【意匠と技術の融合が導く美】新豊洲ブリリアランニングスタジアムが日本建築学会賞を受賞 | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

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【意匠と技術の融合が導く美】新豊洲ブリリアランニングスタジアムが日本建築学会賞を受賞

 義足調整室を併設した障害者アスリートのためのトレーニングセンター「新豊洲ブリリアランニングスタジアム」が2019年日本建築学会賞(作品)を受賞した。“走る”をテーマに、コミュニティーの場として広く利用される民間主導の社会貢献型建築だ。次代の膜構造をつくる透明建材のETFE(高機能フッ素樹脂フィルム)を国内で初採用。湾曲集成材など環境に配慮した素材を用い、プログラムとデザイン、エンジニアリングを高い次元で融合させた武松幸治氏(E・P・A環境変換装置建築研究所代表取締役)、萩生田秀之氏(KAP代表取締役)、喜多村淳氏(太陽工業設計本部東日本設計部設計課長)の3人に話を聞いた。

左から喜多村氏、武松氏、萩生田氏

 東京都江東区豊洲にある新豊洲ブリリアランニングスタジアムは、「スポーツ×アート」をコンセプトに、誰もがスポーツやアートを楽しめる全く新しい施設を目指した。60m×6レーンのランニングトラックや義足調整室、シャワー室、更衣室を備えるスポーツ練習場であると同時に障害者と健常者が協働してアートパフォーマンスをつくりあげる「SLOW MOVEMENT」の拠点にもなる。これまでに日本構造デザイン賞(17年)、グッドデザイン賞(同)、BCS賞(18年)のほか、DFA(デザインフォーアジア)やオランダのFRAME賞を受賞するなど海外からの評価も高い。
 全天候型で公式記録を計測するため、全長108mのトンネルのような形状を持つ。ETFEを使用した大規模プロジェクトは国内初だっただけに、構造を担当した萩生田氏は、「武松氏のスケッチの時点から美しい架構があった。これにふさわしいディテールを考えるのに一番時間を費やした」と苦心しつつも、ETFEを支持する鉄骨の架構と面剛性をつくる網目状の木をハイブリッドにすることで、必然の美しさを導いた。
 また、「接合部は将来の移転を見据えて解体時になるべく木に傷がつかないようにシンプルにすることで、結果的に建て方にも大きく貢献できた」(萩生田氏)と語る。集成材を湾曲させたフレームは一般的なクランプ式圧締装置では量産が難しかったものの、武松氏の「家具のようにつくればいい」というアイデアから、通常のプレス機に特殊な治具を取り付け、フレームを4本ずつ製作することで工程を短縮させた。
 ETFEは新国立競技場のザハ・ハディド案で注目された素材だが、一般化に向けて「メーカーとして実績が必要だった」(喜多村氏)という状況だった。武松氏が研究してきたエアーフレームの考えを生かし、ETFEフィルムを2層構造にした上で、内部に空気を送り込むことで2mのスパンを空気圧のみで飛ばすクッション方式を採用。フッ素樹脂の一種で、透明で薄く軽いETFEだが、そのままでは日射によって室内温度の上昇がネックになる。室内の熱量をコントロールするため、外側にはシルバー、内側には白色の“ドット”をプリントすることで透過率を90%から35%程度に抑制。弱点を克服しつつ、利用者に快適な環境を提供する工夫も随所に施したことで、このプロジェクトを契機にETFEの一般化に向けた告示が進んだ。今後は「スポーツ施設はもちろんだが、広場や通路、休憩所などもターゲットにしていきたい」(喜多村氏)とさらなる普及拡大を目指す。
 今回のプロジェクトでは、武松氏自らスポンサーを巡り、建設資金や協賛企業の獲得に奔走したことで、他に類を見ない社会貢献型の建築をつくりあげた。「事業として納得し、賛同してもらえることが重要だった」と持続的な事業計画づくりを成否のポイントに挙げる。萩生田氏も「一般的な建築家とはフィールドが異なる建築家だ」と武松氏をたたえつつ、「関係者が東京五輪・パラ五輪という社会的意義があるプロジェクトに向けて、建物の向こう側に新しい状況や風景をつくることに純粋に取り組んだプロジェクトだった」とその意義を強調する。喜多村氏は「デザインと技術が高い次元で融合し、結晶した建物と評価していただき、エンジニア冥利(みょうり)のプロジェクトだ」と3人に加えて、さまざまな立場の関係者の思いを代弁する。
 プロジェクトを主導した武松氏は、「新豊洲ブリリアランニングスタジアムから地域の新たなコミュニティーが誕生した。今後もあのエリアで継続して活動できるように最大限努力していく」と先を見据える。

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