【2次災害での毀損を防止せよ】コーアツの静音型噴射ヘッド新開発 製品化までの道のりに迫る | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【2次災害での毀損を防止せよ】コーアツの静音型噴射ヘッド新開発 製品化までの道のりに迫る

 ガス系消火設備で国内トップシェアを誇るコーアツ(兵庫県伊丹市)は、環境配慮型ハロゲン化物消火薬剤「FK-5-1-12」向けの静音型噴射ヘッドを新たに開発した。コンパクトサイズのヘッド内で、音を抑えつつ液体の消火剤を気化させながら噴射させるのは技術的に極めて困難だが、消火による2次災害で顧客の施設や機器などを毀損(きそん)しないというガス系消火設備の役割を果たすため、果敢にこのミッションに挑戦し、製品化にこぎ着けた。

大橋篤男技術情報チームリーダー課長代理(左)と藪下真大開発グループリーダー部長


 ガス式消火設備は、水による消火ができないデータセンターや美術館などで多く採用されている。不活性ガス(二酸化炭素ガスや窒素ガス)を使って酸素濃度を下げて消火するものと、ハロゲン化物を使って化学的に燃焼反応を中断させて消火する方式があり、「FK-5-1-12」は後者となる。
 この方式ではHFCガスやハロン1301が中心的に使われているが、FK-5-1-12は優れた消火性能だけでなく、大気中残存期間7日でオゾン層破壊係数はゼロという環境特性、優れた電気絶縁性といった特徴を持つ。

 同社が静音化を意識するようになったのは10年前。消火ガスの放射音圧は130デシベル以上となるが、こうした音圧はハードディスクなどの精密機器に影響を与える可能性があるという知見を得たことがきっかけだ。
 「水を使わず、そこにあるモノを壊すことなく消火できるのがガス式消火設備。その存在意義を考えると、音が悪影響を与える可能性があるなら、それを排除しなければならない」として、最も大きな音がする噴射ヘッドの改良に着手。試行錯誤を重ねた末、まずは窒素ガス、次にハロンガスの静音型噴射ヘッドを完成させた。
 これらはいずれも、ボンベから配管を通って流れてきたガスがヘッド内のオリフィス(流体を流す穴)を経由し、多孔質物質によるディフューザーからガスを噴出する構造を採用している。ガスを遠くに飛ばさなければならないため、最終的には圧力が必要となるが、「その圧力の回復を緩やかにしている」のがポイントだという。

FK-5-1-12消火剤対応の静音形噴射ヘッド


 そしていよいよ、今回開発したFK-5-1-12用のヘッドに取り掛かったが、窒素ガスなどはいずれも常温では気体だが、FK-5-1-12は液体だという大きな違いがある。つまり、ヘッド内に液体を気化する機能も付与しなければならない。
 これは液体の微細化技術を活用して乗り越えているが、企業秘密の部分もあって詳述はできない。ただ、本社と滋賀研究所で試作を繰り返し、ミリ単位の調整で寸法決めしてガスが流れる部分を最適化していったという。
 さらに、天井取付タイプだけではなく、狭いスペースへの設置で必要とされることがある壁面取付タイプも開発したが、消火剤を壁側から直線上かつ霧状に放射する機構と音を抑制する機構を両立させるのは技術的に極めて困難だったという。

NE-1のシステム構成


 こうして独自技術を重ね合わせて開発した製品は放射音圧を約100デシベルに抑えることに成功。「海外でひとつだけFK-5-1-12用静音型噴射ヘッドがある」ものの、壁面取付タイプと天井面取付タイプの大口径(40Aサイズ)の製品はいずれも世界初となる。
 同社におけるFK-5-1-12を使う消火システム「NE-1」のガス式消火設備全体における売上比率はまだ10%未満に過ぎない。しかし、優れた環境性能から次世代のガス系消火剤と位置付けられており、ほかの消火システムと同じ静音性を手に入れたことで、今後の飛躍が期待されている。

 窒素ガスとの比較でも、ボンベの設置本数が少なくて済むといったメリットから、特に小規模なサーバー室などでの設置が見込まれており、同社が展開しているパッケージタイプ向けのヘッドなどの開発を継続的に進めていく方針だ。

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