【記念シリーズ・横浜市公共建築】第47回 横浜BUNTAI 横浜武道館/良きレガシーを継承 | 建設通信新聞Digital

4月29日 月曜日

横浜市公共建築100年

【記念シリーズ・横浜市公共建築】第47回 横浜BUNTAI 横浜武道館/良きレガシーを継承

 「ぶんたい」の愛称で親しまれた横浜文化体育館が、横浜市の横浜文化体育館再整備事業で生まれ変わろうとしている。同事業の中核施設となるのが、メインアリーナ「横浜BUNTAI」とサブアリーナ「横浜武道館」だ。横浜文体と、その隣地にある横浜総合高校の跡地が再整備事業の舞台。すでに横浜武道館は開館し、各種武道やバスケットボール、フットサル、体操、卓球、プロレスなどの会場として利用されており、横浜BUNTAIは2024年4月の開館に向けて建設中。斬新な意匠をまとったメインアリーナは、完成すると横浜の新たな名所の一つになること請け合いだ。

横浜BUNTAIの外観イメージ(提供:YOKOHAMA文体。設計中のため、建物の外観デザインは変更になる場合がある)

梓設計専務執行役員プリンシパルアーキテクト 永廣正邦氏
                    梓設計チーフアーキテクト 石成雅人氏に聞く

永廣氏

 横浜文化体育館再整備事業は、メインアリーナとサブアリーナを中核施設とし、それぞれの敷地内にホテルや病院といった民間収益施設の併設が予定されています。事業自体は、PFI事業のBTO(建設・譲渡・運営)方式で進められています。また、横浜文化体育館という名称には「文化」と「体育」が付いているわけですが、そのスポーツとエンターテインメントの両方の歴史をメインとサブの両アリーナで継承していくのが、われわれコンソーシアムの使命と考えています。

■キーワードは「人・文化・まち」
 設計に際しては、「地域に何を提案できるか」「地域に何が求められているか」など、まずはまちの課題を整理し構想をスタートしました。それに基づき、「人・文化・まち」の三つのキーワードを抽出し、それぞれを「つなぐ場」として施設コンセプトを掲げました。「人・文化」では集客力・発信力・コミュニティー、「まち」ではにぎわいと回遊性を生みだすことを施設づくりのポイントとしました。市庁舎跡地などの周辺エリアの開発が進んでいますが、本事業は関内と関外地区をつなぐ中核施設となることも目指しています。
 具体的には、市民利用はもとより、大規模な大会やコンサートなどの興行にも対応した施設整備により、スポーツ振興やさまざまなエンターテインメントの拠点として、にぎわい創出・地域の活性化につなげていきたいと考えています。

■視野差でモアレを起こす

石成氏

 メインアリーナ「横浜BUNTAI」は現在、1階部分が立ち上がった状態で、工事は2024年の開館に向けて急ピッチで進んでいます。建築のコンセプトである、まず、まちづくりの象徴として交流と集客を生む「シンボリックアリーナ」とすべく、みなと大通りに面した建物の風景を重視し、横浜らしい浜風になびく帆をイメージした唯一無二の外観としました。
 具体的には、2枚の外装スキン(外側はアルミ板に80mmの穴を14cm間隔で開け、内側は壁面に塗装された黒いドット模様)により生じる視野差で揺らぎ、いわゆるモアレによる印象的な風景を演出したいと考えています。
 港町ならではの特徴的な外観は、季節に合わせたライトアップによるこだわりの夜景と相まって、横浜の新景観が創出できればと思っています。

