【BIM未来図・教育現場から(下)】「つながり」が可能性を広げる/クラウドで情報共有し課題作成 | 建設通信新聞Digital

4月17日 水曜日

B・C・I 未来図

【BIM未来図・教育現場から(下)】「つながり」が可能性を広げる/クラウドで情報共有し課題作成

 「学生たちの目標になる学内コンペティションを開催してもらえないか」。BIMソフト『Archicad』を提供するグラフィソフトジャパン(東京都港区)で大学や専門学校など文教施設向けにプロモーションやアフターケアを担当している川井達朗シニアプロダクトマネージャーのもとに、麻生建築&デザイン専門学校(福岡市)から突如依頼が寄せられた。「当社が日本国内で設計コンペを主催するのは非常に珍しいケース。話を頂いた時は少しびっくりしてしまった」と川井氏は振り返る。

最優秀作品
(写真提供:グラフィソフトジャパン)


 新型コロナウイルス感染症の拡大で学生が参加可能な設計コンペの中止や開催延期が相次ぐ中、同校講師の道脇力氏が「学内だけのBIM設計コンペを開きたい」と九州・沖縄地区を担当する同社シニアセールスマネージャーの伊佐野寛氏に相談したのがきっかけだった。この思いをくみ取ったグラフィソフトジャパンは急きょ、コンペの開催を決めた。

 コンペの課題は「銭湯+コミュニティスペース」に決まった。銭湯は川井氏が提案、道脇氏がコミュニティースペースを付加するアイデアを持ち寄った。「いまの学生に馴染みのない銭湯にあえてフォーカスすることで、自分たちが住む地域や対象とした地域・環境に着目する機会になれば」と川井氏。道脇氏も「学生たちがコミュニケーションをとりながら課題に挑戦することだけを求めた。自分自身で調べることの楽しさを知ってもらいたかった」と説明する。

 また、参加の条件として2020年10月からスタートした新サービス『EDU.BIMcloud』の活用も求めた。これはArchicad教育版のユーザーに向けたクラウドシステム『BIMcloud』を活用したもので、コンペに参加した学生たちは全員EDU.BIMcloudのチームワークプロジェクトで情報共有しながら課題制作に取り組むことができる。

 20年12月のコンペ最終選考では1次審査を通過した上位4チームがプレゼンテーションで競い合った。審査は同社のコバーチ・ベンツェ社長とマーケティングサクセスディレクターのトロム・ペーテル氏、カスタマーサクセスディレクターの飯田貴氏が当たり、オンラインで対応した。最優秀賞には福岡県内にある廃業した酒蔵をスケルトンリフォームして銭湯に転用し「日本酒を堪能できる大人のための銭湯」を提案した建築CAD科の泉尚希さん、田籠由樹さん、高良拓実さん、キム・エニさんの「チームアダルト」が選ばれた。コバーチ社長は「既存の酒蔵を保存活用する計画に加えBIMモデルのレベルも非常に高く最優秀に選んだが、4作品ともハイレベルで、順位を付けるのは本当に難しかった。これからもBIMツールで創造力を発揮し、良い建築をつくり続けてほしい」と学生たちにエールを送った。

 チームリーダーを務めた泉さんは「これまで学校でしかできなかった作業が、インターネット環境さえあればどこでもできる。チームワークのおかげでみんなが効率的につながり、作品をより良いものにしようというモチベーションになった」と制作の過程を振り返り、田籠さんは「自宅で作業していても1人じゃないって実感できた」と語った。高良さんとキムさんも「どちらかと言えばこれまでBIMが苦手だったが、チームワークのおかげで楽しく課題に取り組むことができた」(高良さん)、「学生時代最後の良い思い出になった」(キムさん)とそれぞれ喜びを口にした。

 学生たちのプレゼンテーションを聴き終えた道脇氏は「これからも学生の目標となる企画を考えていきたい」と笑顔で話した。建築の新たな可能性に向け、BIM教育を通じた麻生建築&デザイン専門学校のひとづくりは、まだ始まったばかりだ。

最優秀賞に選ばれたチームアダルト。左から高良さん、泉さん、田籠さん、キムさん (写真提供:グラフィソフトジャパン)

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