【JIA日本建築大賞】力作ぞろいで近年稀に見る大接戦 優秀建築賞に異例の3作品が選出 | 建設通信新聞Digital

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【JIA日本建築大賞】力作ぞろいで近年稀に見る大接戦 優秀建築賞に異例の3作品が選出

 日本建築家協会(JIA、六鹿正治会長)が8日に開いた2019年度JIA日本建築大賞、優秀建築賞の審査会では、近年稀にみる接戦が繰り広げられた。審査対象となった6作品はいずれも力作で、審査員は難しい選択を迫られた。接戦を物語るように、例年1、2点の優秀建築賞に異例の3点が選定された。時折厳しい意見が飛び交った白熱した審査会を振り返る。

審査では白熱した議論が展開された


 東京都渋谷区の建築家会館で開かれた審査会では、19年度優秀建築選に応募があった187作品の中から選ばれた6作品の関係者が10分間プレゼンテーションし、審査委員の質疑を受ける形式で実施された。例年、公開審査としてきたが、新型コロナウイルスの影響で審査委員と発表者だけの非公開審査に変更した。

 審査委員は淺石優氏(委員長)、木下庸子氏、ヨコミゾマコト氏、後藤治氏、橋本純氏の5人。プレゼンテーション、質疑応答後には、審査委員が各作品について講評し、投票などによって大賞に古澤大輔氏(リライト_D/日大理工学部建築学科)の「古澤邸」、優秀建築賞には、細海拓也氏(細海拓也一級建築士事務所)、江尻憲泰氏(江尻建築構造設計事務所)の「新潟の集合住宅III/ザ・パーク一番堀」、松岡聡氏、田村祐希氏(ともに一級建築士事務所松岡聡田村祐希)の「コート・ハウス」、佐藤維氏(石本建築事務所)、十河一樹氏(同)、畝森泰行氏(畝森泰行建築設計事務所)の「須賀川市民交流センターtette」が選ばれた。

 6作品の質疑応答後の講評では審査委員から「建築写真に(女性の)モデルはいらない」「まちとの関係性が薄い」「やや既視感がある」など厳しい意見も出された。

 古澤邸に対しては、審査委員から「非常に自己完結的な感じがする」「ポストモダンを思い起こす。誰もが求める効率性がほしいと個人的には感じた」という厳しい指摘が出された一方、「設計に長い時間をかけただけあって熟考されていた」「スラブと梁を切り離した空間的な面白さがある」と好意的な意見も上がった。1回目の投票で最多得票となり、大賞に輝いた。

 古澤邸は、異なる価値観を互いに肯定しあえる寛容な世界に近接するための糸口を「転用」という建築的行為に見出すことを目指し、転用が持つ両義性に着目して設計を進めた。
 採用しているラーメンフレームは架構形状が十字型に開かれ、床と梁を分離している。4本の柱とそれをつなぐ十字型の梁が多様な場をつくり、複数の空間が個性を保ちながら重なり合う両義的な状況を生み出している。

 優秀建築賞の選定に当たっては、審査委員の意見が割れ、選考は難航した。「6作品のうち大賞、優秀建築賞合わせて4件は多すぎる」という意見もあったが、最終的には3件が選定された。優秀建築賞は、「日本建築家協会賞」から名称変更した14年度に4点が選ばれたが、15-18年度は1、2点で推移してきた。

 受賞作品決定後、ヨコミゾ氏は「現地審査で決めても良いという意見もあったが、質問の機会があって良かった。建築は違う視点で評価が揺れ動く。改めて良い建築をたくさん見せていただき勉強になった」、木村氏は「大賞1、優秀建築賞3作品という結果になったが、どの作品が大賞、優秀賞になってもおかしくないと思った」とそれぞれ振り返った。
 後藤氏は、「6作品は紙一重で、難しい審査だった」、橋本氏は「審査過程で失礼なことも言ったが他意はない。どれが優れていて、どれがそうではないということは本当に紙一重だった」と述べた。

 淺石氏は、「最終結果を見ても6作品の差が少ない。建築はめんどうくさいの塊だが、組織事務所とアトリエ、どれも相当丁寧に地域、クライアント、役所と調整している」とした上で、「建築は存在だけでも社会性を持つ。その中で地域への影響を考えた設計方法で取り組んでいる。極論を言えば、どの作品が大賞になってもおかしくない。これからも良い作品をつくり続けてほしい」と締めくくった。

関係者によるプレゼンテーション

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