【"防疫"社会へパラダイムシフト】土木学会 コロナ禍の社会とインフラに関する声明を発表 | 建設通信新聞Digital

5月4日 土曜日

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【”防疫”社会へパラダイムシフト】土木学会 コロナ禍の社会とインフラに関する声明を発表

 土木学会(家田仁会長)が7月14日に発表した「COVID-19災禍を踏まえた社会とインフラの転換に関する声明」は、感染症の流行拡大期にあっても人々の暮らしを支えるインフラの重要性とともに、感染防止を徹底しながらインフラ関連事業を継続できる環境や体制を整えた「防疫」社会への進化が必要だと訴えた。いま全国的に新型コロナウイルス感染が再拡大する中で、労苦を顧みることなく全力を尽くすを意とする「尽瘁(じんすい)」という言葉を用いて土木技術者の覚悟と決意を込めたこの提言の重みは一段と増している。

記者発表では各WGリーダーもウェブ参加した


 声明は、国土づくりを支える土木技術者などとともに、行政を始めとする社会一般に向けたメッセージとして発信した。世界中がパンデミックを経験した今日、全国一律に水平展開する従来のシステムや考え方を大きく転換し、より生活の質を重視したインフラへの進化=「垂直展開」を進めるなど、ソフト、ハード両面から積極的にパラダイムシフトを推進することを提起している。

 この中では、感染症の流行拡大期にもインフラを維持・整備する事業の継続は不可避とした上で、インフラ関連従事者の感染防止と心身の健康確保に配慮した職場環境を整えることは雇用者と事業関係者の重要な責務だと指摘。公衆衛生の専門家によるレビューと従事者との対話の両方を踏まえた対策を講じる必要にも言及した。

 建設現場では、3密回避と労働集約的な現場作業の継続という二律背反的な命題解決へ、国土交通省のガイドラインを踏まえつつ、3密回避が難しい狭あいな建設現場であっても現場環境に適した対応法を臨機応変に検討することを求めた。

 特に、ウイルスを含む下水や廃棄物に触れる可能性がある下水道・廃棄物管理事業では適切なリスク管理対策の徹底を継続するよう要請。さらに下水中の病原ウイルスなどのモニタリングによる感染症流行の早期検知やその情報提供体制、行政の下水道管理、公共福祉、感染症対策に関連する部局が適切に連携できる仕組みづくりも提言した。

 新技術による生産システムの画期的な転換も提起。既存の基準との整合性や施工実績が重要視され必ずしも新技術の採用に積極的でなかった現状から脱皮し、3密を避けた建設機械による省人化、遠隔制御による無人化、ロボットやAI(人工知能)を活用した自動化など優れた新技術を積極活用することを求めた。パンデミックを乗り越えた先に新しい生産システムを構築する必要があるとし、契約、設計、施工、維持管理の各フェーズで従来の慣行や基準を再点検し、さまざまな障害を継続的に解決していく覚悟が必要とした。

 働き方改革では、テレワークの定着と遠隔でのウェブ会議利用を一気に促進させ、働く場所に制約されることなく事業を継続できる体制、地域に依存しない業務連携や業務シェアなど働き方の多様化や高度化が求められるとした。

 さらにインフラ従事者がエッセンシャル・ワーカーとしての「働き方」を改善し「生きがい」を高めていくため、発注方式から契約方式、設計積算、雇用契約まで多方面での制度見直しが必要だとも指摘している。

 デジタル時代の国土づくりとして、遠隔地を含めて災害時でも十分に機能し得る強靱な情報通信基盤の整備が必要だと強調。リスク分散とゆとりある空間設定の観点からも「国土の均衡ある発展」をいま一度評価すべきとし、地方の自立的発展に向けて機能の分散を実現するという価値観、多様な生活様式の変化を反映して、地方創成に資するインフラ整備をいまこそ実行すべきだと提言している。

 記者発表の席で家田会長は「今回のパンデミックでは新しい問題ではなく、潜在していた問題がさまざまな場面で明瞭になった」とした上で「わが国のベーシックなインフラにウィークポイントがあるのだったら重点的に直すべきであり、全国一律で少しずつではなく、集中的、戦略的にスピーディーにやらなければいけない」と強調。今後さらに議論を深めながら「段階を追ってより具体へ、より実装へ、より実践へ進めていきたい」と意欲を示した。

声明の主な項目

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