■大型ビジョン3面分を横長に
 次に、多彩な興奮と感動を生む「ハイパフォーマンスアリーナ」を実現する仕掛けの一つとして、壁面型大型ビジョン3面分(9:48)を横長に設置します。さらに、客席はステージを囲む扇形に配置し、いわゆる3方向からステージを見る劇場型アリーナとなりますが、可変性も考慮しており、演出面でも大きな威力を発揮します。さらに、これにより多様な興行に対応する「エンターテインメントアリーナ」、変化するまち・人のニーズへの対応、運用の自由度を高める「フレキシブルアリーナ」を具現化したいと思います。
 横浜BUNTAIは地上3階建て。1階はアリーナ階で、2階のメインは観客席となっています。3階はVVIP・VIP席(7室)などのプレミアムゾーンです。2階はロビーとラウンジのほか、体育室も配置します。また、3階のVVIP・VIPゾーンにはボックス席やカウンター席が設けられ、スナッキング(ゲームをつまみにそれぞれの観戦スタイルで飲食)できるホスピタリティーあふれる観戦環境をつくります。また2、3階レベルでは、飲食のサプライも可能な民間収益施設との連絡動線によりサービスの連携を図ります。

■市初の武道館
 サブアリーナ「横浜武道館」は、本格的な武道場を備えた横浜市初の武道館として市民の武道やスポーツ振興などを図る目的で横浜総合高校の移転跡地に建設されました。20年7月から開館しており、名称にちなみ各種の武道大会をはじめ、さまざまなスポーツ大会等に利用されています。
 設計では、横浜の武道の聖地として“ぶんたい”の精神性を継承すべく構想しました。デザイン的には、外観は切り立った屋根とし、その間に和の奥行きを導き出す、アルミに木目のプリントを施したルーバーを設置しています。また、武道場とアリーナが積層しているため、各ステイクホルダーの明解な動線分離、一般利用とイベント利用の併用、ユニバーサルデザインの徹底など細部に配慮した計画としました。
 さらに、環境面でも最大限配慮しています。太陽光などの再生エネルギーの活用や省エネルギ―機器の積極活用により、CASBEE横浜で最高のSランクを取得しています。

■新体操に対応した天井高さ
 施設は4階建てで、1階に武道場と多目的室があり、2階にアリーナ、3階に観客席・本部室、4階はラウンジで構成されています。武道場は固定の観客席503席を備え、広さは864㎡です。多目的室は189㎡で、控室として、あるいはスポーツや文化サークル、会議などにも使えます。アリーナは、新体操に対応した天井高14.5mで、広さ2622㎡。3階部分にも観覧席約1000席を備え、2、3階を合わせた最大収容人数は3000人となっています。

■メイン・サブの連動性
 横浜文化体育館再整備事業は、メインアリーナとサブアリーナの役割を明確に分けつつ、一体的に運営することで市民が「みる」「する」といった、あらゆるニーズを網羅するスポーツ拠点の創出を目指しています。その実現に向けて、両アリーナの連動性を図る目的で「プラザ」という広場とプロムナードの軸をつくりました。
 プロムナードはみなと大通りに接続し、大通公園につながるにぎわいの軸を形成します。具体的には、人々の往来を促し、にぎわいを連鎖させられるような小さな居場所を点在させます。それぞれの居場所に置かれたファーニチャー類は建物のファサードと統一感のあるデザインとする計画です。
 また、人々をアリーナに導くプラザは、かつての横浜文体が歩んできた歴史を感じながら、これからアリーナで行われるイベントへの高揚感を高められる、大階段につながる広場となっています。そのプラザは、日常的には憩いの場として、またイベント時にはキッチンカーやテントを設置することができるにぎわいの場として、人々をやさしく迎え入れます。このように横浜BUNTAIと横浜武道館の整備・建設のポイントは、まちなかでの市民の居場所を創出するところにあります。何度でも来たくなる施設に育てたいと考えています。

