【建設産業×5G】大成建設が力触覚伝達型遠隔操作システムを開発 遅延なく直感的にロボットを操作 | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

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【建設産業×5G】大成建設が力触覚伝達型遠隔操作システムを開発 遅延なく直感的にロボットを操作

 建設産業における「5G」(第5世代移動通信システム)の活用が鮮明になっている。その代表的な取り組みの1つが、大成建設の「力触覚伝達型遠隔操作システム」だ。カメラによる画像(視覚・聴覚)と力加減(触覚)を頼りに、人間がロボットアームを遠隔で操作する、この技術にとって大量のデータを遅延なく通信することができる5Gの魅力は大きい。

力触覚伝達型遠隔操作システム。人間の動きを学習したAIによる液体の自律計量デモンストレーション

人の動きをロボットに“転写”

 大成建設が開発した「力触覚伝達型遠隔操作システム」の最大の特徴は、何と言っても人間の力加減を組み込んでいる点だ。
 スカイプなどのテレビ電話に代表されるように、情報伝達の手段として「視覚」「聴覚」を用いる技術は既に身近に広がっているが、人間の「触覚」を双方向で伝える技術はそう存在していない。
 同社エンジニアリング本部エンジニアリングソリューション部自動化ソリューション室の大手山亮氏は「既に双方向性が確立されている視覚と聴覚に触覚を組み込んでいくことができれば、おもしろいことになる。その発想が取り組みのベースになっている」と話す。

エンジニアリング本部エンジニアリングソリューション部自動化ソリューション室シニアエンジニアの大手山氏(左)と廣木正行氏

 キーワードは「アバター(分身)」とするように、遠隔操作によって自らの分身と化したロボットを遠隔地であっても遅延なく動かす。この技術にとって「遅延がない=人がロボットを直感的に扱う」ことができる利点はキーテクノロジーの1つになる。
 特に人がロボットを「直感的に操作する」ためのソリューションとして5Gに対する期待は大きい。
 というのも、この力触覚伝達型遠隔操作システムの開発は「見る=視覚」「聞く=聴覚」「触る=触覚」という人間が持つ3つの感覚を双方向で伝達することができれば、労働者を集約する従来型の産業形態から「労働力」を集約する産業形態への転換を提案できるのではないか、という一種の“仮説”からスタートした。
 例えば、現場から離れた家やオフィスにいながら、何らかのデバイス(ロボットアーム)を遠隔操作することで、離れた場所での仕事をこなす環境をつくり出せれば、「労働者が現場に集まって労働を提供する従来型の労働者の集約ではなく、労働力を集約する新たな仕組みを築くことができる。いわば場所や時間の壁を越えた、新しい働き方を提案できる」からだ。
 特に「遠隔操作は双方向で瞬時に情報を伝達することによって成り立つ。その情報を伝達するための通信インフラは非常に重要。遠隔操作を軸に労働力不足への対応にチャレンジにしようという、この取り組みにとって、大量のデータを瞬時に“やりとり”できる5Gは必要不可欠な技術」だという。
 AI(人工知能)の発達も技術開発の大きな追い風になっている。
「コンセプトの1つとして、われわれが一般的な産業用ロボットと違うアプローチをしてきたのは、プログラミングによって動きを書くのではなく、実際に人間が行う動きをそのままロボットに“転写”すること」と話すように、実際の人の動きをベースにロボットが“自律的に働く”という将来を描く。
 「遠隔操作におけるロボットと操作者の一体感が高まっていけば、人間が持つ感覚的な動きや判断までをもロボットに転写することができる」
 そこにAIを組み込んでいけば、遠隔操作によって行われた特定の作業(操作データ)をAIにディープラーニングさせてロボットに移植。いわば、人間の動きを「学習したロボット」が自律的に働くという世界に近づく。
 ロボットが自律的に働く世界が実現すれば、遠隔操作によって、日本の深夜帯に昼間である外国の労働力を利用するという「時間と場所を越えた働き方」だけでなく、同社が目指すアバターによる省人化・省力化が現実味を帯びてくることになる。

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