【記者座談会】鹿島が社長交代/東日本大震災から10年 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

公式ブログ

【記者座談会】鹿島が社長交代/東日本大震災から10年

A 鹿島の社長交代が発表された。

B 現中期経営計画が終了し、次期中計が4月から始まるタイミングで、6年間率いた押味至一社長が退くことになった。天野裕正次期社長は入社して押味社長の所属していた横浜支店に配属され、浜松市の「アクトシティ」建設工事などで仕事をともにするなど縁が深く、もともと次は天野氏を、という頭があったようだ。今後は天野次期社長が土木、建築、開発の中核事業の強化を進め、押味社長は代表取締役会長として海外の投資開発事業や土木の海外展開などに力を入れることになる。

C 天野次期社長が、デジタル化について「属人的な部分が多い建設業の知識を言葉、数字、図面としてデジタル化し、社員がスタンダードに使えるよう蓄積して引き出しやすくする。新人から所長まで、生涯教育という意味での技術伝承が会社の存立を左右すると言っても過言ではない」と、そのあり方をきちんと整理していた点が印象深い。

B 押味社長が創業家に触れた部分も印象的だった。あくまでも個人的な思いということだが、「当社は181年の歴史がある。幾多の人が鹿島の伝統を引き継いで今日に至った。仕事にこだわりを持って物事を合理的に考えて社会に貢献する、という大前提を(創業家から)教わった。そのDNAをずっと引き継いで、次の代に伝えたいと思うのが当然だ。次の時代の旗手になる可能性もあるし、そう願っている部分もある。その時代に適した人がリーダーになるのは当然だが、DNAをつなぐという意味では創業家を重く見ている。特に拠りどころの鹿島昭一氏が亡くなったため、なおさら重要な課題としてDNAを伝えていくのが、われわれの仕事の一部ではないか」という非常に含みのある言い方で、創業家への強い思いを感じさせる一幕だった。

9日に都内で会見した鹿島の押味至一社長(左)と天野裕正次期社長。6月25日付で社長交代となる

◆経験と教訓継承、次なる災害への備えを

A 東日本大震災から10年となる11日、政府主催の追悼式が2年ぶりに都内で天皇、皇后両陛下ご臨席のもとに開かれた。

D 復興に区切りはないという声もあるけど、10年という時間が経過する中で顕在化してきた課題や積み重ねてきた知見もある。逆に『十年一昔』の言葉もあるだけに、震災の経験や教訓を風化させることなく継承し、次なる大災害に備えていくことは大切だ。

E そういう意味では、日本建築学会が震災10年を機に6日開いたオンラインシンポジウムは、地震と津波、原発事故だけでなく、集中豪雨など複合化・激甚化する災害に対して、都市・地域の整備、住民とコミュニティーの命と生活・文化をどのように守るかに焦点を当てた。分野横断の5ワーキンググループ(WG)が1年にわたる議論の成果を報告するとともに、震災後の会長経験者6人が基調講演したが、複合災害に対しては防潮堤や護岸などのハードだけでは限界があるというのがWGや歴代会長のほぼ共通した認識で、大震災以降の風水害や大規模地震などを受け、分野の垣根を越えたさらなる連携の必要性を強調する場面も多く見られた。

D 土木学会は大震災からの復興状況を総括する全4回の「連続リレーシンポジウム」のうち、3回までを終えた。昨年7月に仙台市で開いた第1回では縦割りの弊害とともに事前復興の重要性も指摘したが、名古屋での全国大会にあわせた9月の第2回は家田仁会長を始め、多くの登壇者が多発・激甚化する自然災害を見据え「東日本大震災の経験と教訓を将来につなげていく。そのための努力は惜しまない」と強調していたのが印象的だった。福島市で9日開いた第3回は福島復興が道半ばであることを改めて突きつけた。最終回となる第4回は“土木の復興”にスポットを当て、5月に都内で開く。どんな議論が展開されるか注目したい。



建設通信新聞電子版購読をご希望の方はこちら