【記念シリーズ・横浜市公共建築】第44回 横浜国際総合競技場「日産スタジアム」/国内最大級の多目的スタジアム | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

横浜市公共建築100年

【記念シリーズ・横浜市公共建築】第44回 横浜国際総合競技場「日産スタジアム」/国内最大級の多目的スタジアム


◆千本以上の柱が支える高床式

東ゲート(バックスタンド側)。柱列や噴水が迎えてくれる。

 命名権による「日産スタジアム」の愛称で親しまれている横浜国際総合競技場は国内最大級の観客席7万2077席を誇る、わが国を代表する多目的スタジアムである。竣工は1997(平成9)年10月、翌年3月にサッカーの国際大会ダイナスティカップで開業した。今年は竣工からちょうど25年の節目に当たる。各種競技のほか、コンサートなど幅広く活用されており、中でもスポーツイベントでは国内大会はもとより、国際大会を数多く開催し、多くの感動をもたらしている。 横浜国際総合競技場の最大の特徴は、ピロティ形式にある。いわゆる高床式で、施設全体が1000本以上の柱に支えられた人工地盤の上に造られている。高床式の理由は、鶴見川多目的遊水地内に建設されているためで、増水などで遊水地に水をため込んでもスタジアムが利用できるよう工夫されているのである。
 スタジアムの形状は方円形で、地上7階建て。1階(階高約8.1m)は遊水地機能を兼ねた駐車場で、2階部分にフィールドが設けられ、その全周に大屋根で覆われた2層式の観客スタンド(4-7階)が配置されている。


フィールド全景。利用種目は陸上競技、サッカー、コンサート、その他。トラックは日本陸上競技連盟第1種公認陸上競技場・400m(9レーン)、フィールドは天然芝(ティフトン419+ペレニアルライグラス、107×72m)、観客席は2層式(全席跳ね上げ式座面背もたれ付)。試合中の写真はラグビーワールドカップ2019の1コマ。
上は提供:(公財)横浜市スポーツ協会、下は撮影: ©フォート・キシモト

 また、スタンドの下には業務関連や競技関連諸室、店舗、コンコースなどのほか、診療所や運動施設などを備える横浜市スポーツ医科学センター、スポーツコミュニティプラザ(日産ウォーターパーク)も開設されている。

西ゲート(地上4階)からメインスタンド外側を見上げる。PC圧着工法を採用、Y字型の柱列は力強さを感じさせる。1階から最高軒高までは約44m。

スタジアムのスタンド下に開設されているスポーツコミュニティプラザ(「日産ウォーターパーク」)と横浜市スポーツ医科学センターの入り口ロビーには天井画も。スポーツ医科学センターでは診察、医学的検査、リハビリテーション、体力測定など、健康づくりや競技力の向上をサポート。コミュニティプラザには22種類のプール施設があり、温水レジャープールは子どもから大人まで楽しめる。提供:(公財)横浜市スポーツ協会


◆PCaPC造を採用
 施設建設に当たっては、まず深さ約25mにある支持地盤まで現場造成杭を築造し、その基礎の上にプレキャスト・プレストレストコンクリート(PCaPC)造で躯体の骨組み(柱、梁)を構築した。
 具体的には、鉄筋コンクリート(RC)造の柱と梁を工場でプレキャスト(PCa)化し、うち柱は現場でプレストレス(圧縮応力)を加えて建て込み、梁については工場で、1次ケーブルでプレストレスを与えて現場に持ち込み、建て込んだ柱のコーベル(持ち送り)の上に単純支持させる。そして、その後、柱と梁を圧着ケーブル(2次ケーブル)により、さらにプレストレスをかけて圧着させている。
 PCaPC構造は通常のRC造や鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造に比べ、コンクリート強度は2-4倍、変形能力は4-5倍に高まり、しかも復元力があるので地震に強いのが特徴だ。
 PCaPC造を採用した利点としてほかに、(1)施工中や完成後の冠水対策として有効(2)工程管理がしやすい(現場打ちコンクリート造に比べ、工期の安定化と短縮化が図れる)(3)高品質で高強度コンクリートによる品質確保が可能(4)鉄骨造に比べ経済性が高い(5)工事車両を少なくできて大気汚染対策につながる(6)型枠合板ではなく繰り返し利用できる鋼製の型枠の採用で、森林破壊や産業廃棄物の発生を抑える――などもある。
 さらに、スタンドの架構でもスタンド下にコンコースなどを設けたため、コンクリート壁や筋交いなどは採用せず、柱と梁による骨組みで耐震性を確保している。安全性は万全で、横浜市条例に則り建築基準法に基づく地震係数をさらに1.25倍した地震力で設計しているほか、屋根やフィールドの架構も入念な耐震対応を図っている。

