【新たな創生】神奈川県住宅供給公社が創立70周年 理事長が語る"これまで"と"これから" | 建設通信新聞Digital

5月2日 木曜日

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【新たな創生】神奈川県住宅供給公社が創立70周年 理事長が語る“これまで”と“これから”

 横浜、川崎市を中心に約1万3700戸の賃貸住宅を所有する神奈川県住宅供給公社が15日、創立70周年を迎える。過去には経営難に陥った時代もあった。危機を乗り越えた現在では、持続可能な社会の構築を目指し、団地の新たな入居促進策や地域住民との連携など多様な取り組みを進めている。超少子高齢社会で住まいが余る時代が到来したいま「神奈川県や民間企業、地域住民などとの連携が必要となっている」と話す、浅羽義里理事長に、公社の“これまで”と“これから”を聞いた。

神奈川県住宅供給公社理事長 浅羽義里氏


――70周年を迎えるに当たって抱負を
 「1950年の創立以来、公社は、県民に対し常に新たな住宅・暮らしを提案・提供し続けてきた。これからも、社会的企業(ソーシャルエンタープライズ)として常に未来を見据え、住宅・まち・暮らしをつくるパイオニアとして歩き続けたい」
 「70年間の歴史の中には一時、解散論が出るほどの経営難に陥り、民営化について議論されたこともあった。経営危機に陥ってからこれまで、借金を返すことに重きを置き事業を進めてきた面もあり、公社住宅に住む皆さんに苦労をかけてしまうこともあった。今後は、住宅など保有資産への再投資を適切に実施し、住民の皆さんの暮らしをサポートしていく」

――具体的な取り組みは
「超少子高齢社会やウィズコロナ時代などの課題を解決できる取り組みを進めていきたい」

――ウィズコロナを進める上で何か方策は
 「テレワークも可能な入居者専用シェアラウンジやコワーキングアンドカフェを備えた『フロール元住吉』を始め、小規模事業経営者などが住宅内で業務可能な在宅ワーク制度を設けた神奈川県西部の『二宮団地』など、住む人のライフスタイルに合わせて選択できる多様な住まいをそろえている。今後もその人に合った住まいや暮らし方の提案を目指す」
 「新型コロナウイルス感染症の流行により、住宅の選び方の基準が通勤利便性の重視から、暮らしの質重視へとシフトしてきている。郊外や駅から離れた物件でも、部屋の広さや自然環境を求め転居してくる人も増えている。仕事用の部屋を確保できれば、在宅勤務にも対応できる。コロナ禍で“以前の世界には戻らない”という指摘もあるが、前と同じようにはできないというネガティブな考え方ではなく、新しい生活様式を進めていけるチャンスとポジティブに捉え、事業を推進していきたい」

――超少子高齢社会については
 「少子化・人口減少に伴い、住まいが余る時代へと進んでいる。住宅や土地などの保有資産をどのように活用していくかを考える上で、神奈川県や民間企業、地域住民などとの連携も必要となってくるだろう。その中で、周辺地域を含めたまちづくり・暮らしづくりの中で公社ができることを探っていきたい。一方で、高齢化により増加している孤立死や介護問題への解決に向け、“人生100歳時代”をテーマとした住宅経営も課題だと考えている」

――老朽化やにぎわい減少など団地の課題解決に向けた取り組みを
 「団地の建て替えや再編、郊外型大規模団地の再生と地域創生事業に取り組んでいる。例えば、2019年には、相模原市の相武台団地内にデイサービスや多世代が集える施設を備えた多世代交流拠点『ユソーレ相武台』を開設した。団地センター地区の活性化と健康まちづくりのモデル事業として、新たな地域コミュニティーの創生を進めている」
 「耐震改修計画の推進や団地自治会の活動支援など、発災時の被害を低減する取り組みも必要だと感じる。団地みまもりサポーター制度の拡充や自治会との連携など高齢者、子育て世帯への支援を強化しつつ、新しい生活・新しいコミュニティーを見据えた暮らしの構築を目指す」

 (あさば・よしさと)1980年3月東工大土木工学科卒後、同年4月神奈川県入庁、横浜治水事務所に勤務。2014年4月県土整備局長、16年5月県副知事を経て、4月1日付で現職。神奈川県横須賀市出身、64歳。

■二宮団地/空き家率半減を実現

セルフリノベーション

 16年度から団地再編プロジェクトを実施している。小田原産の杉材を活用した地産地消型リノベーション物件や、DIYによるセルフリノベーションが可能な住戸、本拠地とは別に、趣味やテレワークに使える2地域居住制度など、多様なライフスタイルが実現できる暮らしを提案。
 現在では、これらの取り組みと実情に合わせた団地規模の縮小で、空き家率が40%から19%に下がったほか、20-30代の子育て予備軍となる入居者が全体の2割強を占めるようになった。
 公社が保有する未利用地を活用した共同農園や、明治時代に建てられた古民家でのコンサート、商店街の空き店舗を再利用したダイニングスペースの開放など、新たなコミュニティー形成にも力を入れ、新しい団地のあり方を探っている。
 同団地は、公社が1962年度から造成、戸建て分譲・賃貸を開始した開発面積約72haのニュータウンだ。戸数は約2300戸で、このうち公社賃貸住宅は856戸となっている。所在地は二宮町。

住みながら就農と地域活動に取り組むアグリサポーター制度


■ユソーレ相武台/若い世代も住みやすく
 相武台団地内商店街の銀行跡地をリノベーションしたユソーレ相武台は、ミスト岩盤浴を中心に、ネット環境完備のカフェやキッズスペース、デイサービス、多目的室を備え、誰もが集い、交流を生む施設として、2019年9月にオープンした。
 同地区では、団地の老朽化や商店街の空き店舗増加、住民の高齢化などにより、まちの衰退が目立ち始めていた。
 オープンから約1年。新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、一部施設の営業はできていないものの、施設の前に広がる芝生広場では子どもたちの笑い声が響き、多目的スペースでは若者やシニア世代が一緒になってワークショップを楽しむなど、高齢化が進む団地にかつての活気が戻りつつある。
 団地全体としては、若い世代の入居を想定し、団地のリノベーションにも取り組んでおり、若者にもシニア世代にも住みやすいまちに生まれ変わろうとしている。
 ユソーレ相武台の規模は、RC造2階建ての1階部分で、延べ床面積は382㎡。所在地は相模原市南区相武台団地2-3-4。

芝生広場には噴水水遊び場や 樹齢50年のケヤキも

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