【10月3日から上映】ドキュメンタリー映画『建築と時間と妹島和世』で見えてくるもの | 建設通信新聞Digital

5月7日 火曜日

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【10月3日から上映】ドキュメンタリー映画『建築と時間と妹島和世』で見えてくるもの

 世界的に活躍する建築家、妹島和世氏のドキュメンタリー映画『建築と時間と妹島和世』が10月3日から、東京都渋谷区のユーロスペースでロードショー公開される。妹島氏が設計した大阪芸術大学アートサイエンス学科新校舎の構想段階から2018年11月の竣工まで、3年6カ月を追った作品だ。監督・撮影は、ル・コルビュジエ、丹下健三などの数々の建築物を撮影してきた写真家・ホンマタカシ氏で、90年代から妹島氏の建築を撮影してきた。作品時間60分のほぼ全編が妹島氏へのインタビューで構成され、大阪芸術大学コンセプトだけでなく、建築プロセスへの普遍的な考え方の一端も垣間見えて、興味深い内容となっている。

 映画は、「organic」と「landscape」の2つのキーワードの映像に続いて、すぐに妹島氏が構想段階のパースを示しながらコンセプトを話し出す場面に変わり、着工から時系列で途中現場の映像を挟みつつ、妹島氏の語りが続く。妹島氏はオフィスと現場でとても雄弁に生き生きと、大阪芸術大学のデザインを固めていくプロセス、あるいは自身の設計プロセスの普遍的な考え方などを語っている。

 妹島氏は自作について多くを語らないというイメージが強かったが、この映画ではとても分かりやすく建築プロセスを説明している。ホンマ監督とのつながりの深さ、信頼関係がそうさせているように感じられる。

 構想段階の妹島氏のコンセプトは、既存のキャンパス設計を手がけた高橋●(青の月が円に光)一氏の思想を生かしつつ全体をさらに有機的につなげて、その一番前の部分に当たるアートサイエンス学科新校舎を周辺の丘の地形の一部のように、一体化するというもの。冒頭の構想を説明する映像ではこれがとても分かりやすく語られ、丘と一体となる外観であること、さまざまな方向から出入りができ内外の自然のつながりを実現する開かれた空間であること、全学科共通の入り口になることから交流の場となることの3つを大切にしていることがわかる。

 これまでの設計活動での一貫した考え方も示され、実際に空間を体験するためにはどんなに小さくても模型がとても考えやすいと言う。模型を再度図面にして、また模型を変えるというスタディーを繰り返すことで空間を確認する。現場は大事だが、現場で決定することはなく、事務所に戻って俯瞰的にとらえ直すことを欠かさない。建築は抽象的に考えることと具体的に考えることを行ったり来たりする必要があるとも述べる。

 全国で順次公開の予定。制作は大阪芸術大学。英語字幕付き60分カラー2020年作品。公式ウェブサイト:kazuyosejima-movie.com

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