【東日本大震災から10年】オフィスビル供給の不動産各社 防災への取り組みが進化・多様化 | 建設通信新聞Digital

5月3日 金曜日

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【東日本大震災から10年】オフィスビル供給の不動産各社 防災への取り組みが進化・多様化

 東日本大震災から10年が経過した。この10年間で、オフィスビルなどを供給する不動産各社による防災関連の取り組みがさまざまな進化や多様化をみせている。一方で経済社会情勢も大きく変化し、新型コロナウイルス対策やカーボンニュートラル、先端技術の活用といった新たな課題やテーマにも向き合う。各社のさまざまな取り組みにスポットを当てた。

 三菱地所と三菱地所プロパティマネジメントは9日、大手町パークビル(東京都千代田区)で感染症対策を取り入れた帰宅困難者受入訓練を実施した。ソーシャルディスタンスを確保した待機場所の提供、抗原検査の実施などに加え、警備ロボットも活用している。この訓練では、新型コロナに感染した疑いのある帰宅困難者が含まれているという想定で、警備ロボットによるリモート対応などもシミュレーションした。今回の取り組みで問題点などを洗い出し、より実効性のある計画の策定につなげたい考えだ。

三菱地所による警備ロボットを活用した訓練


 東日本大震災以降の10年間、各社ともハード・ソフト両面で災害対応力の強化を進めてきた。三井不動産は震災後の5年間で、既存ビル約60棟に対して約200億円の集中投資を行っている。それ以降も中圧ガスを活用した電気・熱供給事業などハード面の取り組みを進めている。日本橋と豊洲で展開しているスマートシティプロジェクト(電気・熱供給事業)は今後、八重洲エリアでも展開する予定で、地域のエネルギーレジリエンス向上を目指す。一方、ソフト面では20年7月に建物管理研修施設「三井不動産総合技術アカデミー」を開校し、災害を含めさまざまなトラブルを想定した訓練なども実施している。

三井不動産総合技術アカデミーの消火訓練


 阪神・淡路大震災以降、「災害時に逃げ込める街」を目標の1つに掲げて再開発事業を進めている森ビル。東日本大震災の発生当時、六本木ヒルズ(港区)では制振装置などが大きな効果を発揮した。「51階のレストランでは、グラスが1つも割れることなく、人々の安全を守った」(同社)。

 その後もさまざまな対策を強化し続けている。例えば、地震直後に建物の安全性を判断できるシステム「e-Daps」の独自開発もその1つ。地震計の計測データと建物固有の構造特性をもとに、建物へのダメージをリアルタイムに自動解析する仕組みで、テナントの事業継続や帰宅困難者の受け入れ判断にも役立つ。このほか、災害発生時の通信やインターネットアクセスの確保に向けた独自の「災害時情報配信システム」も構築し、4つの言語で情報を配信する。保有ビルなどでの備蓄食料は現在、民間で最大規模となる約28万食を確保している。

 芙蓉総合リースと住友不動産は、住友不動産麹町ガーデンタワー(千代田区)の芙蓉リースグループ本社フロア(16~22階)に、震災復興に取組む福島県浪江町の太陽光発電所由来の電力を導入する。ビル1棟単位ではなく個別のテナントフロアに導入するのが特徴だ。
 太陽光発電所を由来とする非化石証書を使用し、テナントの使用分とひも付ける契約(トラッキング情報の付与)を締結することで実現した。浪江町の太陽光発電施設は、震災から10年を経た復興の象徴の1つであり、今回の取り組みを契機として同町との連携を深めていく方針だ。同町も「再エネにとどまらず、今後さまざまな分野で連携の可能性を模索していきたい」としている。

 森トラストは11日、震災復興10年特別企画として仙台トラストシティ(仙台市)で「3・11希望の光」と題したライトアップを行う。仙台トラストシティは10年前の被災当時、非常用発電機で電気供給し、市内で明りを灯した数少ないビルの1つ。約3600人の帰宅困難者を受け入れた。その後も定期的に追悼キャンドルナイトや復興コンサートなどを開いている。

 ライトアップでは、震災当時に停電の暗闇のなか市民の心の支えとなった光をイメージし、特殊照明で天に向かって強い光を放つ。ゼネコンや設備会社などを含む44社が協力する。ライトアップの時間は、午後6時から翌午前6時30分まで。「遠方や自宅から天に伸びる希望の光をご覧いただき、少しでも多くの方の祈りを乗せ、未来に向け新たな一歩を踏み出す道筋としてほしい」(同社)。

森トラストの「3.11希望の光」 ライトアップイメージ



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