【レジリエンス社会へ】清水建設 | 建設通信新聞Digital

5月12日 日曜日

レジリエンス社会へ

【レジリエンス社会へ】清水建設

超高層ビルの揺れを半減 建物自体が制振装置に「BILMUS」を積極展開へ

 超高層ビルなど建築物のレジリエンス性能を高める画期的な技術がある。建物自身を制振装置として機能させることで、地震や強風による建物の揺れを抑える清水建設の新たな制振システム「BILMUS(ビルマス)」がそれだ。レジリエンス社会を実現するための「耐震」「免震」「制振」に続く“第4の構造システム”として今後の積極的な展開を見通す。

 BILMUSは、超高層ビル(建物)を上層階と下層階に切り分けて、その連結部分を一般的な免震建物に使う積層ゴムとオイルダンパーによって“つなぐ”ことで、上層階と下層階が互いに建物に伝わる揺れを打ち消す。いわば、上層階を“錘(おもり)”にしてビル自体を制振装置として機能させる仕組みとなる。

 錘となる上層階の重量がビル全体の10-50%になる位置に連結部を配置する。連結部を介して、上層階と下層階が互いに揺れを打ち消す方向に動くことで、地震による上層階の揺れを従来の制振構造の半分以下に抑えられるという。
 ビル自体が制振装置の役割を果たすことから、これまで各層に配置していた制振ダンパーの台数を大幅に削減できる。その分のスペースを有効活用することで、意匠設計の自由度が高まるという利点もある。

「BILMUS」の構造イメージ

◆実用化への課題解消

 切り分けた上層階と下層階が互いに揺れを打ち消すように動く、この発想を実用化するための課題となったのが「強風」への対応だった。

 というのも、積層ゴムで構成する“柔らかい構造”の連結部分は台風レベルの強風に対しても変形する。揺れによって最上階まで連結部分を貫通して昇降するエレベーターの安全装置が働いてしまう懸念があったからだ。

 だからこそ、強風でもエレベーターを停止させないための工夫として、強風による揺れにのみ作用する耐風ロック機構「ウィンドロック」や、連結部分の過大な変形を防止するための安全装置「eクッション」といった周辺技術を新たに開発した。

 こうした周辺技術を組み合わせることで、第4の構造システムとしての“適用条件”を整えていった。

◆第4の構造システム

 建物における一般的な“地震への備え”は、建物の強度を上げて揺れに力で耐えていく『耐震』、揺れの周期をずらす『免震』、地震によるエネルギーを吸収して揺れを抑える『制振』の3種類に大別される。

 設計本部構造計画・開発部構造解析・計画グループの牛坂伸也設計長は「上層階と下層階に切り分けたビル自体が互いに揺れを打ち消す、これまでとは異なる新たな発想・考え方を具現化するBILMUSは、第4の構造システムになる」と話す。

 「3・11」以降、建物の耐震性能に対する社会的なニーズが高まりを見せる中で、建物自身の重さを使って、上層階と下層階のそれぞれの揺れをコントロールする画期的な技術は、まさに従来の枠組みを超えた新たな制振システムと言える。

◆オール清水で具現化

 設計本部構造設計部2部の今井克彦グループ長は「建築に求められる要求性能は非常に高度化・複雑化している。より効率的に揺れを制御する技術を生み出さなければ、これからの新しい空間づくりに対応できなくなるという思いがあった」と明かす。

 「これからの持続可能なまちづくりに、清水建設としていかに貢献できるのか。そういう発想が開発の原点になっている」と話すように、多様化・複雑化する社会課題に応えるための技術として今後の積極的な展開を見通す。

 技術研究所の福喜多輝安全安心技術センター長は「さまざまな実験・解析を繰り返し行うことで、本当の意味でシビアに技術としての性能を作り込んだ」と振り返るように、それは“オール清水”の技術力を結集して具現化された技術でもある。


(右から) ▽技術研究所安全安心技術センターの福喜多輝センター長 ▽設計本部構造設計部2部の佐藤宏氏 ▽設計本部構造計画・開発部構造解析・計画グループの濱智貴グループ長 ▽設計本部構造計画・開発部構造解析・計画グループの牛坂伸也設計長 ▽技術研究所安全安心技術センター免震・制振グループの吉田直人氏 ▽設計本部構造設計部2部の今井克彦グループ長



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