【さまざまな"見え方"を一目で】大成建設「T-Sight simulator」 こだわった"可視率"とは | 建設通信新聞Digital

5月10日 金曜日

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【さまざまな“見え方”を一目で】大成建設「T-Sight simulator」 こだわった”可視率”とは

 プロジェクトの推進にとってシミュレーションの重要性は言うまでもない。誰の目にもわかりやすく可視化された客観的なシミュレーションは計画の妥当性を裏付ける根拠や関係者の合意形成、場合によっては当初計画からの改善案の検討に役立つからだ。計画段階からものづくりを主体的に担っていくゼネコンにとって「解析技術の高度化」は大きな武器と言える。

 建築を取り巻く熱や風、音、光、電磁波といった目に見えない要素を解析する「建築環境工学」分野の“王道”とも言える解析技術。そうした従来からの解析技術とは異なる新たなジャンルを開拓したシミュレーション技術がある。

 大成建設の景観・眺望シミュレーション「T-Sight simulator」がそれだ。

T-Sight simulator「劇場観客席の見通し(可視率)」シミュレーション


 開発のきっかけとなったのは、地熱発電所の冷却塔から出る白煙がどこから見えて、どこで見えないのか。それを把握・検証したいという「白煙範囲の解析+可視化」へのニーズだった。

 というのも、景勝地からの景観(白煙が見えるかどうか)は地熱発電所の立地選定における重要なファクターの1つ。あらゆる場所からの「見え方=可視率」を仮想の3次元空間に正確にヒートマップ表示(シミュレーション)できれば、効率的な立地選定や合意形成の支援など“景観コンサルティング”の有効なツールになる。

 開発者の技術センター・技術企画部技術開発戦略室戦略チームの佐藤大樹チームリーダーは「気になるポイントを絞ってフォトモンタージュやパースを作成する従来の景観評価は限られた視点からの見え方や特定の関係者の主観的な評価になってしまう。そもそも景観という公共性の強い要素に対して公平な評価とは言えない」と話す。

佐藤氏


 あらゆるエリア・場所からの「見え方」を一目で正確にシミュレーションできれば、本当に評価すべきポイントを見逃すことはない。結果として、客観的かつ公平な評価ができるというわけだ。

 こだわったのは、より厳密かつ正確な「可視率」。特に伝熱・光学分野(建築環境工学)における「立体角投射率」の理論を組み込むことで、汎用のCG機能では構築できないより人の目に近いリアルな可視率を再現した。

可視率の評価方法イメージ


 それは「建築環境工学の研究者だからこそ構築できた意匠設計者のためのシミュレーション技術」であった。

 幾度となく行われたテスト解析と試行錯誤によって生み出された、この技術は他の用途にも“昇華”していく。

 一例が人の目から見た可視率を「緑の割合」に置き換えた緑視率のシミュレーション。「緑視率はもともと存在する指標であるが、人の実感として緑を増やすことが重要。都市緑化のパラメーターとしてだけでなく、近年はオフィスなどのバイオフィリックデザインへの活用ニーズも高まっている」(同)という。

 これまで有効なシミュレーション手段がなかった劇場での「観客席からの見通し」への応用や、マーケティングのための人流解析などで急激なニーズが高まっている「監視カメラの配置シミュレーション」など、その対象は絶えず広がりを見せている。

 こうした“見え方のシミュレーション技術”は、街区単位での避難計画や感染症への対応といった安全・安心の確保、今後のスマートシティーの推進といった新たな展開も期待されることになる。

景観・眺望シミュレーション「T-Sight simulator」

◆言葉ファイル「可視率」

 可視率とは、特定のポイント・視点からの「見え方」を示す数値的な指標を指す。

 例えば、劇場・ホールには舞台空間が見えにくい座席、いわゆる「見切れ席」(割引・非売の対象となる収益性の悪い席)が存在するが、この見切れ席の削減に有効に機能するのが、設計段階での的確なシミュレーションとなる。

 同社は、座席からの見通し(見やすさ)が劇場の価値にも影響する重要な設計要素であるにもかかわらず、それまで有効なシミュレーション手段がなかった点に着目。景観・眺望シミュレーション「T-Sight simulator」の展開として、その特徴である可視率を用いた「観客席からの見通しシミュレーション」を構築。BIMデータ(設計案)をシミュレーションモデルに、全座席からの見やすさを一目で把握できる設計支援ツールを開発した。

 すべての座席からの見え方(可視率)を解析することで、例えばバルコニー席での腰壁や手すりによる舞台の見にくさ、他の観客による舞台の見切れなどを把握。シミュレーションの結果から、改良すべきポイントを導き出すことで、劇場やホールのような複雑な3次元形状の空間であっても、座席からの見通しを的確に改善することができる。

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