日本建築士事務所協会連合会(佐々木宏幸会長)の第43回建築士事務所全国大会(福島大会)が4日、福島市のとうほう・みんなの文化センターで開かれ、「七転び・八起き~福島からのメッセージ」の大会テーマのもとに、未曾有の大震災から必ず復興を成し遂げるという福島の強い決意を全国に発信した。特に、過去に経験のない原子力災害との苦闘の中に、わが国の社会全体が向き合うべき課題と、福島の未来への希望を語り合った座談会を通して、建築士事務所が担い果たしていく役割の大きさを再確認する場ともなった。
◆頻発する災害へ自覚と準備必要
この中で、菅野氏は全村避難について「原子力リスクだけでなく生活変化のリスクとのバランスが重要だった」と振り返り、住民のコミュニティーが維持できるよう、全人口の90%を時間距離1時間以内の場所に2カ月かけて避難させたことを紹介した。
◆目指す「生活の質」建築が示すべき
鈴木氏は「時間の経過とともに新しい課題が出てくる。発災時だけのことを話しても全体像が見えないのが原子力災害からの復興の特殊性だ」とした上で、その広域的・長期的災害からの復興では「QOL(生活の質)、コミュニティーの質、環境の質をどうすべきか、その目指すべき方向を具体的に示す必要がある」と強調。特に生活の質について、「具体的な基準を示してこなかったのは建築に取り組む側の問題であり責任でもある」と厳しく論じた。
規格外の農作物や畑に廃棄されていた柿の皮など「地元の人に見過ごされてきた本当にいいもの、価値を最大化するような商品化や流通に取り組んでいる」という小林氏や、全国新酒鑑賞会の金賞受賞銘柄数で市場初の7年連続日本一に導いた新城氏の「地域の産業をどう育てるか、そのために何が必要か、力を合わせてやろう。観光は光を観るものであり、自分たちの“光”をもう一度見直して、必要な投資をして光を取り戻そう」という訴えとともに、、「国家や市場が揺れ動く中で、グローバルな視点を持つ地域社会を蘇生し再生していくことがこれからの大きな流れになっていく」(鈴木氏)、「経済成長だけがすべての社会から成熟社会にどう進むか。それが2度と起きてはならない原発事故の中から学ぶことではないか」(菅野氏)といったメーセージが発せられた。
◆自然災害に建築ができること探求
全国の建築士事務所から約1500人が参集した福島大会を主管した福島県建築士事務所協会の渡邉武会長は、2011年10月に第36回大会として開催が予定されながら、東日本大震災により断念せざるを得なかった「無念の思い」を口にしながら、全国から復旧・復興に寄せられた支援に謝意を示し、「福島のいまの姿を全国に伝えてほしい」と呼びかけた。日事連の佐々木宏幸会長も「日本各地で自然災害が頻発している。このような自然災害に対し、われわれ建築に携わるものがどう対処していかなければならないか、国土強靱化基本計画とあいまって真剣に取り組んでいかなければならない」と強調。昨年設置した災害対策特別委員会で「あらゆる自然災害に対して建築ができることを探求していきたい」としたほか、働き方改革やBIMの普及促進にも強い意欲を示した。
淡野博久国土交通省官房審議官や内堀雅雄福島県知事、木幡浩福島市長からの来賓祝辞に続いて、日事連建築賞の表彰では選考委員長の富永讓氏が「建築の意義、建築賞の意義とは言葉や情報では伝えられない、場所をつくり出す力を顕彰すること」だと指摘し、優れた建築を生み出そうとする受賞者の努力をたたえた。
伊藤光洋副会長が大会宣言した後、次回大会は20年10月9日に福井市で開催されることが発表され、大会旗が渡邉会長から佐々木会長を経て木下賀之福井県建築士事務所協会長に手渡された。