【記念シリーズ・横浜市公共建築】第19回 横浜アリーナ | 建設通信新聞Digital

4月28日 日曜日

横浜市公共建築100年

【記念シリーズ・横浜市公共建築】第19回 横浜アリーナ

 音楽やスポーツなど数多くの感動や熱狂に包まれてきた「横浜アリーナ」が生まれ変わる。2016年に続いて実施した大規模改修工事が終了、いよいよ8月から新装オープンする。設計・施工を竹中工務店が担当。開業から33年、“ヨコアリ”の新たな歴史が始まる。

4階調音壁用足場解体中

◆横浜アリーナ 関洋二社長/「公共的施設」を常に意識
 横浜アリーナが開業以来30年以上ずっと、内外の有名アーティストが頻繁にライブを行う“ハコ”として存在感を放ち続けている理由を、関洋二社長は「立地の良さ」「施設の機能性」「独特な客席設備」「アーティストなど使用者目線の楽屋・控え室」、そして「それらを生かす運営ノウハウ」などにあるという。
 立地の良さは「例えば、コンサートが午後9時30分に終了しても(来場者は)京阪神に新幹線で帰ることが可能で、羽田まではリムジンバスで約30分」と、遠隔地からのアクセス時間は、場所によっては東京都心のハコより短いことになる。「建設当時、新横浜の街づくりの先導役として、または経済的な起爆剤として、明確な意図をもって建設された横浜市さんの先見性には感服します」。爾来30余年、立地の良さは折り紙付きだ。
 機能特性は、機材等の搬入口が3カ所あり、天井前面に機材を吊るすことができるフックが約600点あること、定位置のステージを持たず座席はコンピューター制御で自由自在にレイアウトできることなどに集約される。「搬出入のしやすさ、可動観客席や吊りフックにより舞台の自由度があるのも、横浜アリーナの強みです。時間短縮ができてコストダウンにつながります」
 ほかにも利点がある。「イベント時にはアーティストに限らず、警備や設営関係の方々などを含めると、ものすごい数のスタッフがいらっしゃるのですが、その控え室が十分に用意できるかどうか、少しでも居心地が良く仕事をしていただけるかも大事」な要素で、その点でも高い評価を得ているようだ。
 代表的なアリーナであり続けるために、「手前味噌ですが、定期的な修繕はもちろん、改修工事もきちんとやってきて」おり、例えば今回の大改修は、「工事の主体は特定天井の軽量化ということで、最初に竹中工務店さんに音響が悪化することがないよう要望しました。コンサートホールにとって、音響は重要なスペックですから、吸音パネルの素材などものすごく議論」したという。
 そうしたこだわりは一貫しており、「現在でも色褪せない先進的なアリーナを30年以上前に設計された竹中工務店さんには感謝の一言です。また、この間、私たちの要求にも真剣に向き合い、満足のいく結果を出してくれています」と語る。当然、今回の改修結果にも十二分の手応えを感じている。
 また、もう一つ大切なのは施設の良さを生かせる運営であり、協力会社を含めた「チーム横浜アリーナ」により、これまで集積したノウハウを生かし、「ハード・ソフト両面で利用される方や来場される方の双方を支えること」により、アーティストやイベント主催者らに選ばれるための優位性が維持されているのではないかという。
 「横浜アリーナは、市民が足を向けやすい施設であることを建設当初からの理念として持っています。なので、公共的施設であることは、常に意識し理念として持っています。地元港北区の『ふるさと港北ふれあいまつり』の開催や、災害の際に帰宅困難者の一時滞在施設として実績があるのも、そうした役割の一つです。今後とも市民の皆さまに親しまれる運営を心がけていきます」

◆快適さを追求して大規模改修/既存施設の成長に貢献

内観(フロア)

 横浜アリーナの隅々まで、管理運営などの関係者以外で最も熟知しているのは竹中工務店であるといって過言ではない。新築時の設計・施工を担当し、2016年とことしの大改修も設計と施工を担っているからだ。建物改修を英語ならリニューアルやリノベーションと表現するだろうが、前者が一新や再生、後者は新たな機能や価値も付加する改装などを意味するから、築後の経年対応のため実施中の大改修は、リノベーションがより近いように思われる。現在の大改修は終盤の追い込みに入っている。
 今回の工事の中心は天井の軽量化で、高所作業が必須。「無事故・無災害で完工すべく、特に安全施工を徹底している」(月岡正則作業所所長)。また「鉄骨トラスの補強工事もあり、当初計画で予定されていた在来の吊り足場を、作業性の良いクイックデッキ(先行床施工式フロア型システム吊り足場)に変更するなど工夫し、タイトな工期に備えた」という。
 高所足場作業での安全を徹底するため、VR(仮想現実)ゴーグルを装着した疑似体験の安全教育も実施し、万全を期した。セーフィーカメラによる遠隔施工管理も導入、「すごく有効だった」(月岡所長)ほか、「BIMで足場モデルをつくり、そこから数量を算出して業務の効率化を図れた」(同)など、新たな取り組みも実施し、成果を上げている。
 月岡所長を補佐する横浜・湘南地区FMセンターの高橋昭三主管は、前回の2016年大改修を現場代理人として采配した。「今回は、前回はなかった構造の工事が中心です。なかでも印象深いのが、新しい他のアリーナに見劣りしないような吊り荷重への強化です」(高橋主管)。既存の施設に文字どおり、新たな命を吹き込むようなリノベーションであり、感慨深い様子だ。
 設計と監理を担当する東京本店設計部の松浦勇一主任は、高橋主管と同様に、前回の大改修に続いて今回の工事に臨んでいる。「仕上げ工事のメインは、特定天井を軽量なものに置き換えるものですが、設備機器をスリット部にまとめることで天井はできるだけシンプルにして、より安全性の高いものにするのに一番気を使った」ほか、音響についても「改修することでどのように変わるかシミュレーションし、横浜アリーナさんの要望にできる限り沿う提案ができたと思います」と語る。
 また、「横浜アリーナは、現在は音楽イベントが大多数ですが、計画当時はスポーツも含めた多目的の利用をよりはっきりと意図されており、それを念頭に設計さています。例えば搬入口も、いろんなイベントに対応できるレイアウトがしやすいよう3方向に設けたのではないかと思います。ロビーの動線空間や通路幅など他の類似施設に比べ、ゆとりがありますが、そうしたことも多目的施設としての使いやすさを意識したためと考えられます」という。
 会社にとってのメモリアル工事は、担当者にとっても記念碑的な意味合いを持つ。月岡所長の「横浜のランドマーク的な建物の一つに携われたのは誇りです。しかも、今回の大改修でグレードアップし、横浜アリーナがさらに活況を呈していけば言うことはありません」との感想は、既存施設の成長に貢献した建設人の素直な感慨でもある。

