【省力化・生産性向上・渋滞解消も】関東地方整備局の地下工事でデジタルツインが加速中 | 建設通信新聞Digital

5月18日 土曜日

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【省力化・生産性向上・渋滞解消も】関東地方整備局の地下工事でデジタルツインが加速中

 3次元データを使って現実世界を仮想空間で再現するデジタルツイン。この技術を使って主要地下埋設物を一元化した3次元モデルを構築する取り組みが始まっている。国土交通省が推進する「国土交通データプラットフォーム」整備計画の流れをくむもので、未知の地下空間をフィールドに関東地方整備局が実装に向けた検討を深化させている。2020年度は前年度の成果を踏まえ、いよいよ現場での実証をスタートする。“新たな価値の創造”に向け、同局の原田駿平企画部企画課長に事業が秘めるポテンシャルなどについて聞いた。

 国交省は、官民の保有するデータを連携し、デジタルツインで業務の効率化やスマートシティーなどの施策高度化、産学官連携によるイノベーションの創出に向けたプラットフォーム整備を進めている。

 このうち関東整備局はユースケースとして「地下埋設物の3次元モデルの構築」を検討している。革新的な業務の効率化が目玉だ。

 現在は、工事起因者が地下工事のたびに地下埋設物の各管理者(電気、ガス、通信など)に埋設照会や管理図面の提供依頼などを個別に行っている。また、各管理者の多くが工事ごとに立会業務を行うなど、多くの時間と労力を費やしており、効率化の余地が多く残されている状況だ。

 各埋設物管理者が工事の影響を3次元モデル上で確認することができれば、埋設照会・立会業務の省力化につながる。また、3次元モデルを使って工事予定を共有・調整し、地下工事を同じタイミングで施工することも容易となり、生産性が向上する。結果として工事数や通行止めが減り、渋滞の減少や市民の安全に寄与するなどの効果も期待できる。

横浜市関内エリアのデジタルツイン

◆管理者の協力に感謝
 19年度から本格的な検討を開始した。対象エリアは、横浜市の都心臨海部にある関内地区とみなとみらい21地区。原田課長はこの地区を選んだ理由について「1つは横浜市のオープンデータが進んでいること。また、スマートシティーの取り組みを先進的に進めている自治体であるため」との考えを示す。「地元横浜市や各インフラ事業者の協力があったからこそできた」と感謝する。

 続けて「埋設物管理者によっては3次元データを持っているところもあったが、おのおのいろいろな形式の図面・データで管理していたので、地道な作業で図面・データをうまく組み合わせる必要があった」と苦労を明かすが、関連業務の受注者のエヌ・ティ・ティ・インフラネットと連携しながら19年度に3次元モデルを何とかつくり上げた。

 今後はインターネット地図と同じような使い方で3次元化した埋設物の管路を、街を俯瞰(ふかん)した状態からピンポイントのズームや角度を変えて閲覧できるように操作性を向上させることや、マウス1つの操作で対象設備の離隔演算も可能とするなど、人間には見ることができない未知の地下空間をパソコン上で再現することを目指している。

3次元空間で対象設備の離隔演算が可能

◆協議時間が9割減も
 あくまでも机上計算だが、工事起因者や埋設物管理者が同モデルを活用することで埋設照会にかかる時間を約8割、協議にかかる時間を約9割、立会にかかる時間を約7割削減できると推定する。さらに共同施工が増えることで、施工にかかる時間も約5割削減できるといった省力効果を推定している。

 より効果の妥当性を確認するために20年度は地下3次元データを活用するモデル工事を予定するなど、実装段階にまた一歩近づける。原田課長は「今年度の業務で今後の他都市への展開の足掛かりになるような成果を出せれば」と考えており、「各埋設物管理者の考え方などを踏まえた3次元データの共有や更新方法について検討するとともに位置情報の精度や掲載するデータの形式などについて標準化を検討する」と力を込める。

 さらに「3次元データを自動的に更新・運用していく仕組みをつくっていく必要がある。サービス自体を維持管理する仕組みも必用」とし、実現に向けては「官民の連携もあり得る」と持続可能な仕組みづくりにも注力する。

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