【クローズアップ・大成建設】見えない地盤を映し出す「切羽プロジェクションマッピング」 | 建設通信新聞Digital

5月2日 木曜日

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【クローズアップ・大成建設】見えない地盤を映し出す「切羽プロジェクションマッピング」

 同社が富士テクニカルリサーチ、マック、古河ロックドリルと共同で開発した「切羽プロジェクションマッピング」は、削孔ガイダンス付きのコンピュータージャンボから得られる座標情報や地盤を削孔する際に用いたエネルギーによって、正確な位置や岩盤の硬軟分布を定量的に把握。取得した情報をリアルタイムに処理することで、切羽に地山情報を映し出す仕組み。
 というのも、複数の作業班が昼夜2交代(3交代)で掘り進めていくトンネル工事にとって、地盤の硬軟や留意すべき弱層といった地山情報の引き継ぎは欠かせないポイントの1つ。従来は撮影した写真など資料や口頭で留意すべき点を伝えてきたが、掘削した切羽は吹き付けコンクリートで覆ってしまうが故に地盤の硬軟や、その具体的な位置は直接目視できない。
 地山の状況を的確に把握しながら掘り進めたい作業員にしてみれば、見えない地盤を「見たい」「知りたい」というニーズがあった。
 切羽プロジェクションマッピングを開発した大成建設・技術センター社会基盤技術研究部地盤研究室(岩盤チーム)の谷卓也チームリーダーは「作業員が安全かつ効率的に施工するために必要な情報を提供することが重要。しかも作業員にとって使いやすくなければ“現場で使える技術”にはならないという強い思いがあった」と明かす。

谷チームリーダー

 その言葉どおり、切羽プロジェクションマッピングの最大の特徴は切羽をスクリーンにして地盤の硬軟分布を誰の目にも分かりやすいビジュアル画像で映し出すこと。それもボタン1つのワンタッチ操作で“かまぼこの切り口”のような形状の切羽に正確に投影することができる点だ。

切羽をスクリーンに、岩盤の硬軟分布を分かりやすく色分けして映し出す(写真上)。ボタン1つのワンタッチ操作で正確に投影することができる

 「切羽に硬軟分布や留意すべき弱層の位置を正確に映し出すためにいちいち(コンピュータージャンボの上部にある)プロジェクターの位置を調整していたら現場では使えない。そこに苦心していた。いま振り返れば、大きなハードルだった」
 それを解決したのが、プラネタリウムや科学館、博物館などの投影システムで用いられる「歪み補正」の技術。「展示会に出向いて課題を解決できる企業を探していたが、意外にもたまたま出席した打ち合わせで出会った人とのつながりから、そうした技術を持つ富士テクニカルリサーチに行き着いた。本当に人との出会いや巡り合わせに助けられた」と振り返る。
 こうした人や企業との出会いによって開発された切羽プロジェクションマッピングは当時、掘削作業が進められていた東北地方整備局の下川井トンネル工事に適用された。
 地元から大きな期待が寄せられる復興道路ということもあって「早期の完成が求められる中で発破する際の装薬量の適正化に苦心していた現場であった」だけに地盤の硬軟分布を正確かつビジュアル的に表す切羽プロジェクションマッピングが現場ニーズに応える“使える技術”として、その効果を発揮したことは言うまでもない。

■ひと口メモ
 現場への積極的な普及を念頭に、開発コストを低減している点も特徴の1つとなっている。コンピュータージャンボの上部に設置するプロジェクターも市販品を活用するなど、汎用製品によるシステム構成で開発コストの抑制を徹底した。
 ポイントとなった切羽の形に沿って正確に映し出す仕組みを支える位置座標(向き・傾き)は、コンピュータージャンボが有する座標情報を有効利用。その座標情報はプロジェクターを制御している小型PC(プロジェクターと一緒の専用保護ケースに格納)に伝送。削孔エネルギーによる地盤の硬軟情報はクラウドサーバーを介して即座にプロジェクターに伝達するため、リアルタイム性も確保されている。
 プロジェクターを粉じんなどから守るための手段として「専用保護ケース」も開発した。送気ファン、排気ファンの適切な組み合わせ(廃熱機能)やプロジェクターのレンズを守るシャッター機構の搭載など、基本的にノーメンテナンスで活用できる現場での“使いやすさ”に工夫を凝らしている。

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