1階部分の駐車場動線。上部の一部梁は特殊構造をしている


◆先進性を確保

 横浜国際総合競技場は、構想・建設時から国際Aマッチ競技の開催はもとより、各種イベントに対応した空間構成と設備を備えた最上級スタジアムとして整備されており、そのための先進技術や最新設備などを導入、また更新を含め先進性確保に余念はない。
 例えば、全天候型のトラックは日本陸連第1種公認および国際陸連クラス2認証で、特にサッカー競技などで重要になる芝生については、夏芝と冬芝を併用して1年中美しいフィールドをつくっているが、人工地盤で地温の変動が大きいため、芝の養生を考慮してフィールド下30cmの土の中に温度調節ができる温水パイプが敷設され、最適な状態が保たれるようになっている。
 スタンド全周に架設している屋根は騒音や照明光を遮る制振鋼板とし、軒天下にはアルミ吸音材、開口部には遮音壁を設置。照明はLED化され、フィールド照明は隣接のメディカルゾーンに影響を及ぼさないよう屋根の下に配置されているのをはじめ、建物外周コンコース照明もさまざまな色で彩られるようになっている。さらに、水再生センターから下水再生水を引き入れトイレ洗浄水等に利用しているほか、雨水も散水利用しており、案内や誘導などの各種サイン、120基設置のデジタルサイネージ、先進の音響設備などソフト対応も充実している。

◆市内最大規模70ha
 新横浜公園は、鶴見川多目的遊水地内に整備されている横浜市最大規模の都市公園で、計画面積は約70ha。そのメイン施設として建設されたのが「横浜国際総合競技場(日産スタジアム)」で、ほかに日産スタジアムの補助競技場となる第3種公認陸上競技場「日産フィールド小机」、テニスコート、野球場、運動広場、投てき練習場、「しんよこフットボールパーク」、スケボー広場、インラインスケート広場、バスケットボール広場、ドッグランなどが併設されている。東海道新幹線、JR横浜線、横浜市営地下鉄ブルーラインの最寄り駅から徒歩7-14分程度、第3京浜港北ICから10分程度でアクセスできる。また、2023年3月には相鉄・東急直通線が開業し、渋谷方面と新横浜が一本でつながり、交通の便はますます良くなる。

新横浜公園の鳥瞰。総面積約70haに中核施設の「日産スタジアム」を始め、「日産フィールド小机」や「投てき練習場」「スケボー広場」「バスケットボール広場」、複数の「野球場」「運動場」「テニスコート」など様々なスポーツ施設が整備され、随所にレストハウス、駐車場などもある。提供:(公財)横浜市スポーツ協会


