【深化する関西の建設ICT⑬】兵庫県 全土木工事に3次元データ活用へ | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

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【深化する関西の建設ICT⑬】兵庫県 全土木工事に3次元データ活用へ

 ICT活用工事について地方自治体で全国トップレベルの実施件数を誇る兵庫県は、同工事の推進とともに、いよいよCIMを活用した設計業務に着手する。国土交通省が取り組むBIM/CIM原則化の流れを受けたもので、今年度は設計業務で2件以上の発注を予定している。当面の目標として「2025年度には原則すべての土木工事において3次元データを活用することを目指す」という服部洋平県土整備部長に今後の方針などを聞いた。

服部県土整備部長


――兵庫県のBIM/CIM導入の現状は

 2017年度から施工段階でのICT化に取り組み、発注者指定型・受注者希望型をあわせたICT活用工事の実施件数は18年度が41件、19年度が128件と順調に増えてきた。一方で測量・設計段階でのCIMの活用については、3次元データを取り扱う人材不足などの面から不安があり、これまでは実施していなかった。

 しかし、現在実施中のICT活用工事では、施工時に、2次元の図面を3次元化する「一手間」を要する。それなら設計段階から3次元化して施工者に受け渡す方が合理的なのは明らかであり、その必要性は感じていた。

 さらに、国土交通省は23年度のBIM/CIM原則適用に向けた動きを加速させており、われわれもこの動きに追従し、測量・設計段階でのCIMに取り組むことにした。

――測量・設計業務でのBIM/CIMの実施件数と今後の展開は

 今年度は道路1件、砂防堰堤1件の2件を発注する予定で、さらに追加する可能性もある。ただし、現時点では3次元化によってさまざまなメリットが得られるものの、CIMモデル作成にかかるコストが高いため、一気にすべてをという訳にはいかない。施工場所の地形が複雑な場合など活用のメリットが高いものから優先して行い、段階的に拡大していきたい。25年度には緊急工事を除くすべての土木工事で3次元データの活用を目指している。

――コスト面以外の課題は

 県内企業の体制づくりも課題で、企業の技術力やニーズを把握しながら、育成にも取り組んでいる。その一環として企業向けの3次元設計データ作成研修会を実施しており、19年度は10回開催し、167社から280人に参加してもらった。同時に県内15土木・港湾管理事務所の職員の技術力向上も不可欠で、7月に各事務所が日常的に使えるよう3次元CADのライセンスを取得しており、この秋から研修もスタートさせる。

企業向け3次元設計データ作成研修会


――逆にCIM導入のメリットや効果は

 目で見て分かりやすいというメリットはとても大きく、関係者間で3次元的に情報共有でき、設計協議のスピードアップ、問題点の見逃し防止という効果が見込める。さらに、施工ステップごとの3次元モデルを作成すれば、工事途中の現場状況もわかりやすくなる。これまでは地元説明会向けにCGを作成する業務を発注していたが、こういったことも必要なくなるだろう。

 また、3次元の図面は維持管理においても効果的だ。県では維持管理関連のデータを集約した「社会基盤施設総合管理システム」を整備しており、現状は2次元データを蓄積しているが、これを順次3次元に置き換えていく方針だ。

――将来的な建設現場のイメージは

2019年度にi-Con大賞を受賞した(砂)一二峠川砂防堰堤工事


 BIM/CIMを含めた建設現場のICT化と5Gなどの通信環境が進展することで、遠方の現場でもオンラインでリアルタイムに現場状況を確認できるようになり、現場代理人の常駐が不要となるかもしれない。企業にとっても現場従事者にとっても省力化が図られ、3Kをはじめとする土木の悪いイメージを払拭することにつながるのではないか。

――最後にBIM/CIM推進に向けては

 建設業界と各企業にとってこうした大きな変革に対応するのは大変だが、建設業界の生産性向上や魅力向上のために取り組む必要がある。しかも、国の動きに合わせて地方自治体が一斉に動かなければ、ダブルスタンダードの形が続き、逆に大きな負担となってしまう。官民ともに前向きに取り組んでいかなければならないと思っている。

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