健一氏/建設業の“尊さ”再認識

・武山興業常務取締役統括土木部長 佐藤功氏/地域を守る誇りある仕事

・石川建設工業土木部次長 緑川春美氏/堤防に込められた思いを

・堀江工業土木部課長補佐 渡邊英誉氏/長寿命化、復旧技術の習得を

・大日本コンサルタント執行役員東北支社長 向田昇氏/計画・設計段階から復旧戦略

・復建技術コンサルタント国土保全事業本部調査防災部技師長 佐藤真吾氏/後世に新たな知見・技術継承

・東北地方整備局北上川下流河川事務所長 佐藤伸吾氏/復興への貢献は崇高な使命

・宮城県女川町復興推進課土地区画整理係長 佐藤友希氏/職員派遣・受入の仕組み必要

・東北大学災害科学国際研究所災害リスク研究部門津波工学研究分野准教授 サッパシー・アナワット氏
 /世界に津波防災技術を発信

清水建設東北支店震災復興まちづくり建設所長 山内義一氏/「和と輪」大事に地元と一体

 岩手県陸前高田市でCM方式を活用した復興まちづくり事業の現場代理人として、品質や安全、施工管理を統括しています。今泉地区の山を削って500万tもの土を旧市街地に運び、約10mかさ上げするのですが、大型の重ダンプは既存の橋を通れないこともあり、ベルトコンベヤーを採用しました。

 事業の推進に当たっては「和と輪」という言葉を所長方針に掲げました。われわれだけではなく、地元の人と一体になって仕事を進めようという意味です。地元の建設会社の皆さんとよく話し合いをしましたし、仮設の商店を開いている皆さんのお手伝いもしました。

 災害が発生した際、建設業には、インフラをいち早く復旧することが求められますし、それがわれわれの使命です。

 大きな災害になると、多くの人を集めないと復旧に時間が掛かります。現場でも初めは何百人も泊まれる施設がありませんでしたので、内陸の一関市内のホテルを借り切り、バスで通勤しました。総務系の仕事ですが、こうした取り組みが必要になることを知っていただきたい。


鹿島東北支店土木部土木工事部長 西川幸一氏/次世代へ4つのポイント

 復興支援道路に位置付けられた宮古盛岡横断道路の新区界トンネル(長さ4998m)の現場代理人を務めました。非常に長いトンネルであり、高速施工が求められた工事でした。このため、避難坑から本坑に向かって作業坑を斜めに掘り、本坑を両側から2つずつ計4つの切羽で掘り進めました。日本で初めて、世界で3台目という4ブームフルオートドリルジャンボを採用し、高速施工を実現しました。

 今後、防災に関わる土木技術者の皆さんに4つのポイントをお伝えしたいと思います。1つ目は、自分の体を大切にすることです。良い仕事をするためには自分の体が健康で、家族に安心してもらう必要があります。

 2つ目は、「早く復興させたい」という気持ちを持ちつつも、品質第一で1つずつ丁寧なものづくりをしていただきたい。

 3つ目は、安全を第一に確保しながら作業を進めてほしい。われわれの仕事で事故を起こしては意味がないからです。

 4つ目は、地元の皆さんとできるだけコミュニケーションを取り、ものづくりに協力してもらうことが大切です。


青紀土木代表取締役社長 青木健一氏/建設業の“尊さ”再認識

 震災当時、(岩手県内陸の)北上営業所に勤務しており、内陸の建設会社やリース会社に連絡して重機を沿岸部に運んでもらいました。一番の課題は燃料がなかったことでした。県外からタンクローリーを持ってきて、給油してもらうことになりましたが、どこに重機があるのか分からない状況でした。そこで岩手県建設業協会の震災対策本部に給油係を設け、給油漏れをなくす対策を施しました。

 がれきだらけの地域を見てショックを受け、夜真っ暗な中で誰にも連絡できず、無力さも感じました。同時にわれわれがつくってきたインフラの重要性や、それらを維持してきた自分たちの仕事の尊さに改めて気づかされました。

 地域の建設会社や防災に関わる土木技術者には、われわれが経験した災害を人ごとにせず、次に自分の地域で災害が起きたら「被害を少なくする」「誰かを助ける」という気持ちを持って仕事をしていただきたい。

 近年、全国で激甚化した自然災害が数多く発生しており、震災前よりも私たちの仕事は重要度が増していますので、さらに頑張っていきたいと思います。


武山興業常務取締役統括土木部長 佐藤功氏/地域を守る誇りある仕事

 避難所に通じる道路は津波で流された家や、倒れた電柱などでふさがれ、通行できない状況でした。特に誰かに指示されたわけではありませんが、震災翌日から地元の建設会社の人たちと重機を出動させて「とにかく地元の人が車で通れるようにしよう」と道路を啓開しました。