◆W杯誘致へ国際基準
 横浜国際総合競技場は、05年以降は本拠地としているJリーグ・横浜Fマリノスのメインスポンサーである日産自動車とのネーミングライツ(命名権)契約による「日産スタジアム」の名前が定着している。しかし、オリンピックやラグビーワールドカップ、サッカーワールドカップなどでは正式名称の「横浜国際総合競技場」が使われる。
 建設計画は、1998年開催の第53回国民体育大会秋季大会「かながわ・ゆめ国体」の主会場とするのを目標に90年にスタートした。しかし、93年に日韓共催によるサッカーのワールドカップ開催が決まり、その誘致も考慮して国際基準の大規模スタジアムを整備する計画に変更され、現在の規模で建設された。
 建設着手は94年1月で、97年10月に竣工し、翌98年3月に供用開始した。横浜市が所有し、指定管理者の横浜市スポーツ協会・F・マリノススポーツクラブ・管理JV共同事業体が運営している。建設地は横浜市港北区小机町3300番地。建物概要は敷地面積16万4054㎡、建築面積6万8313㎡(東京ドーム約1.5個分)、地上7階建て延べ17万2758㎡、最高高さ約52m、最高軒高約44m。設計・監理を松田平田・東畑建築事務所JV、施工を竹中・奈良JV、錢高・日本鋼管工事JV、日本国土・渡辺JV、佐藤・三木JV、三木・渡辺JV、竹中・駿河JV、黒沢建設、きんでん・共栄社JV、川本・山本電気水道JV、新日空・大沢JV、ダイコーなどが担当した。

幻想的なスタジアムの夜景は、外周に設置された先進のLEDカラー照明システムで美しく彩られる。色光は競技や四季折々のイメージに合わせて様々に変化する。提供:(公財)横浜市スポーツ協会

公益財団法人横浜市スポーツ協会公園管理局長 井上幸一/三大スポーツ決勝戦は世界初

 東京2020オリンピック競技大会においてサッカー男女の決勝戦が行われたことにより、横浜国際総合競技場は、世界で初めて、3大スポーツイベントといわれる「FIFAワールドカップ」「ラグビーワールドカップ」「オリンピック競技大会」の決勝戦会場になりました。これを記念して、普段は入れないフィールドやバックステージを選手目線で体感しながら、3大会の決勝戦を中心とした記念品や映像を見学できるよう、展示内容をリニューアルしたスタジアムツアー「Yokohama Final Stadium×3」を実施しています。ぜひ、足を運んでいただければと思います。
 今後もサッカーの国際大会やコンサート等のイベントを誘致し、多くの皆さまに約7万2000人を収容する横浜国際総合競技場に来場していただきたいと考えています。
 また、横浜国際総合競技場において開催する、地元のお祭り「新横浜パフォーマンス」等を通じて、街の賑わいづくりに貢献し、多くの皆さまに愛され、利用される横浜国際総合競技場にしていきたいと考えていますので、よろしくお願いします。

鶴見川多目的遊水地 洪水をため込んで被害を防ぐ

2019年10月12日の多目的遊水地。提供:(公財)横浜市スポーツ協会


 1985年から整備が進められ、2003年6月に運用開始している。場所は横浜市港北区小机町および鳥山町にまたがる約84ha。洪水調節量は毎秒約300m3で、総貯水量は390万m3。越流堤延長は450m、周囲堤延長2260mである。洪水で川があふれそうになった時、(1)洪水を一段低い越流堤から遊水地に流し込む(2)その水を遊水地に、一時溜め込む。そして(3)川の水位が下がった時点で、排水門を使って少しずつ川に流して原状回復する。つまり、あえて越流させて洪水による下流域の浸水被害を防ぐのである。
 これまでの実績としては、04年の台風22号、14年の台風18号など22回にわたって増水した水が流入し、洪水被害を防いできた。中でも19年の台風19号は10月12日に横浜を直撃し、開催中だったラグビーワールドカップの試合が中止となった。当日朝から越流し、約93万6000m3もの水が流れ込んだが、横浜国際総合競技場は高床式の構造が奏功し、翌日13日の日本対スコットランド戦は無事に試合が行われたのが思い出される。

新横浜公園は、鶴見川の増水時には遊水地機能を発揮し、あえて冠水させて周辺地域や下流域を洪水の危機から守る。写真は日産スタジアム周辺の冠水時。提供:(公財)横浜市スポーツ協会



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