【50年までに脱炭素化実現】菅首相 所信表明演説でカーボンニュートラルの目標を明確化 | 建設通信新聞Digital

4月20日 土曜日

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【50年までに脱炭素化実現】菅首相 所信表明演説でカーボンニュートラルの目標を明確化

 菅義偉首相は、温室効果ガスの排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルを2050年までに達成するとの新たな目標を打ち出し、政府が21世紀後半のできるだけ早期を目指すとしていた脱炭素社会の実現時期を明確化した。50年までに13年度比で温室効果ガスを80%削減する長期目標を事実上修正した格好で、政府は各種計画の見直しを今後進めることになる。

臨時国会の所信表明演説で新たな目標を打ち出した菅首相


 カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きして実質ゼロとする考え方。達成には削減の取り組みに加え、発電時にCO2を排出しない再生可能エネルギーの大量導入や、CO2を分離回収・貯留して資源に活用するCCUS技術の確立などが必要になる。

 菅首相は、10月26日に開会した臨時国会の冒頭で初の所信表明演説に臨み、「50年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことをここに宣言する」と高らかに表明した。

 加えて、「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではない」と指摘。温暖化対策の実行によって日本経済を成長させるとの発想に転換し、「成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げ、グリーン社会の実現に最大限注力する」と意気込んだ。

 菅首相の表明を受け、エネルギーを所管する経済産業省と、環境行政を担う環境省が早速動いた。経産省は、水素、蓄電池、カーボンリサイクル、洋上風力発電など、脱炭素化に貢献できる重要技術を対象に、カーボンニュートラル達成の道筋を示す実行計画を20年末に策定すると発表。10月26日に会見した梶山弘志経済産業相は、「再生可能エネルギー、原子力など使えるものを最大限活用するとともに、水素など新たな選択肢も追求していく」と力を込めた。

梶山経産相はカーボンニュートラルの道筋を示す実行計画を20年末に策定すると発表した


 脱炭素社会、循環経済、分散型社会への3つの移行による『持続可能で強靱な経済社会への再設計』の必要性を訴えてきた小泉進次郎環境相は、10月27日の会見で「環境先進国・日本の復権に向けて大きな一歩を踏み出した」と受け止め、「環境省が一丸となり、責任・役割を果たしていく」と決意を語った。

 10月29日現在で167団体に上るゼロカーボンシティー(50年までのカーボンニュートラル達成を目指すと表明した地方自治体)の取り組みを後押しする制度を創設するため、地球温暖化対策推進法改正案を21年1月召集の次期通常国会に提出する考えも明らかにした。

 カーボンニュートラルの達成時期を明示した影響については「政府全体に関わる大目標。見直さない部分はない」との認識を示し、各種計画の改定が今後必要になると指摘した。見直しが必要な分野の1つに住宅を挙げた。

 10月30日の地球温暖化対策推進本部では、菅首相が全閣僚に対し、所掌分野の排出削減策、脱炭素技術の開発・実装、グリーンファイナンスの促進、関連規制の改革などを検討するよう指示。政府は手始めとして、地球温暖化対策計画、エネルギー基本計画、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の見直しを加速化する。

 産業界は菅首相の宣言を歓迎する。日本経済団体連合会の中西宏明会長は、「極めて野心的な目標を掲げることは、持続可能な社会の実現に向け、わが国の今後のポジションを確立する英断であり、高く評価する」とのコメントを10月26日に発表。産業界にとっては「達成が極めて困難な挑戦」(中西会長)だが、欧州を中心に各国が脱炭素社会の実現へとかじを切る中、日本の国際競争力を高めるためには、避けて通れない課題と受け止めている。

 脱炭素社会の実現には、イノベーションが欠かせない。政府は、1月に閣議決定した革新的環境イノベーション戦略で、低コストなCCUSの確立や、CO2を原料としたセメント製造プロセスなどの開発・実装を進める姿勢を打ち出した。だが、これら革新的技術の確立は50年までを目標としている。50年までのカーボンニュートラル達成に向けては、革新的技術を確立する時期の前倒しが不可避で、同戦略の見直しも今後必要になる。

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