 社員はみんな大変な状況でしたが、会社が残ったことが一番の励みになりました。会社に集まり、作業の指示を受けられたことで、折れそうな心が折れずに済みました。

 震災前『コンクリートから人へ』という言葉があり、われわれも「自分たちの仕事は世間の人に望まれていないのか」と感じました。しかし、復興工事に携わり、われわれの仕事は地域の人たちの生命や財産を守るのに絶対に役に立つ、誇りの持てる仕事だと改めて思いました。

 災害対応では、スタートダッシュが求められますので、常に心身健康でいることが大切です。建設業は誇りが持てる仕事ですが、ダンプが走れば埃が立つなど、住民に迷惑を掛けている部分もあるということを忘れないで仕事に臨んでいただきたい。


石川建設工業土木部次長 緑川春美氏/堤防に込められた思いを

 福島県相馬市内の蒲庭地区海岸災害復旧工事に携わりました。震災で母と祖父を失い、実家も流され、途方に暮れる日々を送っていましたが「いま自分ができることは何か」と考え、震災で壊れたさまざまな施設を復旧していくことが自分の役目と思いながら頑張ってきたつもりです。

 約5年の歳月を掛け、たくさんの職人さんたちの手でつくりあげた堤防は、私にとってかけがえのない子どものようであり、ものづくりをしてきて本当に良かったと思いました。

 昨年4月、大変お世話になった上司が67歳という若さで亡くなりました。仕事に対して非常に厳しい上司でしたが、私が現場で壁に当たると大きな声で「大丈夫だ」と言って的確なアドバイスをしてくれました。震災後は目の回るような忙しさの中、復興に全人生をかけたような方でした。

 どこかの海岸の堤防に立った時、ただのコンクリートと思わないで下さい。そこには震災で亡くなった方々と、復興してきたたくさんの人の思いが詰まっていることを忘れずに海を眺めていただけたら幸いです。


堀江工業土木部課長補佐 渡邊英誉氏/長寿命化、復旧技術の習得を

 震災を経験してから「地震が発生すると津波も起こるかもしれない」という考えを持って行動できるようになりました。今の時代はいつ大きな自然災害が発生するか分かりませんので、自分の身を守るために津波や洪水への対応を事前に考え、訓練しておくことが必要だと思います。私が携わった復旧・復興工事では、海岸線沿いの現場が多かったため、避難場所を指定して実際に避難する訓練を行うなど、津波が発生しても被災しないように教育・訓練しました。

 納入資材の放射線量を常に測定し、基準値以下の資材を使うことに苦労しました。

 今後はあらゆる災害を想定し、現状のまちを災害に耐えられるように再構築することが土木の役割だと思います。老朽化した構造物もたくさんありますので、土木技術者には古くなった構造物を長寿命化させるための技術を身に着けることが求められます。また、災害復旧工事の仕事はいずれも特殊で、その場に直面しないと対応が難しい場合もあります。土木技術者は復旧工事に対する知識も習得し、適切に対処できるように勉強することが大切です。


大日本コンサルタント執行役員東北支社長 向田昇氏/計画・設計段階から復旧戦略

 震災後、橋梁の被災状況調査や宮城県の道路事業監理業務、福島県のCM業務などに携わったほか、東北地方整備局が建設を進めている三陸沿岸道路の事業監理業務(事業促進PPP)に取り組みました。建設コンサルタントは道路や河川施設といった社会インフラの定期点検を担当しています。この点検業務が被災地の緊急調査でも力を発揮すると思います。

 今後も巨大災害の発生が想定される中、被災後、素早く復旧するための仕掛けを計画・設計の段階から仕込んで置くことが大切です。使用性や復旧性を考え、設計の枠を超えるような事象、損傷シナリオに対する復旧戦略を事前に備えることが重要です。

 製品を購入すると、取扱い説明書が添付されますが、橋梁などの構造物についても維持管理や点検、補修補強のマニュアルを用意しておくべきです。

 大規模自然災害の被害を、できるだけ少なくするため、災害リスクを想定し、ハードとソフトをどのように備えていくべきかを考え、社会的なコンセンサスを形成することが重要です。


