【本】リノベ設計で見えてくる"人生と建築" 『建築士・音無薫子の設計ノート』逢上央士著 | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

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【本】リノベ設計で見えてくる“人生と建築” 『建築士・音無薫子の設計ノート』逢上央士著

 本書は建築士・音無薫子が、時には強引とも思えるリノベーション設計でクライアントの真の問題に切り込み解決する物語だ。ライトノベルとして気軽に読める一方、スケルトン・インフィル構造など専門用語も盛り込まれ、読み応えがある。
 思い出のつまった家に手をつけるのは勇気がいることだ。それでも学生時代の気持ちのままでいる夫が前を向くことを願う妻や、飼い犬をわが子同然に育てる老婦人が、家を変えようと決心し音無薫子の元を訪れる。大胆なリノベーションでクライアントの人生は好転するか、否か。
 本書ではさらに、さまざまな建築士が設計に個性を出そうとするあまり、人と衝突する様子も描かれている。紆余(うよ)曲折を経て建築にかかわるすべての人間が不可欠な役割を果たしていると認識することで、研修生から事務所を運営する立場まで全員が、職場や働き方を変えようと動き始める場面が印象深い。
 建築とは何なのか、最終章で筆者の思いがつづられている。人が人生を共に歩む建築について、改めて考え直すきっかけを与えてくれる一冊だ。(宝島社・650円+税)

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