横浜武道館

地域発展の先導役/YOKOHAMA文体 代表取締役 寺木 節太郎氏

 YOKOHAMA文体は19社で構成するコンソーシアムで、PFI事業であるメインアリーナ「横浜BUNTAI」とサブアリーナ「横浜武道館」の再整備事業の代表企業を電通が担っています。このうち、横浜武道館は2020年7月24日に先行して開館しており、横浜BUNTAIは24年1月の竣工、同年4月の開館を目指して鋭意建設中です。いずれも横浜市の「横浜文化体育館再整備事業」として一体的に進められています。
 横浜文化体育館は、「ぶんたい」の愛称で横浜市内外の多くの人に親しまれ、中でも横浜市民なら誰でも知っているほどのレガシー施設ですが、市民投票や有識者の意見などを踏まえ、その名前はメインアリーナの横浜BUNTAIに受け継がれました。また命名に際しては、地元への愛着が表れ、市民の思い出の場としてレガシーを継承するとの思いが込められています。
 関内駅周辺では、「国際的な産学連携」や「観光・集客」のテーマに基づく拠点整備を実施しており、その中で、大規模スポーツ施設の機能強化を核に「スポーツ・健康」をテーマとした取り組みである横浜文化体育館再整備事業についても推進しています。それに沿って、われわれコンソーシアムにはにぎわいを創出するために二つの施設をつくるというのが共通の上位概念となっています。
 例えば、横浜武道館は、バスケットボールや体操、卓球、フットサル、プロレスのほか、コンサートなども行えますが、市民が実際にスポーツして楽しむことを主眼としています。一方、横浜BUNTAIの一番大きな目的はプロスポーツなどトップレベルのスポーツ、コンサートなどエンターテインメントを市民がみて楽しんで感動を味わっていただくことを主眼としています。両施設は交差点を挟んで近接しているので、将来的にはその立地特性を生かして、一体活用したスポーツやコンサートなどを交えたフェスティバル的なものも検討していきたいと考えています。
 横浜BUNTAIが立地している関内・関外エリアは現在、市庁舎が移転して寂しくなっています。しかし、この地域は歴史を紐解くと、短い期間でトランスフォーメーション(変遷)した魅力的なエリアであることがわかります。現状、市庁舎跡地の複合施設は26年春のグランドオープンが予定されており、エリア内では、みなと大通りの歩道の拡幅事業などが横浜市により進められています。来年には関東学院大学の新キャンパスも開校します。その中にあり、私たちの横浜文化体育館再整備事業は、横浜市が描く新たな変遷の先導役として、地域の魅力向上に施設運営を通して貢献したい。言い換えますと、スポーツ・文化の中核施設として地域を盛り上げていきたいと考えています。
 関内駅周辺の地区全体に「国際的な産学連携」や「観光・集客」機能を集積し、にぎわいあふれる地区とするというベクトルは、私たちコンソーシアムも共有しており、市とはとても良いリレーションが形成されていると感じています。横浜BUNTAIの建設は来年、佳境を迎えますが、私たちの再整備事業は、施設を建設して終わりではなく、完成後が本番です。そして、横浜BUNTAIは、関内および関外エリアのにぎわいをつくり出す起爆剤になれる施設です。期待してください。

■工事概要

〈メインアリーナ(横浜BUNTAI)〉
▽所在地=横浜市中区不老町2-7
▽建物用途=観覧場
▽敷地面積=約1万0057㎡
▽構造・規模=RC一部S造地上3階建て延べ約1万5453㎡
▽観覧席数=約5000席
▽アリーナ規模=アリーナ64×40m(最大部分)、体育室34×19m
▽事業発注者=横浜市
▽建築主=株式会社YOKOHAMA文体
▽設計=梓設計・アーキボックス・大成建設設計共同企業体
▽監理=梓設計・アーキボックス設計共同企業体
▽施工=大成建設・渡辺組建設共同企業体
▽工期=2022年1月25日-2024年1月31日

〈サブアリーナ(横浜武道館)〉
▽所在地=横浜市中区翁町2-9-10
▽建物用途=観覧席付きスポーツ練習場、集会場
▽敷地面積=約5702㎡
▽構造・規模=RC一部SRC・S造地上4階建て延べ約1万4981㎡
▽観覧席数=約3000席
▽アリーナ規模=アリーナ69×38m、武道場54×16m
▽事業発注者=横浜市
▽建築主=株式会社YOKOHAMA文体
▽設計=梓設計・フジタ設計共同企業体
▽監理=梓設計
▽施工=フジタ・馬淵建設特定建設工事共同企業体
▽工期=2018年8月1日-2020年6月30日

  



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