【リスク先取り回避の道を】河村電器産業100年の歩み 水野一隆社長に聞く過去・現在・未来 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【リスク先取り回避の道を】河村電器産業100年の歩み 水野一隆社長に聞く過去・現在・未来

 受配電機器メーカーの河村電器産業は昨年8月に創業100周年を迎えた。1919年(大正8年)、河村鈴吉が愛知県瀬戸市に河村製陶所を創業。個人商店から始まった会社はいま国内約2000人、海外約1000人、計約3000人規模の企業に成長した。電気の安全・安心を守って1世紀。令和という新たな時代に『アクティブ・ディフェンス』をミッションに掲げ、事業領域の拡大に挑む水野一隆社長に同社の過去・現在・未来について聞いた。

水野一隆社長


 水野氏は生産・研究開発などの技術畑を歩み、2014年1月に副社長から社長に就任。創業家以外へのバトンタッチは初めてで、当時サプライズ人事と言われた。先代の3代目社長・河村幸俊現会長とは、ことあるごとに経営について話し合うが、暁工業(瀬戸市)を建設・操業するころにバブルが崩壊、札幌工場移転後にはリーマン・ショックに見舞われるなど「およそ10年に一度のスパンでピンチに直面してきた」と振り返る。

本社(愛知県瀬戸市)


 水野社長によると「危機を乗り越えられたのは創業者・河村鈴吉、2代目社長・河村幸の、従業員を家族のように思ってきた経営の賜。現会長も子どものころは従業員と一緒に食事をしていたと聞く」。創業70周年は全社員でサイパン旅行に行った。90周年は東京ディズニーランドに従業員とその家族を招待した。100周年は名古屋のホテルに社員を呼び式典を開催、家族向けには中国・上海も含め全10回の食事会を開いた。こうした「人を大切にする社風が社員のモチベーションにつながっている」という。

大正時代の瀬戸市の街並み


 創業当初は電気の使いすぎを防ぐ陶磁器による『絶縁』、その後は電気の『保護、遮断、配電』と、インフラの発達に合わせて機能を拡充してきた。「家庭的な企業風土、豊かな社会づくりへの貢献。これが当社に100年間受け継がれてきたコンセプト」と語る。
 一方で「電気インフラの市場は近年大きく変化している」と指摘。11年の東日本大震災発生時は原発停止で電力不足が起こった。「あの時からわれわれには『電気をいかに効率的に使い続けるか』という、これまでとは異なる事業領域が求められるようになった」という。電気の安全・安心に『測定、監視、制御』を加え、より電気を効率よく使えるための事業を展開しようと、100周年を機に新たなミッション『アクティブ・ディフェンス』を掲げた。

 「自動車のEV(電気自動車)化、再生可能エネルギーの利用拡大、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)が発達し、次世代通信5Gが普及していく中、当社が対応すべきことは何か」を常に考えている。人口減少社会を迎え、「これからは『形式知』の仕事はロボットが担う。人間は人に会って、考え、伝える『暗黙知』の仕事を担うことになる」と予測する。今後も創造者であり挑戦者であり続けるには「蓄電や変換など、この先激変していく環境に応じた電気利用の『診断、予測』といった分野への挑戦が不可欠」と考える。

 ことし2月にはヘッドスプリング(東京都品川区)と資本業務提携を締結した。同社が持つパワーエレクトロニクス技術は電力インフラの小型化、高効率化に欠かせない。「パワー半導体を使う最先端技術をすべて自社で担うのは困難。当社の理念に共感してくれる異なる技術を持った企業と連携し、これまでにない技術とサービスを社会に送り出していたい」

 国内で培った技術を生かし、発展が著しい海外市場の拡大にも力を注いでいる。16年にタイの受配電機器メーカーを子会社化、18年にはベトナムに配電盤製造・販売会社を設立した。「この2つを軸にASEAN(東南アジア諸国連合)の国々に電気インフラの価値を提供していく」と意気込む。
 また、電設資材業界において「これまでに世になかったもの、時期尚早なものを生み出す。そういう精神もカワムラの特徴」に挙げる。「社会に貢献するアイデアを出してほしい」と、社員が考えたアイデアを社内で披露する場がある。ここで社長賞などに選ばれると研究費がもらえる。『JECA FAIR』(電設工業展)の製品コンクールでは、このイベントで生まれた製品が国土交通大臣賞を受賞するなど、14年連続入賞を達成している。

 トラッキング火災を未然に防ぐ独自製品『プレトラックコンセント』も社内のアイデアコンテストから生まれた。トラッキングとはコンセントとプラグの間に溜まったほこりに湿気が付着し、コンセントに差し込んでいるプラグの刃の間に電気が流れ、発熱して発火する現象。同社はプレトラックコンセントと地震の際に電気を遮断する『感震ブレーカー』を14年に京都最古の禅寺である建仁寺に寄進。18年に世界遺産・国宝の薬師寺にプレトラックコンセントを寄進するなど、電気火災から文化財を守る活動も推進している。

プレトラックコンセント(2006年発売)


 15年には現場力向上の拠点として本地工場(瀬戸市)に『ものづくり道場』を設置した。ここでは、ロボットを導入しテストをするなど、工場の生産性向上のための改善活動を日々行っているほか、現場で起こり得る事故を疑似体験できるなど、安全指導にも力を入れている。また、一昨年からは技術や知識の伝承を目的とした全社一斉教育を月に一度実施し、自ら考え行動できる人材の育成に取り組んでいる。

 女性が活躍できる環境整備も進めている。提案営業などは「女性の方が男性よりきめ細かいため、顧客からの反応も良い」とも。生産ライン、研究開発に携わる女性が増加中で、製造業の平均を上回る約15%を占める。女性のライフプランに対応するため人事制度も改正。男性の育休取得も増えているという。広報活動も「これまでのBtoB(企業間取引)からBtoBtoC(消費者向け販売)に変えていく必要がある」と感じている。

 新たなミッション『アクティブ・ディフェンス』には『新しい世界には、新しいあんしんを。』というサブタイトルが付く。「社会のリスクを先取りし、それを回避していく道をわれわれが切り開く」という意味を込めている。次の100年に向けて「新しい時代の新たな不安に対応できる製品とサービスを提供し、社会に貢献する」構えだ。

河村電器産業100年の歩み

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