【木造建築の魅力発信】高知県立林業大学校長・隈研吾氏が東大で講演 魔法の素材「木」の力を強調 | 建設通信新聞Digital

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【木造建築の魅力発信】高知県立林業大学校長・隈研吾氏が東大で講演 魔法の素材「木」の力を強調

 高知県立林業大学校(高知県香美市、隈研吾校長)は、都内で隈校長の講演会を開いた。2018年度から初代校長を務める隈氏は、特につながりが深い高知県梼原町で手掛けた数々の作品を通じて木造建築の魅力と可能性を発信した。また、「森と都市をつなぐ」をテーマに森づくりに取り組むmore trees(坂本龍一代表)の水谷伸吉事務局長とのディスカッションでは、「やればやるほど魔法の素材だと思わされる」と空間の雰囲気を変える“木の力”を強調した。
 講演会は全国に開かれた取り組みを多くの人に知ってもらうため、東京都文京区の東大ダイワユビキタス学術研究館で4日に開いた。次回の講演会は10月28日、高知市の高知県立美術館ホールで開く。
 高知県立林業大学校は、森林面積が県土の84%を占める森林率日本一の同県で森林、木材産業、木造建築の各分野で基礎から専門的な技術を学ぶことができる。即戦力、スペシャリストを育てるために豊富な実習時間を確保した実践的なカリキュラムが特徴となっている。
 隈氏は、「高知とは縁があって。雲の上のまちと言われている梼原町では、この30年の間に複数の建物をつくってきた。林業大学校のシステムはすごく面白い。木をどう育て、どう使うかを両方カバーして教育している。校長への就任は尾崎正直知事から要請があり、どんどん話が進んで引き受けることになった。そのおかげで木を勉強したい熱心な若者にも会うことができた」と、就任のいきさつを披露した。
 梼原町との関わりについては、「1989年に木造の芝居小屋が壊されそうになっているので助けてくれと声がかかった。芝居小屋には昔ながらの格天井が現存していた。内部も素晴らしく、こんな劇場が山の中に残っていたことに驚いた。当時の町長と懇談して、こんなに素晴らしい建築物を壊してはいけないと訴えた。その後、町の人たちと仲良くなり、いろんな建物をつくった」と振り返った。
 初めて手掛けた本格的木造建築物である梼原のレストランでは、土壁にすさ(繊維)を何倍も入れてもらって柔らかみを創出したほか、照明器具も竹細工の職人とじっくり話し合ってデザインを決めるなど、「職人に活躍してもらった」という。
 マルシェ・ユスハラでは、梼原町に数十件も残っている茅葺きの茶堂に着想を得た。「街道沿いに旅人をもてなすカフェとして茶堂をつくった。梼原の人はおもてなしの文化をいまも誇りに思っている」ことから、茅を外壁に取り入れた。
 講演に続き、水谷事務局長と隈氏が「建築と森づくり」をテーマにディスカッションした。木の魅力について隈氏は「やればやるほど魔法の素材だと思わされる。テクスチャーマッピングで図面をつくるが、木はほかの材料と違って空間の雰囲気がまったく変わってしまう。木が人間という生き物にとって特別な響きをするのではないかと思っている」とし、水谷事務局長は、「木目に直線なものはない。本来直線的なものは森の中に存在しないので、そこが温もり、安心感をもたらしているではないか」と述べた。

水谷局長とのディスカッション

 これからの林業、木造建築に求められる人材について隈氏は、「若い女性などが入ってくると面白くなる。自分の事務所の体験でもいろんな国の人がいると面白い。同質の人間だけだとコミュニケーションが画一化してしまう。木は一生関われるものだと思っている。若者からお年寄りまで関わってくれれば」と期待を寄せた。

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