【事業者の撤退相次ぐ】新型コロナで風向きに変化 統合型リゾート構想今後の行方は? | 建設通信新聞Digital

4月24日 水曜日

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【事業者の撤退相次ぐ】新型コロナで風向きに変化 統合型リゾート構想今後の行方は?

 1兆円規模の投資を表明する動きもあるIR(統合型リゾート)構想。大規模プロジェクトに参画したい建設・不動産業界、大型融資を担う金融業界など、多方面から熱視線が注がれている。しかし、有力とみられていたカジノ事業者が日本市場からの撤退を表明するなど、新型コロナウイルスの影響もあり、少しずつ風向きが変わり始めている。

横浜市の事業者提案イメージ


 米国のカジノ大手、ラスベガス・サンズは5月、日本のIR事業への進出を断念すると発表した。その理由についてシェルドン・G・アデルソン会長兼CEO(最高経営責任者)は「日本におけるIR開発の枠組みでは、わたしたちの目標達成は困難」としている。同社は他のカジノ事業者よりも早い段階から日本市場への関心を示していた。当初は大阪のIRに関心を示し、最近では横浜市の構想にくら替えしたものの、最終的には日本市場そのものに見切りを付けた。

 サンズだけでなく、海外のカジノ事業者が日本市場への参入を見送る動きが相次いでいる。米大手のシーザーズ・エンターテインメントは2019年8月に日本市場からの撤退を表明。そのほか、北海道・苫小牧でのIRに参入を表明していた複数の事業者も、北海道が誘致レースから離脱したのに伴い撤退を決めた。和歌山県のIRに関心を示していた2社も、応募を見送った模様だ。

 撤退を決めた背景はさまざまで、具体的な理由を明示していないケースもあるが、「今後、さらに撤退の動きが出てくるだろう」との憶測を呼ぶ。新型コロナの影響で、カジノ事業者らは現在進行形で大きな痛手を負い続けているためだ。投資の余力や優先度に変化が生じても不思議はない。

 一方、日本国内ではIR制度化議論の当初から、「カジノ事業者にとって魅力的な制度ではない」との声があった。例えば、カジノ運営のライセンスは、建設期間を含め10年と定められている。もちろん更新はできるものの、投資・回収のプロセスに照らすとリスクは小さくない。

 このほか、IR施設の滞在期間中に数千万円、億円単位のお金を使う大口顧客「ハイローラー」にとっても魅力が薄いとの見方がある。マカオなどのカジノでは、プライベートジェット機の手配から資金融通、観光に至るまで、富裕層に対してさまざまなサービスを提供する「ジャンケット」と呼ばれる事業者が存在する。日本では、反社会的勢力排除やマネーロンダリング対策などの観点からジャンケットは認めていない。

 「日本の制度は厳格で、全体的に安全マージンを大きく取り過ぎている。このため小口の顧客が中心になり、事業者の収益モデルに影響を与える」との指摘が、新型コロナで現実味を帯びてきた。

 カジノを含むIRの誘致は都市の国際間競争でもあり、事業者側はより魅力的な投資環境を追い求める。大手を含む事業者の相次ぐ撤退によって、日本の勝ち目を疑問視する見方が首をもたげつつある。

 IR誘致を進める地方自治体の間では、新型コロナの影響で事業者公募などの手続きを延期する動きが出てきた。その一方で、政府による計画認定のスケジュールそのものに変更はない。21年1月から7月まで自治体によるIR区域整備計画の認定申請を受け付け、全国で3つの計画を認定する予定だ。第2次を認定する場合は、初回認定から7年以降となる見通し。

 現時点では、大阪府と大阪市による誘致計画には、MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスのコンソーシアム1者が参加を表明している。和歌山県では、クレアベストニームベンチャーズ、サンシティグループホールディングスジャパンの2者が資格審査を通過した。長崎県や横浜市では、複数の事業者が関心を示している。東京湾臨海部の構想を温めている東京都は、誘致表明に至っていない。

 ただ、誘致反対派の動きも地域によっては根強く、「カジノよりコロナ対策」といったスローガンも台頭してきた。“不要不急産業”のレッテルを貼られたパチンコ業界に対する風当たりの強さなどもあり、「カジノを誘致するには、タイミングが非常に悪い」との声もある。中長期的には観光・インバウンド(外国人観光客)の起爆剤となるはずのIRだが、現時点では不確実性が高く、しばらく楽観できない状況が続きそうだ。

新型コロナの影響で投資の余力や 優先度に変化が生じつつある(画像はイメージ)

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