【エネルギーの"地産地消"】水素サプライチェーン確立へ 大成建設グループの取り組み | 建設通信新聞Digital

4月26日 金曜日

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【エネルギーの”地産地消”】水素サプライチェーン確立へ 大成建設グループの取り組み

 大成建設を代表事業者とするグループが北海道室蘭市を舞台に取り組む「建物及び街区における水素利用普及を目指した低圧水素配送システム実証事業」。“地産地消”をテーマに再生可能エネルギー(風力発電)によって生み出す水素の貯蔵・輸送・利用という一連のサプライチェーンを確立する、このプロジェクトは、これからの地方都市における「水素社会の構築」へのモデルケースとなる。

全体システム概要図


 プロジェクトは、室蘭市が所有する祝津風力発電所で生み出した再生可能エネルギー(電力)によって製造した水素を水素吸蔵合金タンクに貯蔵して、水素利用施設に配送・利用する仕組み。

 水素製造所で製造された水素は車載型コンテナに収納された水素吸蔵合金タンクに充填。コンテナごと水素配送車に積み込んで輸送する。

 車載型タンクで運ばれた水素を水素利用施設の定置型タンクに供給して純水素型燃料電池を稼働させることで、施設で用いる電気として利用する流れだ。

 環境省の委託事業である「地域連携・低炭素水素技術実証事業」として、2018年度からの2年間に温浴施設「むろらん温泉ゆらら」を実証フィールドに、製造から貯蔵・輸送・供給・利用までの水素サプライチェーンを構築。実証モデルとしての運用を続けているが、構築したシステムの普及促進と、停電などの災害対応への検証を目的に20年度から「室蘭市生涯学習センター・きらん」での実証プロジェクトをスタートさせた。

◇「水素吸蔵合金」採用
 ポイントの1つとなっているのが、製造から利用まで一貫して水素を“低圧”で扱うことができる「水素吸蔵合金」の活用だ。

 というのも、水素は「高圧水素ガス」「液体水素」による専用トレーラーでの輸送が主流。しかし、それらの輸送や貯蔵は高圧ガス保安法などの規制や建築基準法による可燃性ガスの貯蔵制限といった法的な制限も少なくない。

 そうした課題を克服するために、水素を吸蔵させることで低圧で輸送・貯蔵することができる水素吸蔵合金の活用を選択した。

 実際にエンジニアリング本部産業施設プロジェクト部エネルギー・インフラプロジェクト室の酒井佳人専任部長代理は「水素を低圧で輸送・貯蔵できる水素吸蔵合金タンクを用いることで(法的な規制や制限に該当しない)安全で使いやすいシステムとなっている。要となるまちづくりへの展開からすれば“これしかない”という最も的確な方法だと判断した」と話す。

◇水素利用の壁を打破
 水素製造所で生み出した水素を低圧のまま直接、水素吸蔵合金タンクに貯蔵・輸送する、この仕組みは高圧ガス保安法に基づく国家資格を持った人しか扱えないという従来の水素利用のハードルを打開した。

 「風力発電所や太陽光発電所、バイオマス発電所などそれぞれの再生可能エネルギー施設に併設された水素製造設備における無人での水素製造が可能。将来的に分散型エネルギー施設への展開が容易なシステムとなっている」(鈴木伸之環境本部環境イノベーション推進部新領域推進室長)。

 無人の分散型水素製造施設で自動的に製造・貯蔵された水素(水素吸蔵合金タンク)を定期的に回収して、建物や街区など地域の需要地に配送する『低圧水素サプライチェーン』の確立が、この実証プロジェクトによって目指す将来の絵姿。「その実現は地方都市における水素社会の構築やこれからのまちづくりに向けた大成建設からの“提案”ということになる」(本岡功成エネルギー本部火力・次世代エネルギー部長)。

 水素吸蔵合金は冷却することで水素を吸収し、加熱により放出する。この冷却・加熱による吸放出で車載型の水素吸蔵合金タンクから定置型タンクへの水素の供給や、定置型タンクから燃料電池への供給(移し替え)を行う。

 2019年度までの2年間で進めてきた温浴施設「むろらん温泉ゆらら」での実証事業は、水素の供給に必要な“熱”として温浴施設の排温熱の利用を想定してきた。

 20年度から実証事業をスタートさせた「室蘭市生涯学習センター・きらん」は、水素の吸放出に必要な熱を温浴施設のように建物側から得ることができないため、建物からの熱ではなく、燃料電池の排熱を貯めて使う方式を採用する。将来の普及展開へ、一般のビルでも適用できるシステムの検証を実施。災害対応として、系統電力が停電した場合であっても燃料電池が稼働する仕組みとなっている。

 鋼製だった車載型コンテナも改良。コンテナそのものを軽量化することで、車載型の水素吸蔵合金タンクの容量を拡大。一度に運べる水素量をアップさせている。

 実証事業は大成建設を代表事業者に、実証フィールドとなっている室蘭市や九州大学、室蘭工業大学、巴商会、北弘電社、日本製鋼所(19年度まで、20年度からは協力企業として参加)が共同実施者として参画するグループで実施している。

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