右から月岡所長、高橋主管、松浦主任

設備を一新、音響もより向上

 

 愛称「ヨコアリ」。第三セクター方式による国内有数の規模を誇る多目的ホールで、開業は1989(平成元)年4月。最大収容人数は1万7000人。横浜市民にとっては、毎年1月に全国最大規模で開かれる「成人の日を祝うつどい」の式典会場として定着している。主用途は国内外の人気アーティストらによるコンサートだが、テニス、卓球、バレーボール、バスケットボールなど球技やボクシング、総合格闘技、プロレス、大相撲巡業といった各種スポーツイベント、運動会、展示会、企業催事など多岐にわたる。
 うちコンサートは、こけら落とし公演と開業30周年記念公演を松任谷由実さんが行ったほか、神奈川県ゆかりのサザンオールスターズとそのメンバーである桑田佳祐さんの大みそかカウントダウンライブは恒例で、地元横浜市出身のフォークデュオ、ゆずは“聖地”としてデビュー以来ライブを行い、音楽アーティストの公演日数最多記録を持っている。
■可動観客席、3ヵ所の搬出入口
 横浜アリーナがわが国で開業以来30年以上、多目的ホールの代表格であり続けている理由の一つに、音響が良く、設備機器が充実していること、新幹線やJR在来線、市営地下鉄、羽田から30分圏の高速バスなど交通ターミナル「新横浜駅」から徒歩5分という立地がある。加えて、ステージの位置や1万1000席もの観客席などホール内部の形状を、コンピューター制御で自由自在に変えられる「ラムダシステム」も見逃せない。メインアリーナの床下に収納している可動式客席ユニットを昇降させることで、イベントの企画・演出に合わせてステージの位置や観客席を3時間程度で自由にレイアウトできるという優れもので、使用者に評判のシステムである。
 また、機材等の搬入口が建物3面に各1カ所、計3カ所あるのも特徴の一つ。11tトラックが直接ホール内部にまで乗り入れできるため、搬出入の手間が軽減でき、コスト面の競争力も高い。
 管理運営を担うのは第三セクターの株式会社横浜アリーナ(株主は西武鉄道を筆頭に、横浜市、キリンホールディングス、アミューズ)で、建物はSRC一部S造5階建て塔屋1層延べ4万5800㎡、最高高さ29.80mの規模。竹中工務店の設計・施工で1987年4月に着工し、89年2月に竣工した。

■施設の長寿命化に対応
 平成とともに歴史を刻み、来場者数は累計5295万人(2022年3月31日現在)を誇るが、営業をしながら可能な比較的小規模な経年対応の設備更新、利用者の快適性や利便性向上の対応をしつつ、16年には開業以来初となる半年間の休業を伴う大規模改修工事を実施。1月から6月末を工事期間に、誘導サインの更新を主軸としたロビー・トイレの内装、照明器具のLED化、ユニバーサルデザインへの対応、建物外部の歩行者デッキ・正面広場・駐車場の改修などを行った。
 現在は、11年3月の東日本大震災を踏まえて改定された法規制などへの対応をメインとした、2回目の大規模改修工事が大詰めを迎えている。工事期間は22年1月から7月末まで。横浜市は東日本大震災後の基準に合わせた「天井脱落対策事業計画」の中で、横浜アリーナを他の施設などとともに「災害時に最も重要な拠点」として位置づけており、今回の大改修では吊り天井の耐震化、いわゆる特定天井の軽量化をはじめ、空調設備や屋上防水の更新、外壁補修などを実施中だ。
 横浜アリーナは、イベント会場である半面、災害時には帰宅困難者の一時滞在場所となる公共施設としての顔もあり、大改修により施設の長寿命化が図れ、より安全・安心な施設に生まれ変わる。設計・施工および2回の大規模改修工事も竹中工務店が担当。8月には新装のお披露目として、ゆずの公演が予定されている。

◆工事概要
▽工事名称=横浜アリーナ大規模改修工事
▽工事場所=横浜市港北区新横浜3-10
▽建築主=横浜アリーナ
▽設計者=竹中工務店東京一級建築士事務所
▽工事監理者=竹中工務店東京監理一級建築士事務所
▽施工者=竹中工務店横浜支店
▽主な工事内容=天井軽量化(メイン・サブアリーナ、エントランスロビー)、LD上部落下防止ネット張り替え、屋上防水更新、吊り荷重強化・プログラム更新、場内調音材更新、外壁タイル打診調査・補修、正面スクリーン設置ほか
▽工期=2022年1月12日-7月31日

              



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