復建技術コンサルタント国土保全事業本部調査防災部技師長 佐藤真吾氏
/後世に新たな知見・技術継承

 仙台市の宅地災害復旧業務を担当しました。被害メカニズムの解析や、公費による宅地災害復旧事業化の支援、復旧対策工の検討などです。この経験は2016年の熊本地震と18年の北海道胆振東部地震でも生かされました。特に私有財産である宅地を公共事業で復旧する事例は仙台市が初めてだったため、その実績が高く評価されました。

 巨大災害では、想像を超えた甚大な被害が至る所で同時に発生している場合があります。土木技術者はいったん、災害対応に携わると事態がある程度落ち着くまで、心身ともに休まる日は来ません。そのような中で健康を害さず、社会に貢献するには可能な限り自分が最も得意な分野の災害対応に積極的に関わることだと思います。

 3つの地震で私は、自分の知識や自社の力だけではなく、わが国で最先端の研究をしている学識者や専門家の力を借りました。今後、災害対応に当たる土木技術者には、専門家としてのプライドを持って業務を遂行し、後世に新たな知見や技術を引き継ぐ覚悟で取り組んでほしいと思います。


東北地方整備局北上川下流河川事務所長 佐藤伸吾氏/復興への貢献は崇高な使命

 当事務所管内は地震と津波により河川施設に非常に大きな被害を受けました。道路と兼用だった北上川の堤防は約1000m決壊しましたが、行方不明者の捜索や物資輸送に不可欠なため、応急復旧により発災から4日目に暫定1車線で通行できるようにしました。津波で浸水した29カ所には延べ2000台の排水ポンプ車を配置し、約3カ月、排水活動を続けました。

 堤防の本格復旧は専門家による検討委員会を設置して意見を聞きながら進めました。北上、鳴瀬両河川の河口部は2017年末に復旧を終え、現在は旧北上川の堤防約15㎞の整備を進めています。「かわまちづくり」をテーマとし、にぎわいのある石巻を目指します。

 今後も大規模災害は発生すると思いますが、土木技術者には未来の子どもたちの安全・安心、復興による新しいまちづくりのために頑張ってほしいです。

 復興事業に携わることは崇高な使命であり、その経験は必ず自分の将来に生きるはずです。自信を持ってひるむことなく、災害対応や復興に立ち向かっていただきたい。


宮城県女川町復興推進課土地区画整理係長 佐藤友希氏/職員派遣・受入の仕組み必要

 震災から約1カ月後の2011年4月19日に女川町の有志でつくる「女川町復興連絡協議会」が発足し、本格的な町づくりの議論がスタートしました。町側でも具体的な復興計画の策定に着手し、9月には町議会で議決されました。その後、12年3月に被災自治体で初めて都市再生機構とパートナーシップ協定を締結し、同年9月に町づくり事業の着工式を挙行しました。

 さらに13年3月に町中心部約200haの土地区画整理事業の認可を取得し、離半島地区は防災集団移転事業がスタートしました。15年3月に女川復興まちびらきを行い、19年2月までに宅地造成をすべて終了しました。

 東日本大震災クラスの災害に対応するには、全国各地の人の力を借りる必要があります。自治体の皆さんには、職員の派遣や受け入れの仕組みづくりを検討し、大きな災害に備えてほしいと思います。

 女川町が皆さんに助けていただきながら復興を進めてきた中で得た知識や経験、ノウハウを提供することでお役に立ちたいと考えていますので遠慮なく問い合わせをしていただきたい。


東北大学災害科学国際研究所災害リスク研究部門津波工学研究分野准教授
サッパシー・アナワット氏/世界に津波防災技術を発信

 2004年にインド洋津波が発生しましたが、母国・タイには津波の研究者がいませんでした。そこで私は津波の研究をしたいと思い、東北大学に来ました。震災当日は青葉山の研究室にいました。すごい揺れでしたので1階まで避難し、スタッフのカーナビで津波の様子を見て、インド洋津波を思い出しました。

 私は現在、建物などの被災データと津波の外力の関係を研究しています。これが分かれば今後、南海トラフ地震や海外の地震が発生した時にどのくらいの津波が来て、どれだけの被害が出るといったことを想定することができます。

 15年に仙台市内で開かれた国連の防災世界会議を機に11月5日が「世界津波の日」に制定されました。私はUNDP(国連開発計画)のサポートもしており、東南アジアや太平洋の小さな島国で、学校での避難訓練の実施方法やノウハウを教えています。

 震災から10年になりますが、まだまだ研究的な課題が残っていますので、さらに研究を進めてタイや他国にも津波防災に関する情報を発信していきたいと思っています。


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